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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
フィールドワーク.3『裏世界「天津魔ヶ原」探索 ~西園寺家を再興するまで終われません~』
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第209話 おじさん、即興キャンペーン「魔女ハインリヒの霊魂探索」を始める②

 でも悲しいのでしょんぼりしながら苦情を言う。


「し、初心者には優しくして下さい……」

「「「どこが?」」」


 全員のツッコミがハモる。

 曰く、バトルは熟練者の手つきなのに、探索パートでは素人臭い行動をしたり、急に真相に閃いたりするので疑問がられていたらしい。


「なあプリティコスモス、本当は誰かの指示で動いてたんだろ?」

「攻略サイトを見て答えを知るのはいいとして、魔法少女の仕事に没入出来てないのは良くないぜ。オレたちは演じるのが仕事だぜ。チートメモがあるなら見せるぜ」

「実はこれがありました……」


 数珠ミステリウムをテーブルに置くと、全員が納得する。


「じゃあ仕様だな」

「だぜ」

「でも私の脳内にしか情報が開示されません……」

「TRPGで例えるとプリティコスモスが優秀すぎて自動的にゲームマスターってことになっちゃうってことか。吟遊GMが居たらいいんだけど」


 ユウサクなる上級実務が言う。

 すると諦めたように健司という実務生が手を上げた。


「はあー……しょうがないんで俺が吟遊GMさせてもらっていいすか。ハインリヒさんの霊魂探索優先したいんすよ」

「「「どうぞどうぞ」」」

「くそがよ……はい、じゃあ今回のキャンペーンを話します。情報ゼロからハインリヒさんの霊魂の居場所を見つけ出して回収してください。ちなみにGMの俺も居場所は知らないので全部アドリブです」

「地獄ですね」

「だからイヤだったんだよぉ……とりあえずプリティコスモスさん、ええと夜見ライナさんは神様視点になって、適当な人の身体を操ってもいいんで、ハインリヒさんの霊魂を探してください。他の人間はその護衛です」

「じゃあ主体性を持ってハインリヒさんの肉体を動かすか……意識飛ばします」

「マジで頼みました」


 その場であぐらを組み、目をつむる。

 急に意識が途切れ、カチっとスイッチが入ったような感覚がして、気がつけばデミグラシアの自室で紫髪を縦ロールに巻き終わったばかりのハインリヒさんになった。

 子供たちは別の私たちなる六人の存在とともに実家へ帰っていく。


「先生またねー!」

「ばいばーい!」


 親御さんが心配するからだ。

 笑顔で手を振って見送り、今までの情報を整理した。

 数日も経てば高松学園都市にある全てのフリースクールとデミグラシアの直通転送陣も完成して、ここに自由に行き来できるようになり、みんなの居場所ができる。

 別の私とは「リンクが途切れた」とのことで何を考えているか分からないが、少なくともこの肉体、魔女ハインリヒと協力的なのは確かだ。

 彼女たちは透明なガラス状物質の破片――霊魂の欠片を作ってくれたので、これが引っ張り合う方角に進めばいい、とも。


「肉体と魂はどれだけ離れていても惹かれ合う……そう言っていましたね」


 首にかけた龍神イザナミの勾玉ネックレスを握りしめ、完璧に仕上がったお嬢様なドレス姿で化粧台から立ち上がった。

 腰の白い正方形キューブに霊魂の欠片を圧縮収納すると、部屋の外に引っ張られる感覚がしたので、指示に従う。最終的に猪飼さんの部屋に辿り着いた。


「?」


 開けろと?

 とりあえずドアの取っ手を掴むと、ギイと開いた。

 中を覗くと一面真っ黒で、猪飼さんはベッドの上で安眠マスクを付けながら眠っていた。

 引っ張られる感覚に従うと、どういうわけか猪飼さんにのしかかることになる。

 本当にどういうことだ?


「……この感覚、夜見ちゃんか?」

「!」


 びっくりして身体をどけると、鍵ピアスのイケメン大学生、猪飼さんが起きた。

 彼は魔女ハインリヒになった私を見るなり、ニヤける。


「勝手に入っちゃダメだよ。ハインリヒさんの霊魂は俺の中に入っているから」

「猪飼さんが、敵?」

「仕事だよ。裏世界に導くためのお芝居。その身体、西園寺杏里こと魔女ハインリヒは俺のスペアボディだったのさ」

「ちょっと待って、メタとフィクションを混ぜて混乱させてこないで下さい」

「もっと言えば俺は夜見ちゃんに別のボディを操作させるための誘導を行っていた。それがようやく実ったということだね」

「……本当にどういうことですか。順序立てて説明してください」


 戦闘になるかと思って木槌を取り出すと、ぽんぽんと肩を叩かれる。

 後ろを見ると赤城先輩だった。目が合うなりニコっと笑う。

 先輩がくいくいと猪飼さんを呼ぶと、猪飼さんは無表情になって立ち、私たちの元に来る。二人は同時に話した。


「「つまりはこういうこと。猪飼真と赤城恵は同一人物」」

「んんん?」

「「さらに言えば、西園寺家の復興のために臨時で養子になって杏里という名前を手に入れて、夜見ちゃんを裏世界に導きました」」

「先輩、全てを赤城先輩が元凶である陰謀論に収束させる遊びはやめませんか?」

「バレちゃった」

「上手く行くと思ったんだけどなぁ」


 ここでネタバラシとばかりに硬直を解く猪飼さんと、クスクス笑う赤城先輩。

 私は緊張と緩和のジェットコースターで気が気じゃないってのに。


「先輩、ちなみになんで私が夜見ライナだって――」

「普通にニュースになったからだけど?」

「ですよねー」


 魔女ハインリヒさんの霊体が行方不明になったニュースはホットな話題だ。

 裏世界探索のヒントに繋がっているはずと配信者たちも熱を込めて追っている。

 もしかして先輩たちも混ざりたいのだろうか?


「……念のために聞きますが、赤城先輩の目的は?」

「ハインリヒさんを動かしているときの夜見ちゃんへのセクハ……保護」

「ダメです。猪飼さんは?」

「彼女に協力してくれって頼まれて、面白そうだと思っただけさ。探索については月読生徒会か願叶さんの指示がない限りは協力できないな」

「そうでしたか。ピンチになったらすぐに要請します」

「いつでも呼んでくれ。すぐに駆けつける」

「わあ! 心強いです!」


 無意識にハグを求めると、「ちょっとそれはマズい」と難色を示された。

 そう言えば私って見ず知らずの成人女性の身体だった。

 罪悪感と背徳感で心が行ったりきたりする。赤城先輩は背伸びをして囁いた。


「仲間に入れてよ~……♡」

「だめです。赤城先輩は強すぎて禁止カードです」

「なんでー?」

「先輩がいると私が活躍する機会がないんですもん」

「と思うじゃん? 死人出さないための強制撤退の時とか超役立つよ私」

「裏世界に行きましょう赤城先輩」

「流石は私の後輩だね。話が早い」


 ひとまず赤城先輩が仲間になった。

 ただし役割分担として戦闘は夜見ライナに完全に任せてほしいと伝えると、彼女はしょうがないなぁとオッケーしてくれる。

 猪飼さんは困ったような、悲しそうな感じで笑った。


「はは、俺だけ仲間外れは少しさみしいな」

「大丈夫です、夜見ライナな方の私が願叶さんに連絡してます。裏世界の攻略はともかく、ハインリヒさんの霊体探しは人手がどれだけ居ても足りないので」

「本当か?」


 ピロン。

 すると彼のスマホから着信音が鳴る。

 確認して、願叶さんからの応援要請だと分かり、猪飼さんも仲間入りした。


「やっと俺も出番か。腕が鳴るな」

「協力お願いしますね」

「ねえ夜見ちゃん。そのボディはハインリヒさんって呼んだ方がいいよね?」

「そうですね。私もそうしてます。さんを付けると上下関係が混乱するのでハインリヒと呼び捨ててます。別人格扱いで運用してる感じですね」

「だそうだよ猪飼さん」

「分かった。今の君のことはハインリヒと呼ぼう」

「どもです。えへへ」


 良く分からないが呼び捨てされると嬉しい。

 さて、思考を切り替えてと。猫とイノシシを仲間にしたから、問題は最後の一人であるモルモットをどうやって仲間にいれるかだ。


「急に話を変えますけど、ダントさんはどこでしょうか? 彼も仲間入りさせたい」

「高松学園都市でずっと訓練してるね。赤城ちゃんのテレポ行っとく?」

「先輩のテレポって向かうんじゃなく、こちらに呼び出すことも出来ますか?」

「お、拡張性に気づいた? めっちゃ大変だけど出来るよ」

「へえー……」


 じゃあ必殺技に関わる使用方法なんだ……

 大変だけど出来るなら、それだけの苦労に見合った成果や報酬があって当然だし。


「あー、ダメだ。赤城先輩がいると無限にお話しちゃう」

「それだけ相性がいいってことじゃん?」

「ですね」

「あー、俺も会話に割り込ませて欲しい。ダントくんの回収方法だが、テレポートで向かうだけなら負担が少ないんだろう? ひと手間増えるが、テレポートで合流してから、テレポートでここに連れてきて貰おう。その方が彼女も疲れない」

「ですって夜見ちゃん」

「先輩はハインリヒ呼びじゃないんだ……じゃあダントさんを回収して、あ、デミグラシアか西園寺家のどっちがいいですか? 入口が複数あって迷います」

「「デミグラシア」」

「じゃあデミグラシアに戻って、事務室に出来たポータルから裏世界に入るということで。赤城先輩お願いします」

「りょーかい」


 赤城先輩はシュンっと消えて、少し経ったのち、オレンジモルモットになった聖獣ダントを鷲掴みにして持って帰ってきた。彼は驚く。


「な、何事モル?」

「裏世界に行きましょうダントさん」

「あなたは魔女ハインリヒさんですモル?」

「説明しなかったんですか赤城先輩」

「説明がめんどい。早く事務室から裏世界に行こう? ぐだぐだするより夜見ちゃんに会わせて話をすれば分かるでしょ」

「たしかに」


 赤城先輩は合理的で助かる。


「あ、念のため」

「ファクトチェックや稟議書の整理は専門の部門に任せりゃいいの。行くよ」

「はひゃい」


 そして分業化も得意だ。

 モルモットは鷲掴みにされたままデミグラシアから裏世界に移動した。

 温泉施設に改造中の神社を見て、ダント氏はひたすらに困惑し続ける。


「て、展開が早すぎるモル。ここはどこモル?」

「夜見ちゃんはどこにいる感じ?」

「古代樹の森です。ほら、あの奥に見える大きい木々の生えた場所」

「了解」


 ハインリヒ(私)とその仲間たちはテレポートで秒で古代樹の森に到着し、仮設テントであぐらを組んでうんうん唸る夜見ライナを見て「何やってんだろう私」と虚無を覚えつつ、卓に合流する。


「プリティコスモスさんホントすいません俺のために」

「何何何!? ダルいダルいダルい!」


 実務生の健司さんが土下座を決めようとして赤城先輩に止められたり大忙しだったが、なにはともあれ重要人物たちはそろった。

 それぞれが付けているトラガスで遠隔念話通信ができることを確認してから、夜見ライナを除く七名(聖獣は装備品扱いにした)でキャンペーン「魔女ハインリヒの霊魂捜索」を開始する。

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