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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
フィールドワーク.3『裏世界「天津魔ヶ原」探索 ~西園寺家を再興するまで終われません~』
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第219話 おじさん、争奪戦の自陣営に勝利をもたらす

「プリティコスモス! 最後のアドバイスだ!」

「!?」


 森の中をともに駆け抜けながらライブリさんが言う。


「俺は争奪戦運営側の人間だ! 彼らに忖度するために緊急参戦している! 君の周囲に集まった人たちも忖度せざるを得ない状況にある! 何も信じるな!」

「そうなんですか!?」

「一つでも発言や行動を間違えると詰みだぞ! エンゲージ!」


 バッと飛び出した先では技術支援チームのみんながバーベキューをしていた。

 ナターシャさんや天使ちゃんさんは串焼きをもぐもぐ食べながらこちらを向き、すっと横を指差す。焼き係をしているダント氏だ。

 ダント氏は深い屈辱を味わっているような苦悶の表情だった。

 この一言で彼や私たちの進退が決まるというのなら、私はこう言おう。


「ダントさん! プリティコスモスの報酬改定の件で話があります!」

「……も、モル!? ほ、本物の夜見さんモル!?」

「もし五百億円で大事な何かを売ろうとしているなら! それを今回と今後の報酬として私に下さい! 次回以降は要相談でいきましょう!」

「そ、それは本当かい!?」


 驚いたとばかりに願叶さんが声をあげた。

 待ってましたとばかりにニッコニコの表情でマスクを下ろした赤城先輩が叫ぶ。


「夜見ちゃん! どうしてお金より大事だって言い切れるの!?」

「な、なぜなら裏世界「天津魔ヶ原」は私のモノだからぁぁ~~~~――――ッ!」

「わお所有権の開示! よく言えた! ここは夜見ちゃんのための世界だ~!」


 我ながら意味が分からない声明だ。

 赤城先輩はマジタブを取り出し、シュポポポポと高速でメッセージを送る。

 そして返信が来る前にマジタブを投げ捨てた。

 私は続ける。


「話を戻しますが!」

「あ、うん」

「香川裏世界である「天津魔ヶ原」の表参道門を開いたのが私で、しかも天津魔ヶ原を維持するためのエネルギー源には、私の身体に宿っている龍脈の神気が今も使用されています! そして私は西園寺家の家長になることが決まった! だから私は香川裏世界「天津魔ヶ原」の地主である! 地主の許可なくイベントを開くのは法令違反です! 顔見せもしないやつに場所を貸す義理はない!」

「そうか借地権(しゃくちけん)! 天津魔ヶ原全体を建造物とすることで夜見ちゃんの許可なく営利活動を行うことを不可能にする! 考えたね!」

「次は呼吸する権利を奪います! 争奪戦運営がいるなら顔見せしてください!」


 全員が押し黙り、ダント氏を指差す。

 いつの間にか彼の背後には真っ黒な悪感情が沸き立っていた。

 それが顔と口を作り、なにか言おうとした瞬間に私はこう言う。


「動物愛護法違反です。喋りたいなら五百万円の罰金を支払ってください」

『……』


 黒い悪感情は罰が悪そうに尻込みし、逃げようとする。


「逃げたら逃亡罪になります。懲役刑が課せられますよ」

『……!』


 悪感情は何も出来なくなった。詰みだ。


「さらに言えば住居侵入罪、恐喝罪と軽犯罪法の窃視でこの場に居なくても有罪確定ですし、人権侵害や名誉毀損罪による民事裁判でこの場にいる全員にあなたを責める権利があります。争奪戦運営委員会は全員犯罪者です。覚悟はよろしいですね?」

『……! ……!』


 悪感情の全身がグニグニと蠢き、内輪もめを始めた。

 最終的にペッと吐き出されたのは十二歳くらいの銀髪美少女――フェレルナーデさんで、困惑しながら地面に倒れ伏す彼女を見るなりナターシャさんが口を開く。


「よお、アンネリーゼ。高みの見物は楽しかったかよ?」

「――ッ!」


 フェレルナーデはキッと相手を睨むも、私がいるので言葉を紡げずと言った感じ。

 すると天使ちゃんさんがハッと気づいたように相手へ近づいた。

 無言で戸惑うフェレルナーデをよそに、天使ちゃんさんは彼女を優しく抱きしめる。


「これで天使ちゃんの勝ち」

「?」


 ダダダダダ――

『アンネリーゼェェェェ―――――ッ!』

 そう叫んで森の奥から飛び出してきたのは二組目の乱入者。

 菜々子と瓜二つの顔と容姿の魔女――ミステリストの奈々氏だ。

 ストローが刺さった野菜ジュースを手に持った彼女は、天使ちゃんごとフェレルナーデさんに組み付き、フェレルナーデの口に野菜ジュースのストローを差し込んでギュッと絞る。


「サア飲め! お前好きだろこの野菜ジュースがよぉ!」

「……?」


 抵抗する気もなく、ごくごくごく、と野菜ジュースを飲んだフェレルナーデは、何がしたいのとばかりに首を傾げた。

 ジュースが空になった瞬間に全員がバッとフェレルナーデから距離を取る。


「これよりミステリストの設定を開示する!」

「「「!」」」


 奈々氏が叫んだ。


「ミステリストとは! キングオブミステリストという玉座を狙って争う戦士たちの総称である! 先ほど飲ませたのはミステリストエキス! 飲むと思考がミステリストと同じになる!」

「?」


 だから何とばかりに肩をすくめるジェスチャーを行うフェレルナーデ。

 奈々氏はクックックと笑った。


「ちなみにミステリストはバカという意味よ」

「!? ゲッホゲホエホ」

「慌てて吐き出そうとしても遅いわ。あなたには純度百パーセントのミステリストエキスを飲ませた。あなたがキングオブミステリストよ」

「ふ、ふざけるな! 私はバカの王ではない!」

「話しかけないでバカが伝染(うつ)るわ!」

「おまえ――ッ!」


 フェレルナーデはゴウっと身体からエモ力を出し、奈々氏に殴りにかかる。

 しかしコメディ漫画のように手で顔を抑えて止められた。

 行場を失った拳だけがぽこすこと空を殴る。


「くっ、ど、どうして届かない……!」

「ミステリストエキスは一日経てば効果が切れるわ。今は去りなさい」

「ち、チクショー!」


 奈々氏からすぐさま距離を取ったフェレルナーデは、異空間から取り出した魔女の箒で空に飛び立つ。ナターシャさんは笑いながら煽った。


「また逃げ癖が出たなぁアンネリーゼ!」

「違うこれは戦略的撤退だ! ちくしょう覚えてろー!」


 そこに気を取られたせいで異空間をしめ忘れたからか、ポロポロとアイテムを落としながら逃げていった。

 ナターシャさんの近くには黒いスマホが落ちてきて、彼女は拾うなり、ぱあっと笑顔になって飛び跳ねて喜ぶ。


「見てみて! 大事なもの取り返せた! 私のスマホ!」

「良かったねぇなっちゃん!」


 天使ちゃんさんにギュッと抱きしめられ、二人は幸せそうだった。

 こっちの対処はもう大丈夫だ。


「それより……」


 アンネリーゼに気を取られて姿を見失った悪感情を探す。

 それは私の足元で小さく丸くなっていて、よく見れば土下座だと気づいた。

 だからただ――――ライブリさんの「何も信じるな」という言葉を信じる。


「……あなたは争奪戦運営じゃないですよね?」

『!』

「本物はどこですか?」


 足元の小さな悪感情はスウと横に飛んで行き、本体に吸収された。

 そちらにはダント氏がいて、彼の背後には未だに、大きく霧散して少しでも透明になろうとする本物がいた。

 見苦しいにもほどがあるが、斬る価値がない。

 私は菜々子を解放したことで空席になったバトルデコイ・ダークポーンを取り出し、先端を本物に押し当てる。


「ではシャインジュエル争奪戦運営委員会の皆様。先ほど述べた全ての罪と、その他余罪であなたたちを逮捕します。私のメイドにでもなって反省して下さい」

『――』


 弁解は聞かない。

 ダント氏の背後で蔓延っていた悪感情は、一片も残さず青い粒子になってポーンに吸い込まれてゆき、カチっと音を立てて封印される。

 ポーンの先から十字が出たので収容完了だ。

 アタッシュケースに仕舞うと、ようやく肩の荷が降りた気がした。


「よし、これで散々苦しめられてきた争奪戦運営の悪意との因縁は終わりです」


 正直言って虚無。

 復讐が意外と簡単に終わったので、これから何をしようかと考える。

 ふと周囲を見れば実感が湧いていない技術支援チームの方々が、私の解放宣言を待っていたので、魔法少女らしく振る舞った。


「悪は去りました! 私たちは自由です!」

「「「うおおお~~ッ!」」」


 大きな歓声が上がる。

 赤城先輩はマスクを外して振り回し、願叶さんは技術支援チームの面々と抱き合い、全員で嬉し涙を流しながらガッツポーズしていた。

 私の隣にいるダント氏はというと、戸惑うように周囲を見て、やがてお腹が空いていることに気がついたのか、バーベキューの焼きコーンを手に持ち、ガツガツと食べ始めた。そして泣き始める。


「うっ、うおお、お、美味しいモルぅぅ」

「ダントさん、お腹が空いて辛かったんですか?」

「さっきからずっと生殺しだったモル。お腹いっぱい食べてぐっすり寝るモル」

「ダントさんらしいや」


 技術支援チームが信頼できるかどうか、今しばらくは様子見するとして、私もダント氏とおそろいの焼きコーンを持ち、かぶり付いた。

 焦げた醤油が香ばしくてジューシー。

 とってもとっても美味。


「あ、そうだ。ライブリさんは……」

『ライナ』

「わあ菜々子?」


 背後の菜々子が一枚の手紙を渡してくれる。

 ライトブリンガーさんこと「ソレイユシルバー」からの手紙だった。


「君がピンチになったらいつでもどこでも駆けつける。また会おう……ですか。少年向けヒーローらしい振る舞いですね」


 ヒーローは見返りを求めない。

 でも多分、どんなヒーローも出演料くらいは貰ってる。

 お互いにビジネスだからだ。


「おーい! プリティコスモス!」

「わあナターシャさん!」


 少し走っただけで息が上がってしまう六歳幼女のナターシャさんは、とても嬉しそうな顔で私を見上げた。


「はぁ、はぁ、ふへへ……」

「なんでしょうか?」

「結社の勝利に繋がるナイスアドリブだった。手を出せ」

「はい!」


 パシンッ!

「「ヨッシャァァァ――!」」

 私たちはお互いの右手を思いっきり叩き合わせ、ようやく自陣営の勝利にうち震えた。

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