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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
フィールドワーク.3『裏世界「天津魔ヶ原」探索 ~西園寺家を再興するまで終われません~』
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第217話 おじさん、悪の魔の手から隠れる

 ナターシャさんが案内してくれた場所は、森の外に置いてある金銀財宝を乗せた軽トラックの列が並んでいる草原。

 到着するとナターシャさんは周辺の警備をしていた一人の実務生――ミステリウムを数珠してくれた人に話しかける。

 その人は私たちを二台の軽トラックの間に招き入れ、森方面から隠してくれた。


「どうして隠れるんですか?」

「なんでエモ力を減らすのかと言うと、こちらのリソースがあるとあちらも増えるから。だから最低値の10エモまで減らしたうえで、理詰めで負け筋を潰しに来るクソマンチ野郎が一番嫌がる運要素にする。何をするかって言うと、ふるさと納税で運び込まれた金銀財宝にプリティコスモスのエモ力を混ぜておく」

「ひええ……」


 ナターシャさんは脈絡もなく大量の説明を話しだし、私に一枚のメモを見せた。


―――――


 この会話はシャインジュエル争奪戦運営委員会に聞かれている。

 プリティコスモスが邪魔で弱体化したくて仕方がない奴らだ。

 私が説明してる間に魔法「灰」の隠伏ハイドを唱えまくれ。

 簡単でしょ、と尋ねたらストップだ。


―――――


「――!? は、隠伏(ハイド)隠伏(ハイド)隠伏(ハイド)隠伏(ハイド)隠伏(ハイド)隠伏(ハイド)――」

「上層にいる暗黒埴輪兵団や首領の般若はチンケな窃盗団だ。金目のモノがあって、それを盗めると思ったら盗らずにはいられない。そのついでに膨大なエモ力もくれてやる。自分のエモ力を巻くのはいいぞ? ゼロから魔法犯罪の痕跡を探さなくても、相手が関わりを持ってる犯罪者や半グレ、ヤクザの手に渡り、裏社会ルートを辿るから、家で昼寝しているうちに敵の拠点や構成員が丸わかりになる。エモ力を辿って虱潰しにすればいいからね。……簡単でしょ?」

「ハイ……ひゃ、はい。簡単だと思います」

「よし。天使ちゃん、夜見ライナの魔法少女ランキングの順位はどうなった?」

「無事にランク外まで落ちたよ。なっちゃん」

「はぁー、やっと解放されたー」


 ため息をついて肩の力を抜くナターシャさん。

 私は状況がよく分からないので眉をひそめて首を傾げ、天使ちゃんと呼ばれた一般実務生を見る。

 すると思考のぼやぼや――認識阻害が急に解け、姿が分かるようになった。

 一般実務生は私よりもちょい美人のピンク髪ツインテの美少女だった。

 魔法少女ラブリーアーミラルだ。

 スマホの画面をオフにした彼女は、フレンドリーな笑顔で手を振ってくれた。


「山田さん?」

「はじめまして。初代様がようやく降臨しました。イエイ」

「わあすごい……」

「てかなっちゃんどうする? 天使ちゃん的には元の姿に戻した方がいいと思うよ」

「だよねー。よし、夜見ライナ」

「ひゃはい!?」

「お前にかけられた性別固定の魔法を解く薬だ。飲め」

「こ、これは!」


 ポンと手渡された瓶にはものすごく見覚えがあった。


「百合エッチすると赤ちゃんができる妙薬だ!」

「ああ。今日までそういうことにして隠しておいた。運営にバレる前に飲んでくれ」

「は、はい!」


 キュポンと瓶の蓋を開け、シュワッと爽やかな微炭酸を味わう。

 最後の一滴まで飲み干すと、私の身体からシュオオと煙が出始める。

 煙とともに性転換と性別固定の魔法が解け、私の姿は可愛い美少女から、美少女の面影が残ったピンク髪の青年に変わった。

 手や身体、股間を触りモノがあると知り、元の性別に戻った喜びにうち震える。


「も、戻れた……! 元の性別に……! おじさんに戻れた……!」

「うわー、治療が遅れたから二十歳くらいまで若返っちゃったか。容姿や髪色も影響を受けてる」

「でもギリセーフだよなっちゃん。消滅は防げた」

「あ、あの二人とも! 私は夜見治として生きていいんですか!?」

「もちのロン。なっちゃんパワー、つまりは権力で戸籍は残してあるよ」

「良かったぁ……!」

「めでたしめでたしだね」


 やっぱりナターシャさんとそのお知り合いってすごい。改めてそう思った。

 するとナターシャさんは山田さんに話しかける。


「天使ちゃん、どうする?」

「そうだなぁ、んー。夜見治さん」

「はい!?」

「普通おじさんとして現代社会に戻るか、魔法少女としての顔を持ったまま――」

「裏の顔をもったままがいいです! 性別は可変式がいい!」

「オッケー! じゃあ魔法少女プリティコスモスとして正義のために頑張って!」

「頑張ります! な、何か手伝えますか!?」

「んー……やることが多いんだよね、天使ちゃんもどれから手を付けようか悩むけど、まずは自己紹介からしよっか!」

「分かりました!」


 つもる話はさておいて、改めて自己紹介を行った。

 最初は私が夜見治であることを名乗り、よろしく、と二人に言われる。

 次は山田さんこと魔法少女ラブリーアーミラルだった。


「では自己紹介☆ 熾天使アーミラルこと魔法少女ラブリーアーミラル! 作品の壁をぶち破ってただいま降臨! イエーイ!」


 軽トラックの上に乗り、一番であることを示すフィーバーポーズを取る。

 ナターシャさんは呆れたが、私はパチパチと拍手した。

 彼女はすぐにピョンっと飛び降りてきて、ニコッと笑う。

 ナターシャさんはぼやいた。


「目立ってどうすんのさ」

「フッフッフ、天使ちゃんのエモーションセンスがピカリと光ったの。ここで目立った方がバカやってるって思われて意外とバレないと」

「あの、天使ちゃんが山田さんのあだ名なんですか?」

「逆だよ? 天使ちゃんはガチで天使なの。エンジェル。上位存在」

「わあ……じゃあ山田があだ名で」

「うん。日本人で一番多い名字だからね。山田」

「一番にこだわりがあるんだ……」


 山田さん、もとい天使ちゃんことラブリーアーミラルの人となりが分かった。

 続いてナターシャさんが自己紹介する。


「私は……あー、天使ちゃん、名字ギリギリまで伏せた方がよくない?」

「フェレルナーデの動向が掴めてないから黙秘するべきだね」

「分かった。私はナターシャ。ただのナターシャ。今は私から色々と奪った魔王フェレルナーデを追ってる感じ」

「ナターシャさんですね。分かりました」

「治くんは真面目でいい子だね……天使ちゃんが褒めてつかわすね」

「わ、うわ!?」

「いい子いい子」


 急に天使ちゃんさんがぎゅっと抱きしめてくれた。

 びっくりしたけども、頑張りを褒めてもらえた嬉しさで涙が流れる。

 しばし彼女の腕の中で泣き、人の心とは、魔法少女の優しさとは本来こういうものだと思い出し、なんとか正気を保って生きてきた今日までへの苦労と、今日までに浴びた理不尽な暴力や冷遇に、怒りで血が滲むほど唇を噛み締めた。


「……倒したい」

「ん?」

「魔法少女の優しさを汚した奴らを、倒したい!」

「うん、天使ちゃんも分かるよ。でもその怒りは捨てようね」

「どうしてですか……!」

「ほら落ち着いて。ちちんぷいぷい」


 天使ちゃんさんは私の唇を撫でて、傷を治してくれた。


「怒りのままの人生なんて楽しくないでしょ? 人生はエンジョイしないと」

「で、でも!」

「だーめ。忘れたの? 魔法少女の拳は人を殴るためのものじゃないよ」

「……そ、そうだ! 人と手をつなぐためにある!」

「心に愛を忘れないで。バキュン」

「本物だぁぁ~! うわぁぁぁん」


 私は目の前の美少女こそ間違いなく本物の魔法少女ラブリーアーミラルだと知り、大人げないと分かっていながらも全力で泣きついた。

 彼女は優しく撫でてファンサしてくれて、私は何もかも自省し、愛を取り戻す。

 魔法少女は――怒りも哀しみも辛さも苦しみもすべてを飲み込んで、みんなを笑顔にするために優しく笑うから、美しいのだ。

 本物に出会えてやっと、私は感情が制御できる大人になった。


「ふう、大人としての強さを取り戻しました。もう甘やかしは必要ないです」

「辛くなったらいつでも私のところに飛び込んでおいてね。チュッ」

「はうぅ好きぃぃ」


 投げキッスまで決められて私の脳は幸福でトロトロだ。

 このまま推し活に身を沈めてしまいそう。


「よし、そろそろ正気に戻るか。すみません取り乱しましたナターシャさん」

「え、何? 急に冷静になるじゃん……怖」

「このままだと私は無限に推しと交流しかねないので自制してます。では魔法少女ラブリーアーミラ――」

「天使ちゃんって呼んで!」

「はわわ、て、天使ちゃんさんの目的はなんでしょうか」

「特にないね。なっちゃんのヘルプ」

「何をヘルプするんです?」

「フェレルナーデをぶん殴って元の世界に帰るためのお手伝い」

「わ、私にも手伝えますか?」

「んー、なっちゃんはどうしたい?」

「じゃあ理性的な話をする。お前――夜見治は巻き込まれた側だし、このまま普通の魔法少女として、今日までに稼いだ金を自由に使いながら気ままに過ごして欲しい」


 それもアリだなとは思ったけれど、十年後の自分自身を思い出した。

 私はダントさんや遙華ちゃんが尊敬して、応援してくれた魔法少女プリティコスモスを演じてないと死にたくなるくらいに苦しいのだ。

 それにナターシャさんはこう教えてくれた。


「いまさら納得できかねます。私も仲間に入れてください」

「そうだったな。地獄の果てまで付き合ってもらうぞ」

「そ、そんなに厳しい道なんですか?」

「言葉の(あや)だ。私はアイツに一矢報いることができたらいいんだよ」

「なるほど。頑張りましょう」

「ああ。じゃ、これからの話に戻すぞ。私は天使ちゃんと一緒に行動。天使ちゃんは夜見ライナを名乗ってついてきてくれればいい」

「天使ちゃん把握。夜見治くんは車を運転できる?」

「できます。軽トラックの運転ですか?」

「うん。任せる。これ鍵ね」


 天使ちゃんさんはトラックの運転キーを渡してくれる。

 さらに両手で優しく包んでくれるファンサ付き。素敵すぎる。


「マジカルステッキの使い方は分かる?」

「ああはい、変身方法は分かります」

「じゃあ性転換機能――セクシャルトランスシフトの使い方を教えるね」

「わあ詳しい……」


 天使ちゃんさんは私にマジカルステッキを持たせて、私の両腕を持ち、いつの間にか伸びていたステッキの柄をカシャンと縮めた。

 すると身体が縮んで性別が変化し、若々しい夜見ライナの肉体に戻る。

 伸ばすと成人男性の夜見治に元通りだ。


「こ、こんなに単純だったのか! 性転換!」

「君にしつこかった屋形光子先輩は教えてくれてたけど、魔法で性別を固定されちゃどうしようもないよね。切り替えていこー!」

「はい切り替えましょう!」

「じゃ、いってきま~す」


 私はナターシャさんを背負って森に歩いていく天使ちゃんさんを見送った。

 その後、カチャンとステッキを縮め、夜見ライナになってからトラックに侵入。

 ずっと怪しんでてスイマセン屋形先輩……と謝罪の念を込めて手を合わせた。


「……じゃあ先輩が言ってた、ステッキの底を股間に当てたらどうなるんだ?」


 屋形先輩が正義サイドの人間だったんだから、何かいいことが起こるかも。

 当ててみた。おとずれる振動。

 車内のボルテージとバイブスが上がった。

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