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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
ワーケーション『普通の学生生活でコツコツレベルアップ』
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第234話 力を得るということ

「はあ、はあっ、ううっ、まだ魔力が供給される、止まらない……!」


 急におっぱいがデカくなったリズールさんは、

 顔を赤面させて苦しそうに息を荒げる。

 私は半分は心配、半分は物珍しさと興奮と興味本位で話しかけた。


「わあ、すごい、わ、リズールさ」


「ら、ライナさま……!

 ごめんなさいっ、止めるにはこうするしか!」


 ガバッ――むにゅっ。

「ぐむっ!?」

 彼女に頭をつかまれ、そのでっかい胸ぐらに押さえつけられる私。

 そこから優しく流し込まれるのは母性と似た大いなる神の魔力。

 私の全身に満ちる「あなたを愛しています」というリズールさんの慈愛。

 真の幸福があった。


 ぽわわわわ――

「むふう……」


「はあ、はあッ、ごめんなさい、ごめんなさいっ!

 私にはこうするしか、もう自分で魔力を制御できない――!」


 リズールさんは謝罪しながらもやめる様子はない。

 なんだこれ幸せすぎる……と思ったのもつかの間。


「むぐぐ……む?」


 次は急に、他人の存在が意識できるようになった。

 周りにいる友人や西園寺家ではなく、

 住んでいる世界と環境がそれぞれ違うだけの自分自身。

 彼女たちは私と無意識下につながっていた。

 いや、それでも説明が足りない。これは――


「んあああ……っ!」


 ぽふんっ、むぎゅぐぐぐ……

 リズールさんの艶声とともにさらに強くハグされ、押し込まれる私。

 今度は頭の中に宇宙が放り込まれたように、

 世界が立体で見えるようになる。


 これが本物の世界。本物のおっぱい。

 雷撃が落ちてきたような、超がつくほどの衝撃。

 ドォォン……シュオオオ……

 ビックバンから銀河誕生までの幻聴BGMを聞きながら、

 私は「自我」を獲得した気がした。

 数十年もの社畜生活という「苦行」によって殺された心に眼光が宿る。


「はあ、はあ……ライナさま……、ご迷惑をおかけしました……」


「ぷはあ……」


 と謎の悟りを開いたところで開放される。

 リズールさんの乳の肥大化は巨乳程度に収まったようだ。

 まあ私が小ぶりに見えるほどのサイズだが。

 いやあ、でっかい。

 しかし私の考えとは別に、口ではこう口走った。


「性欲が、鍵だ……」


「モル?」


「私はアリス先生と会わなきゃいけない」


「あとでよくないモル?」


「彼女の胸に飛び込めばもっといろんなことが分かる気がする」


「ええ……?

 あっ、よ、夜見さん! 鼻血出てるモル!」


「え? あ……」


 ふと気がついて顔を拭えば、鼻から鮮血が流れ出ていた。

 ポタ、ポタと流れる自分の血を見て生を実感する。

 魔法少女はエモ力――感情がエネルギー源。

 過剰なまでのエネルギー供給は私たちの肉体すらも壊すのだ。


「魔力の影響がこんなところにも」


「ラッキースケベで異常興奮しただけモル!」


「そうなんだ……」


 視界が霞み始める前に、

 心配そうな表情でおろおろするリズールさんを見て、

 ああやっぱこの人好きだわと思いながら仰向きにぶっ倒れた。


「あ、ああ、ライナさま……――」


 推しに看取ってもらうってこんな感じなのかもしれない。



 数刻後、私は目覚めた。

 夜見ライナのいた世界ではない、

 山田さん――魔法少女ラブリーアーミラルが立っているどこかの廃墟の協会で。

 魔法少女のコスチュームに身を包んだピンク色の彼女は、

 今にも崩落しそうな天井から差し込む陽の光を浴びながら、

 目が覚めたばかりで影にいる私に冷たい視線を向ける。


「ねえ今どんな気分?」


「どうって……」


「ママに甘えられて幸せでちたか?

 本当のママはこんなことしてくれなかったもんね」


「――ッ!」


 私はムッとして立ち上がる。

 すると私の背中にも温かい日の光が当たった。

 熱く感じることに驚いていると、

 真剣な表情の山田さんはすでにマジカルステッキを取り出していた。


「いつまでプリティコスモス(わたし)から逃げるの?

 敵怪人や魔物との戦いから逃げて、

 救えるはずの命から目を背けて、

 あげくの果てには魔法で楽に金を稼ぐことを生きがいにして。

 あなたの思い描いていた最高の魔法少女は、

 そんな暗い欲望にまみれたクズだったの?

 ずいぶんと落ちぶれたね」


「それは……その、先立つものは金じゃないですか!

 マジカルステッキの修理費だとか、その、

 私は周りの人より無いものが多いんです!

 だからお金を稼ぐのは大事……ですよ」


 そう言い切って制服のスカートの裾を掴む。


「ですから、もっと私に優しくして下さいよ……

 今どきスパルタ教育なんて流行らないです……」


「分かった。……じゃあはっきり言うね」


 山田さんはステッキをこちらに向けた。

 とても怒った顔で、舐め腐ったことを言うなとばかりに。


「私はあなたに宿っている固有魔法。

 エモーショナルエネルギーが魔法少女の力の源なら、

 固有魔法は存在の核。

 あなたが魔法の使えないただの人だった頃の努力の結晶が、私。

 そうやって世界平和のために尽くす意思を放棄すると、

 私は、

 固有魔法「ギフテッドアクセル」は自然消滅してしまうよ?」


「そんな、なんでですかぁ……

 ちょっとくらい楽してもいいじゃないですか……」


「あなたの怠惰を許せないのはあなた自身。

 私はあなた。あなたの本心の部分がすごく怒っている。

 その辛くて苦しいって弱音を吐いているのは本当にあなた自身?

 どこで計画が狂ったのか、胸に手を当てて思い出してみて」


 山田さんはステッキを抱きしめるように胸に手を当てる。

 対して吠えるように私は叫んだ。


「そ、そんなこと言われても無計画なんで分かりませんよ!

 魔法少女のいる世界は私が思っていたよりも、

 ……あまりにも魔法を悪用する人間に対して無力で、無秩序で!

 善と悪が混ざり合って存在しているのが当たり前で!

 こんなところじゃ自我を保つだけで――」


「なんだ。あるじゃん「自我」。

 じゃあ何をすればいいか、分かるよね?」


「え? あ、ああ……あああ!

 だから私が選ばれた!? 私は秩序をもたらせばいい!?」


 私の反応に、やっと気づいたと嬉しそうに笑う。

 彼女はちょいちょいと可愛く近づいてきて、

 自分のステッキをぐいっと押し付けた。


「可憐銀河すなわちユニバース。

 マジカルステッキはソレイユ防衛隊の証。――託したからね。

 私たち魔法少女は、地球の平和と秩序のために力を行使する者。

 でも神様じゃない。

 私たちを拒絶する人もいるし、すべては守りきれないの。

 世界が壊れないように守ってあげてね」


「……はい! 先輩!」


 マジカルステッキを受け取ると、

 ニコッと笑った山田さんは天使のような美しいエモ力の翼を出し、天高く飛翔。

 空の向こうに見える黒い空間の歪みへと飛んでいった。

 それと同時に彼女から手渡されたステッキが輝き出し、

 私をまばゆい光に包み込む。

 ステッキから山田さんの遠隔通信音声も聞こえた。


『これからあなたの魂を元の座標に戻すね!

 ……急な偶然だったけど、あなたと話せて良かった!

 これで私は正義を続けられる!』


「私たちってことは、複数ですよね!?

 みなさん一体どこで戦ってるんですか!?」


『――天津神星(あまつかみほし)!』


「それって……うわ!?」


 光が強まると同時に、

 私の視界は裏世界に入った瞬間のようにぐるんと回り、

 そのまま意識も途切れた。



 次に意識がはっきりした時にはどこかの喫茶店の中だった。

 オレンジのモルモットフェイスが視界の上から見える。


「……ん、ん?」


「あ、起きたモル。おはようモル夜見さん」


「ここどこですか!?」


 ガバッ、ピューン――

「モルぅ~!?」

 私が慌てて身体を起こすと、

 おでこに寄りかかっていたダント氏が勢いよく前方に吹き飛ばされる。

 彼は給仕服姿のヒトミちゃんにキャッチされて無事だった。


「大丈夫でございますか!?」


「ハァハァ、今、生まれてはじめて死の危険を感じたモル……」


「ダントさん! ここどこですか!?」


「喫茶店デミグラシアだモル!

 急に鼻血を出して倒れたから慌ててここに転送して、

 応急手当をしたモル」


「あう」


 鼻を触ればふわふわの絆創膏が貼ってあり、

 おでこには冷えピタ、喉にはアイシングという処置が施されていた。

 ヒトミちゃんからダント氏を貰い、

 謝罪のナデナデをしながらおそるおそる聞く。


「ええと、他のみなさんは?」


「いや、夜見さんはなにも聞かなくていいモル。

 このまましばらく休むモル。

 また鼻血を出して倒れられたら困るモル」


「鼻血クセついたら困りますよね。大人しくします」


「正しい判断モル」


 私は喫茶店デミグラシアのカウンター席にゆっくりと横になる。


「先んじて言うモルけど、

 次倒れたら救急車を呼ぶために玄関の近くにいるモル」


「わ、分かりました……」


 疑問に思う暇も与えてくれなくなった。

 絶対安静なようだ。

 本格的に魔法少女できなくなっちゃったなあと思いつつ、

 山田さんが最後に教えてくれた「天津神星(あまつかみほし)」が気になって、

 一体どんな場所で、どんな戦いをしてるんだろうと、

 夜も眠れない気がした。


「私の好きなヒーローも天津神星にいるのかな……?」


「はあ、もしかしてまだ興奮して休めないモル?」


「は、はい!

 さっきラブリーアーミラルとお話する夢を見たんですけど、

 ドキドキ興奮してます!

 そこに行けば会えるのかな~って!」


「しょうがないモルねぇ……これで気を紛らわせるモル」


 ダント氏はポーチをまさぐり、

 意匠にこだわった金色のスマホカバーを取り出した。

 私の白いマジタブに付けると金の額縁がついたよう。ピカピカだ。


「それは?」


「ソレイユ領主の証モル。

 黄金のワンエーカーで一定サイズ以上の果樹園を作ると、

 大護符結界「天津神星」――正式名称は「黄金都市ソレイユ」への入場許可証として、

 このビカビカのスマホカバーが送られるモル。

 実は僕たちのいる現実世界はこれでも被害の少ない安全な修行の場で、

 現場で言うと最後方なんだモル」


「まだ序の口なんだ……」


「さらにとても重要な機能が追加されたモル」


「とは?」


「自分の人生に新しい自由特権(オプション)を追加する「ステータス」機能モル」


「ステータス機能」


 ダント氏がマジタブを開くと、

 「ステータスを選択してください」というメッセージが表示された。

 タップすると、数万ページにも及ぶ選択肢が現れる。


 現実では取得のために猛勉強が必要な各種難関資格――

 弁護士免許や医師免許がチェックリストひとつで所持できるようになり、

 他にも「世界中の遊園地を一生タダで遊べる権利」や、

 あくどい人間が考えそうな「他人の思考を操れる権利」「洗脳奴隷化」などなど、

 無法に近い特権が用意されていた。

 私は驚いてぎょっとする。


「ちょ、ちょっとまって下さい。

 こんなのアリなんですか?」


「夜見さんはもうこの無法をまかり通せるほどの権力者になったモル。

 社会階級で例えると大企業を取りまとめる取締役会の会長。

 光の国ソレイユについてのあらゆる意思決定権を持っているモル。

 いつまで経ってもその自覚が薄いモルから、

 荒療治もかねて、夜見さんが罪に問われない特権をぜんぶ見える化したモル」


「ぜんぶって……まさか選択しなくてもすでに所持してるんですか?」


「そうモル。いますぐに用意されるモル」


「わあ私の権力すごい……」


 権力者の世界は奥が深すぎる。法律的にも物理的にも。

 ダント氏は改めて「また鼻血がでたら困るから早く休むモル」と言い、

 私にマジタブを渡してソファーに寝かしつけた。

 暇を持て余した私は、自分が持っている特権を眺めてみることとする。

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