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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
フィールドワーク.2『魔女ハインリヒの足跡』
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第201話 おじさん、魔女ハインリヒの足跡を追う①

 配信前のリハーサルを行い、動画名を「【プリティコスモス】聖獣が構ってくれないので追いかける【初配信】」に決め、マジスタに配信予告をしてから三十分後。

 魔法少女ランキングの配信開始ボタンを押すと、球体ドローンがプロペラを回して飛び始めた。ヒトミちゃんと一緒に視聴者さんへ挨拶する。


「「良い子のみんな! こんにちは~!」」

「秋にきらめく一輪の桜! 魔法少女プリティコスモス!」

「春の野に咲いた一粒の紫玉! 魔法少女ライトローズヴィオラ!」

「「初のスール配信でーす! イエーイ!」」


 即興で作った変身後の名乗りを完璧に決めると、コメント欄は「うおおおおおおおお!」という文字で埋め尽くされ、常人には読み取れない速度で動き始めた。

 しかし魔法少女はエモーショナル&マジカルなので光の速さだろうと読めるのだ。

 いつも応援ありがとー!と心から感謝しつつ、ライブ配信の目的を説明する。


「じゃ、分かりやすく目的を言います! ダントさんを追いかけます! 以上!」


 調教された視聴者たちは「わかりやすい」「説明が上手」と納得してくれる。

 高松学園都市で私依頼のダント氏の追っかけ配信がバズっていて、それに乗じて本人が配信した形だから、細かい説明をしなくてもいいのだ。

 ヒトミちゃんも「流石です!」と拍手してくれる。


「それでお姉さま、まずはどうしますか!」

「たぶんサブクエストを先に攻略することになると思うので、再会できるかどうかは運です。ほら」


 私が指差した方角は商店街の外で、大霊鳥フェザーが地面に降り立っていた。

 マジタブに流れるコメント欄は「すき」「モフモフしたい」などの好意的反応。

 凱旋パレードでフェザーの存在を知り、ファンになった人が多いのだ。


「お姉さまの騎乗霊獣さんですね! 種族は大霊鳥ガルーダ。名前はフェザー!」

「どうやら私を追いかけてきたみたいです。撫でに行きましょう!」

「はい!」


 配信的にもフェザーは見栄えがいいから会いに行こう。

 イカ焼き屋台の店主さんに「「ごちそうさまでした!」」と言い、裏世界に繋がる門になったチラシをクシャっと丸めてポケットに入れつつ、商店街から出た。


「おーい! フェザー!」

「ピーウ!」


 私の声に反応したクソデカい雷鳥のような見た目のフェザーは、私の元までトコトコ――いや、ズシズシかな、歩いてきて、私の制服の襟首をクチバシでつまんで背中に乗せる。ヒトミちゃんも同じようにして背中に乗せた。


「あはは、乗せられちゃいました」

「そうですね――」


 バサッ! ブワッ――

「「うわぁ!?」」

 そして間髪入れずに飛び立ち、バサバサと羽ばたいて高松学園都市の上空に向かう。コメント欄は大喜びだ。

 フェザーは月読学園近くまで移動し、十字路の交差点に降り立った。

 交差点の中央には生気のない顔をした魔女ハインリヒさんが立っていて、路上は黄色と黒の規制線――封印結界用テープ「ノープラン」による封鎖処置が施され、一般実務生たちによる立入禁止措置が始まっていた。

 また魔法絡みの事件が発生したらしい。


「うわー、厄ネタの予感」

「高松学園都市は事件が多いですねお姉さま」

「ね。ん?」


 ふと道路脇を見ると、肩掛けマントを渡してくれた一般実務生が注連縄(しめなわ)で拘束され、数名の仲間に取り調べを受けていて、容疑を否認している彼は叫んだ。


「だから俺は何もしてねえんですよ! そこの魔女のハインリヒさんと一緒にフェザーを追いかけていたら、魔女さんが急にふらふら~と交差点の真ん中に移動したかと思うと、止まったまま動かせなくなったんですって!」

「いや分かってるんだよ、動画見たし。だけどもう少し詳しく教えてくれないとさ」

「詳細言ってくれたら解くから。なんで物理に動かせない状態になったのか教えて欲しいんだよね。じゃないとこの道、一生封鎖するしかないんだよ」


 スッと指差された先では、数名の実務生がハインリヒさんをどかそうと必死に背中を押したり、彼女にロープを巻き付けて引っ張っていた。

 しかし魂でも抜けたような顔の魔女ハインリヒさんはびくともしない。

 超常の力でその場に固定されているような感じだ。

 私はどちらに行こうか迷ったのち、解決が早まるハインリヒさんの運搬を選んだ。


「すみませんヒトミちゃん、少し待ってて下さい」

「いえ、ヒトミは取り調べの方をお手伝いします」

「あ、じゃあお願いします。フェザー」

「グワッ」


 フェザーには重心移動で降ろしてもらい、ヒトミちゃんは尋問チームに、私はハインリヒさんに近づく。

 とりあえず実務生に強引な手法を止めてもらって、声をかけてみた。


「おーい、ハインリヒさーん」

「……」

「死んでないよね?」


 ピト、と相手の首筋に指を当てて脈を図ると、ビクンとハインリヒさんの指が動き、私の視界が暗転した。

 急に魂の抜けたような顔の私――夜見ライナを、私が見つめる形になる。


「な、なにこれ?」

「喋った!」

「ハインリヒさんの意識が戻ったぞ!」

「え? あれ声の質が違う……ハインリヒさんの声だ」


 何が起こったか分からず視線を左右に向ける。

 手や服装を見て、胸が大きいし、身長は目の前の私より今の私の方が高いなと驚き、髪色が紫で、縦ロールなお嬢様ヘアーになっていることに気づいて絶叫した。


「えええええ!? 私が魔女ハインリヒさんになってるううう!?」


 原理や現象は不明ながらも、私はどういうわけか魔女ハインリヒさんに乗り移ってしまったらしい。

 もしやと思って夜見ライナな方の私の首筋に手を当てると、そちらの私もビクンと動いて意識がはっきりしたうえ、視界が二つに増えた。


「「私が動いた!?」」

「ひっ!?」

「「乗り移って喋ってる!?」」

「うわあああ! プリティコスモスさんとハインリヒさんの声がハモっている!」

「「なんなんですかこれー!?」」


 現場は混乱とし、一時騒然となったものの、とりあえず首筋を触っておけば私とハインリヒさんの両方の身体を動かせると分かったので、そのまま歩道まで移動した。

 そこでハインリヒさんの方から手を離すと、夜見ライナの私に意識が戻る。

 そしたらまた、ハインリヒさんの身体がてこでも動かなくなった。

 なので取り調べを行っていた一般実務生に尋ねる。


「これどういう状況なんですかね?」

「あー、魔女ハインリヒさんの固有魔法を調べるところから始めましょう」

「ですね」


 実務生が取り出したのは紫の立方体、ミステリウム。

 ハインリヒさんの腕に接触させると、ブブブと文字のホログラムを表示した。


「固有魔法、コントローラーみたいです」

「つまり?」

「そのままの意味でとらえていいんじゃないですかね。ゲームのコントローラー」

「も、もしかして私、魔女ハインリヒさんを操作する何らかのゲームのプレイヤーになったってことですか……?」

「「「おそらく」」」


 一般実務生複数人からの同意が取れたことで、魔女ハインリヒさんの所有権は私に譲られた。押し付けられたと言ってもいい。

 ただ、幸いにも肩掛けマントをくれた男子実務生は「固有魔法が変化したことによる不測かつ偶発的な事故」で片付けられ、無罪放免になった。

 そして私は、魂が抜けた状態のハインリヒさんを元に戻すために、まずは自分自身と彼女を同時に操作する方法を模索することになる。幸いにもツテがあった。


「お姉さま、言われたものをピアス店ガラパゴスで買ってきました」

「ありがとうございますヒトミちゃん。コントローラーになっちゃったハインリヒさんにトラガスと、例のアレを付けて、と」


 右耳に念話用のトラガス、さらにピンク真珠のイヤーカフを付けると、ハインリヒさんの身体がブルブルと震えだし、私とハインリヒさんの意識が共有される。

 相手のドクンドクンと心臓の動く音を実感し、ホッと安堵した。


「「これで同時に操れる……」」

「お姉さま、もしよろしければこちらもお付けしますか?」

「「ピンク真珠のピアス?」」

「並列思考が出来るようになるマジックアイテムです。少しはお役に立つかと」

「「付けますね」」


 とりあえず夜見ライナな方の私に付けて、思考を分けた。

 すると身体や思考を別々に動かせるようになる。


「はあ、やっと同期バグが治りました」

「これでひとまず別人として生活できます。ありがとうございますヒトミちゃん」

「どういたしまして! ですが、お姉さまの右耳が装飾品まみれですね」

「ね。どうしましょう?」

「あ、いい方法がありますよ」


 魔女ハインリヒ(私インストール)が右腰にぶら下げた正方形の白いキューブを突いて木槌を取り出し、ピアスやイヤーカフでごちゃごちゃな私の右耳をコンと叩く。

 すると魔法「念話」「完全連動」「並列思考」としてアマテラスの内部に集約され、見た目もピンク真珠のイヤーカフ三点セットになって可愛くなり、コンパクトになってスッキリした。


「買ってよかったアマテラス」

「ね。ドヤっ」

「可愛いアクセサリーになりましたねお姉さま!」

「「えへへ」」


 照れる私と魔女ハインリヒさんボディの私。

 すると急にハインリヒの私が、高鳴る胸を抑えてスー、フーと深呼吸しだした。


「あーやばい、過去一で興奮してます。魔法の世界ってこんなことがあるんだ」

「エッチな界隈では「乗っ取り」と呼ばれているジャンルですお姉さま……!」

「乗っ取りっていうんだ……」


 夜見ライナでありながら、夜見ライナではない生活を送れる。

 社畜だった頃の私が何よりも求めていた人生だ。

 と興奮するハインリヒボディの私はスルーして、私はヒトミちゃんを見た。


「これからどうしましょうか?」

「お姉さま、ヒトミたちはとっても悪い子です。もっと乗っ取っちゃいませんか?」

「そうですね……フェザーは」

「ビルの上です。あそこ」


 指差された方角を見上げると、フェザーはこちらが見下ろせる対角の位置にあるビルの上に移動していて、目が合うと翼を開いてバサッと振るう。青い色の嵐だ。


「「うわ!?」」

「きゃっ!」


 凄い風圧とともに青い粉末のようなものが撒き散らされ、魔女ハインリヒさんのような姿をした霊魂の動きと当時の状況が見えるようになった。

 彼女は曲がり角を曲がると、何者かに遭遇し、鳥居の中に連れ込まれたようだ。

 あとは彼女の足跡だけが車道に続いている。


「魔女ハインリヒさんの霊体が分離したから意識がないんだ……」

「フェザー! 追えってことですか!?」

「ピーウ!」

「でもそれって正義の味方っぽい……」

「お姉さま。ホラー映画の序盤に出てくる迷惑な動画配信者になりましょう」

「「それなら悪い子ですね。追いますか」」


 今は悪い子を遂行中なのだ。

 迷惑配信者メンタルになって、肉体と分離した魔女ハインリヒさんの霊体を追う。

 長丁場になりそうなサブクエストだなあ。


――――


[やっぱプリティコスモスといえばこれよ]

[怪奇ホラー物の主人公並みの巻き込まれ力すごい]


―――


 謎多き事件で期待が高まる視聴者を乗せた球体配信ドローンもその後を追う。

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