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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
フィールドワーク.3『裏世界「天津魔ヶ原」探索 ~西園寺家を再興するまで終われません~』
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第218話 おじさん、伏線回収される

 ブブブブブ……

「はぁ~マジカルステッキにこんな機能があったなんて~」


 私はマジカルステッキの底を肩に当て、心地よい振動を味わっていた。

 魔法少女の仕事が嫌になっていた理由のひとつとして、この発育の良いおっぱいに由来する肩こりがあった。

 毎日休みなしで夜見ライナとプリティコスモスを演じなければならなかったので、こういった健康器具を買いに行く時間がなかったのだ。


『プリティコスモス……』

「ん? 誰?」


 すると背後から聞き覚えのない……いや、ある感じの声がした。

 軽トラックには後部座席が存在しないので降りると、守護霊の菜々子に捕らえられた一体の黒いぼやぼやしたナニカが居た。


「菜々子それは何?」

『……悪い虫。だけどライナを幸せにする存在よ』

「話を聞くべきかな?」

『聞くとライナの物語が変わる。戦うよりも重要な使命ができるわ。どうする?』

「戦うよりも重要な使命……ねぇ菜々子~?」


 それってなぁに?という感じの顔できゅるんと見つめると、菜々子が答えた。


『西園寺家にはメイドが居ない。西園寺ナナには家族が居ない。理由が分かる?』

「なるほど?」


 黒いぼやぼやに関わるとその理由が明かされるわけだ。

 ……ちょっと思い当たったけど、いやまさかそんなワケがないと否定する。

 すると菜々子が言葉を紡いだ。


『ライナ、納得は堕落。疑問に思ったら聞いて』

「あー、もしかして、私が純潔を守らされたことと関係がありますか?」

『それは正解よ』

「わ、わあ……」


 緊張というか、ドキドキバクバクしすぎて全身に力が入らなくなる。

 全てを一言で表すなら、子作りすることを求められているのだ。

 理解したとたんに菜々子の掴んでいる黒いぼやぼやが、顔だけモザイクが掛かって分からない見知らぬメイドさんとして認識できるようになった。彼女は言う。


「プリティコスモス……どうか、西園寺家に恵みを」

『ライナは悩んでるの。待って欲しい』


 菜々子はメイドの口を優しく塞いだ。

 よく考えれば守護霊の菜々子は私専属のメイドであり、西園寺家の子孫だ。

 そして菜々子はかつて私だった存在である。

 つまりは、つまりは……


「し、質問です。わ、私は西園寺家に婿(むこ)入りすることができる?」

『婿入りどころじゃない。もっと凄いことになる』

「もも、もっと凄いこと!?」

『でもこれは、西園寺菜々子の望みであって、ライナが望んでいるか分からないの。納得できる選択を――』

「な、菜々子~?」


 もっと詳しく教えてよ~という感じで手を合わせてお願いする。

 菜々子はしぶしぶ、メイドの口から手を離した。

 謎メイドAはようやく言えるとばかりに口を開く。


「プリティコスモス。私たち七光華族に連なる名家のひとつだった、西園寺家の復興と再建にご尽力していただき、誠にありがとうございます」

「いえいえ」

「海外企業の策略や駆け引きで失ったモノは取り返せませんが、ゼロから作り直すなら誰もとがめないと知った西園寺ナナ様や同輩の華族はとてもお喜びで、きっかけを作ってくださったあなた様を、ぜひ血族に迎え入れたいと仰られています」

「それがつまり婿入りということ?」

「この先の説明を聞くと、あなたは一般人では居られなくなります」

「……」


 私は顔を赤面させながら、何も言えなくなる。

 ただ、と謎メイドAさんはこう言った。


「不思議に思いませんでしたか? 一般人だったあなたが、社会的地位や魔法を極めた様々なエリート血族が集まる聖ソレイユ女学院の魔法少女たちの中で、元は成人男性だったから以外の何の理由もなく歴代最高エモ値を記録するなんて」

「そ、そんな都合の良い話があると信じられるような人生ではなかったんです」

「でははっきりさせましょう。私たち西園寺家の家長になってください。あなたにはそれだけの才能と、開祖にも劣らないと証明した血筋がある」

「わあ、わああ」

「ここまで言わせたのです。もう後戻りはさせませんよ」

「あうわわわ……」


 私は脳が焼け落ちるような快楽を感じて、その場に膝から崩れ落ちた。

 こ、こんな奇跡が起こっていいのか!?

 何の意味も価値もないと思って生きていた人生が、逆転するような……!

 だったら、だとするなら――


「じゃあ、もう、もう我慢しなくていい、んですね?」

「そうですもう我慢しなくていい! 今のあなたは少年向けヒーローにもなれる!」

「え」

「ソレイユシルバーの相棒にふさわしいのは君だプリティコスモス!」

「そ、ソレイユしるばー……もしやあなたは!?」

「自己紹介が遅れたな!」


 ガバっと顔のモザイクを作っていた白いお面――ノーフェイスを外して顔を見せたのは、なんとメイド服姿の銀髪高身長美女!

 梢千代市で出会ったライトブリンガーさんだ!

 彼女……彼、ええと、ライブリさんは菜々子の拘束からニチアサのヒーローらしくシュバっと抜け出し、全てを安心させるような満面の笑みで私の前に降り立った!


「君だけの正義のヒーロー、九条霧夜だ。天津魔ヶ原で般若と名乗る悪い魔物に敗北したとの知らせを聞いて、急いで駆けつけた。君の力になりたい」

「わ、わあ~ありがとうございますライブリさん! 心強い!」

「それとは別件。西園寺家は君のための美女メイドハーレムを作った。俺や邸宅で待ってるメイドたちと本気セックスをして全員に君の子を孕ませてやって欲しい」

「はわわわわ……」


 私はぼふんと脳が沸騰して茹だち、耳まで顔を赤くしながら思考を停止した。

 ぼへーと頭上や口から白い水蒸気を出している感覚がする。

 ライトブリンガーは不思議そうに首を傾げた。


「? プリティコスモス?」

『エッチすぎて脳がキャパオーバーしたわ。少し肉体の主導権を奪うわね……』

「ああ分かった」


 すると菜々子が私の身体に憑依し、代理で動かし始める。

 私はそれを背後から眺めるような第三者視点で見ることになってしまった。

 返して~と言わんばかりに小さな霊魂になって菜々子の肩にくっつくと、菜々子はすくい取ってぱくりと食べてしまう。きゃー食べないで――


「ハッ」


 それこそ元に戻る方法だったようで、意識と視点が元の肉体に戻った。

 守護霊に戻った菜々子に撫でられてほっとひと安心する。


「よかったぁ」

「プリティコスモス」

「わ!?」


 次は高身長の銀髪モデル美人メイド――ライブリさんが私の手を掴んだ。


「一緒に奪われた勇気を取り戻そう。森で争奪戦運営に決別宣言をしよう」

「うええ!?」

「思い出してくれ。今年の争奪戦のテーマは秘密結社vs争奪戦運営だ。君は前者側に属する正義の味方なんだから、争奪戦運営に反抗しなければ奪われ続けるだけだ」

「――! そ、そう言えばそんな設定でした!」

「現状を説明する」


 ライブリさんは私の肩を掴んで座らせ、私を安心させるように抱きしめた。

 ……どうして抱っこしてくれるのと疑問の目を向けると、身体を離した彼はこう言う。


「争奪戦運営に騙され、虐められ、利用され続けて疲れ果てた今の君は、五百億円というわずかな金で天津魔ヶ原の開発権を売り渡そうとしている」

「一生遊んで暮らせそうですが……」

「騙されるな。ビジネスという観点では何度も裏世界に入るチャンスはあるかもしれない。でも香川裏世界「天津魔ヶ原」の開発権を手にするのは、一生に一度しかない機会だ。それをたかだか数百億程度の端金で売り渡そうとしている」

「で、でも五百億なんて稼ぐだけでも大変で……」

「ああそうさ一生遊んで暮らせる金だ。だけど、だけどな! 所有権を主張するだけで一生遊べる場所と金と人材のすべてが手に入るんだよ!」

「!!!」

「売値を百倍、千倍、一万倍にしたってぜんぜん足りないんだ! この裏世界だけで地球という惑星をひとつ買えるほどに価値がある場所なんだよ!」

「そそ、そんなに価値がある場所なんですか!?」

「だから聖ソレイユ女学院の校長先生に託されたんだろ!」

「あ、ああ~ッ!」


 す、全ての伏線が繋がっていく……!

 私は超高速ジェットコースターに乗せられて事態を把握できず、分からないまま世界を救ったが、ようやく記憶に紐づけされて引き出せるようになった。

 なんか斬鬼丸さんが滅ぼした企業群って、よく思い出せば外資系企業だけだった。

 それらは西園寺財閥が運営していた企業が社名変更によってガワのイメージを変えられた代物で、内情は社内の連携が取れずぐちゃぐちゃで、末端の管理職技術者が必死こいて支えている超絶ブラックという地獄。

 IT社畜時代の私を虐めた黒澤や猿渡木も同系列の外資系出身だったな――


「って納得してる場合じゃない!」


 私は興奮から一転、恐怖で顔を引きつらせてサアっと青ざめた。


「こ、このまま裏世界を取られると本格的にまずいことになる! 私は全世界の激務おじさんを助けるためにも天津魔ヶ原の開発権を独占して、シャインジュエル争奪戦運営委員会を潰さなきゃいけない! 死人が出る!」

『そうよライナ。あなたが先頭よ。恐怖を飲み込んで、勇気を振り絞って立つの。夜見ライナは今日のために産まれてきたのよ』

「頑張るよ菜々子! 争奪戦運営はどこにいますか!?」

「君の代わりに初代様が向かった場所だ!」

「走って向かいまぁす!」


 私は緊急参戦したライブリさんを連れて、古代樹の森の内部へと急いだ。

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