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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
フィールドワーク.2『魔女ハインリヒの足跡』
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第200話 おじさん、正義をストライキして悪い子になる

 魔女ハインリヒが曲がり角の先で見たのは、赤い鳥居だった。

 鳥居の前ではアリス先生なる異常存在が待っていて、私を見るなり優しく微笑む。

 彼女こそ別の私――ハンドルネーム「不可解」だ。

 ……いや、待て。何かがおかしい。

 七人もいる私は全員西洋モチーフの魔女になり、カタカナの名前になった。

 未だに漢字を使用するのはおかしい。アリス先生はクスリと笑った。


「フフ、そろそろ認識阻害が解けてきましたか?」

「色欲の悪魔……違う、アスモデウス!? しかもケンジとかいう少年!?」


 ハインリヒが驚愕の声を上げる。

 アスモデウスは不敵な笑みを浮かべながら、ハインリヒたちに向かってゆっくりと近づいてきた。


「三話も待っていただきありがとうございます。さ、未来の話の続きですよ」


 アスモデウスが冷たい声で言った。

 さらにハインリヒの首筋をツウと撫でたかと思うと、美味しそうに指を舐め取る。


「は……?」

「現実の性能差って面白くない。年齢、体格、知識量……どう頑張っても子供が大人に勝てる余地がない。天性の才能があっても、何十年も鍛えた凡人には勝てない」

「それは――」

魔女(あなた)悪魔(わたし)のように」

「ヒィッ」


 ハインリヒはその言葉に震えを感じたが、アスモデウスは続けた。


「ですが、ライナ様がいるなら話は別です」

「え……?」

「彼女の持つ固有魔法『ギフテッドアクセル』の真価は、他者に対して使用された時のみ発揮されます。彼女の魔法の効果を受けた者は、脳内で想像している「夢を叶えた理想的な自分」に向かって驚異的なスピードで成長を遂げます。肉体が成長を認識しない速度で」


 魔女ハインリヒはその言葉に目を見張った。


「彼女の魔法の本質は加速ではありません。夢を叶えるための労力を限りなくゼロにする魔法なのです。最高の魔法少女だと思いませんか?」

「あっははは、そうか、そうなのね。やっと分かった」


 ハインリヒが言った。


「前の分岐(ルート)であなたたちが世界を平和にできた理由が。そんな魔法少女がいたら競争する必要がない。性格の良い人間と悪い人間を分けるだけでいい」

「そうです。ようやく呪いが解けてきましたね」

「この分岐ルートの私は、悪人が生存と保身を行うために邪悪さを身につけさせられ、彼女を裏世界に誘拐して思惑通りに動かす必要があったから、きっと自我を得られたのね。アハハハ……ハハ………………くっそぉぉぉ――――ッ!」


 取り出した木槌を巨大化させ、振り下ろして地面を砕いた。

 悔し泣きしながら何度も何度も地面のアスファルトが粉々になるまで叩きつける。


「なんてくだらない! まだ操り人形だった! 許さない許さない許さない! 私は自由なのよ悪党どもが! 私を操る奴らは全員滅ぼしてやるッ!」


 ハインリヒの決意が固まった瞬間、アスモデウスはニヤリと笑った。


「ふふ、では近未来の話をしましょう。ソレイユ関連企業が運営する大小さまざまな学校の合併案と、ライナ様の固有魔法を利用した新時代の魔法教育――「ギフテッド教育」の話を。もちろん協力してくださいますよね?」


 すっと手を差し伸べすアスモデウス。

 魔女ハインリヒは驚きの表情を浮かべたが、もちろん話に乗った。


「ぐすっ……当然。私は鉄槌の魔女ハインリヒ。身の程知らずの悪党に鉄槌を食らわせて教育してやらないと気がすまないわ」

「フフ。では契約成立ですね。ともに頑張りましょう」


 こうして、アスモデウスと魔女ハインリヒは新たな協力体制を築き、ゲイのサディストの陰謀に立ち向かうことを決意した。

 大人たちの新たな戦いの幕が上がろうとしていた。

 それはそれとして夜見ライナの視点に戻る。



 夜見ライナたちは商店街でまたイカ焼きを買ってもぐもぐ食べていた。


「夜見はん、見つかったん?」

「見つかるというか……」


 ダント氏の所在地は学園都市を歩いていれば分かる。

 だからいちご&おさげ&ヒトミちゃんのトリオを引き連れてダント氏追っかけ配信をする案も考えたが、彼は意外と有名人なので探す必要もない。


 なぜか。

 私の聖獣だからだ。


 探そうとすれば月読学園の初等部生徒が「あのねあのね!」と情報を抱えて向こうからやってくるし、市外から来ているライブ配信者がこぞって探してくれるのだ。

 彼らとダント氏の追いかけっこ配信をマジタブで見ながら、私は驚いた。


「有名になりすぎて誰かが勝手にやってくれるようになってます」

「夜見はんが頑張って知名度を得た証や」

「流石は人気のコンビね」

「なんで有名になると仕事が減るんですかね?」

「自分で考えてみたらいかがどす?」

「ええと」


 私が有名になると、人が集まる。

 人が集まると、誰かが私をトップに序列を決めようとする。

 そこで貢献度という制度が発明される。

 貢献度で序列が決まると人は満足する。こんな感じかな。


「有名な私と深いかかわりを持とうとして仕事を変わってくれる?」

「人間のことをよく分かってるわね夜見。企業しなさい」

「特にお金を稼げるようなスキルはないんですが……」

「違うやろ? 今まで交流した人間に同じスキル持っていて、さらに稼いでいる人間を見たことがないから、稼げないと思ってるんとちゃう?」

「私って稼ぐスキルがあるんですか?」

「何事もチャレンジは大事よ。じゃ、私たちは先に裏世界探索に行くから」

「先で待ってるで」

「ええー……?」


 二人は私から離れてさっさと遊びに出てしまった。

 ヒトミちゃんと一緒にイカ焼き屋台のある商店街に取り残される私。

 隣を見ると、ヒトミちゃんが目をキラキラさせながらイカ焼きをパクパクしていた。もぐもぐごくんとしてからようやく口を開く。


「お姉さまこれすっごい美味しいです! なんですかこれ!」

「癖になるでしょ?」

「はい! 毎日食べたいです!」


 企業するべきかは分からないけど、最高位の栄誉である騎士爵は貰ったことだし、さらに上を目指すには、自分で道を探る必要があるとも分かった。

 ダント氏も同じことに気づいていて、私から離れて道を探しているのかも。

 そうかそうか、ふふふふ……


「急にダントさんが許せなくなってきました……」

「どうされたんですか?」

「ダントさんは私のビジネスパートナーなのに、相談も無しに動いてるんです!」

「聖獣ってそういうものじゃないんですか?」

「え!?」


 ショックを受ける私をよそに、ヒトミちゃんはコホンと咳払いした。


「よく考えてみてください。聖獣は小動物ですが、同時に社会人です。ヒトミたち魔法少女のプロデューサー兼マネージャーでもあります。お姉さまの知名度を利用して新しい分野にチャレンジしたり、後輩のために将来有望な魔法少女をスカウトに出たり、仕事を取りに営業に出かけるのは当たり前のことじゃないですか」

「……もしかして私が異常者だった?」

「はい。動画でもご覧になったかと思いますが、ダントさんは私の聖獣、タヌキのぽんすけさんの新人教育中。魔法少女と一緒に戦うための立ち回りを教えています」

「とても重要な仕事ですよね。私もバカな嫉妬しない方がいいなぁ」


 全てを訂正しよう。私が悪い。

 ダント氏は聖獣として正しい仕事をしていただけだ。

 それを構ってくれないからと勝手に怒って、ストレスを抱えて、それを誰かに話そうとも共有しようともせずに一週間何もしなかっただけ。

 不貞腐(ふてくさ)れているとヒトミちゃんが私の耳元で囁いた。


「お姉さま、そこで納得しない方が良いです」

「……そ、そうですかね?」

「当たり前です。聖獣の立場や役割は理解しつつもそれはそれ! 彼らはヒトミたちを構って当たり前なのです! 我慢してはいけません!」

「ですよね!? こんなに可愛い私を構わないダントさんが許せない!」

「ぽんすけさんもずーっとヒトミの側にいるべきです!」

「ね! どんな抗議をするべきでしょうか!?」

「正義のストライキです! 普段は意識的にやらないようにしている悪いことをいっぱいしちゃいましょう!」

「いいですね! さっそく悪いことしちゃおう!」


 私は商店街のドラッグストアから適当なチラシを頂戴し、イカ焼きの串にタレをたっぷり付けて紙の上で四角形を作る。

 最後にタレをぽちゃんと垂らせば、裏世界への門の完成だ。

 ヒトミちゃんは驚愕した。


「なんで急に裏世界への行き方が分かったんですか!?」

「実は私、ニチアサ作品の視聴が趣味でして。魔法少女が香川裏世界「天津魔ヶ原(あまつまがはら)」に連れ込まれる回があったことを覚えているんですよ。数十年前の作品だったかな」

「どうして黙っていたんですか!?」

「ネタバレはとっても悪いことだからです」

「確かにそうですね! どんどん悪いことしちゃいましょうお姉さま!」

「じゃあ配信者になって天津魔ヶ原を知識チートで探索しちゃいます!」

「では配信機材を買いに向かいましょう!」

「すでに用意してあるんですよー」


 ダント氏の覚えたポータル魔法を利用し、ダント氏のマジカルポーチから裏世界探索用の球体配信ドローンを取り出した。

 ヒトミちゃんは再び驚愕する。


「なんで急に空間魔法を使えるようになったんですか!?」

「ダントさんは私の脳領域の一部を使って成長加速していたので、特に使用頻度が高かったいくつかの魔法は私も使えるし、しかもダントさんより極めてるんです」

「流石はお姉さまです! 裏世界探索配信を行いましょう!」

「挨拶はどうしましょうか?」

「おはライナーとかどうですか?」

「おはライナー、いいですね! ヒトミちゃんは?」

「ヒトミはいつもこんヒト~って言います!」

「可愛いですねー。よし、生配信開始です!」


 私はようやく道徳的な正しさがどうでもよくなり、自主的にライブ配信を始めた。

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