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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
フィールドワーク.2『魔女ハインリヒの足跡』
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第198話 おじさん、一般実務生たちを領民にする

 デミグラシアを出ると、妹のヒトミちゃんが給仕服姿で付いてきた。

 ここまでは想定通りだ。


「夜見の妹の子よね? 夜見追っかけ配信に参加する?」

「よろこんで!」

「積極的に口出ししていこな?」

「もちろんです! お姉さまには完璧な交友関係が必要ですから!」


 さて、と一般実務生との接触方法を考える。

 フィールドワーク中に話しかけに行くか、65階で正式に雇うか。

 裏をかいて65階で正式に雇いに向かおう。

 エレベーター方面へ向かうと、三人は驚いた。


「うっそ、夜見が真っ当な選択肢を選んだ」

「夜見はんも成長したんやなぁ」

「ヒトミも嬉しゅうございます」


 そんなに驚かれることかなぁ……

 夜見はエレベーターに乗り、65階に到着する。

 するとライブ配信を見た大勢の女子生徒が待っており、熱烈な反応を示された。

 触れ合いファンサで対応しつつ、移動して一般実務生の採用窓口まで。

 私は受付の女子大学生からアプリ「フロイライン・ラストダイブ」を正規利用するよう指示され、実務生のデータをアプリにダウンロードした。

 これにより、私はゲーム感覚で実務生を選び育てることができる。


「実務生の環境ってゲーム感が強いんですね……」

「条例で規制を食らいましたが、ラストダイブが我々にもたらしたランダムマッチング機能「ガチャ」と「レベル制度」は月読学生の意欲向上にとても役立っています。実力の低い実務生でも限界突破を行い、完凸すればあなたに匹敵する能力を発揮するでしょう。では、ご武運を」

「あー、レベルって?」

「ガチャを引けば分かりますよ。くわしくは冊子をどうぞ」

「わあ」


 一冊の説明書を貰う。

 説明書曰く、ガチャを回すことでランドマークタワーの維持管理費や研究費を賄っている部分もあるらしいし、悪いとは言い切れないのだろう。

 経済は消費してもらわなければ回せないのだ。

 エレベーターで降りる間に説明書を読破し、強化方法を学ぶ。

 文章を読むのは大変だ。吐息も湿っぽくなる。


「フー……」


「色気えっぐ」

「これが無自覚に女を惚れされる女や。うちらだけの景色やで視聴者はん」

「妹になった時からこの光景を楽しみにしていました……お姉さまがもし男性だったらと考えるとキュンキュンします」


 三人ともそんなこと考えてたのか……

 とりあえず無言だと盛り上がらないだろうし、と微笑みファンサービス。

 三人から「しゅき~」と感嘆の声を出させることに成功した。

 同時にポーンと音が鳴り、一階に到着する。

 エレベーターから降りた私は疑問を口に漏らした。


「……レベルってなんだ?」


 基本的に私の口座から三千円払ってガチャを回して、同じキャラを重ねて凸数を増やすところまでは前回と同じだ。違うのは「レベル」という概念が増えたこと。

 ほとんどの実務生が「年齢=レベル」なのだ。上げ方も載っていない。


「ゲームデザインが悪いです。レベル上げのヒントとかないんですか?」

「せやろ? 試しに夜見はんの固有魔法で成長を加速させてみたらどうや?」

「うわ、マジカルハッキングだ。やっちゃお」


 適当なキャラを選んで、「ブースト」と言う。

 すると秒速1レベルのペースでレベルアップし、あっという間に立派なレディになった。ゼロ凸だったのでレベル30でカンストだ。

 楽しくなったのでガチャを回して同キャラを入手し、凸を重ねて七凸。

 もう一度「ブースト」と言うと、今度は種族が「人間」→「魔女」→「大魔女」と進化した。レベルもあっという間に最大の255だ。


「これヤバくないですか!?」

「めっちゃヤバいやん」

「夜見夜見! そのデータ消えないようにアカウント連携しときなさい!」

「もちろんです! えへへ」


 ちょうど実績達成で「メニュー画面」が実装されたので、それをタップする。

 さらにそこからアカウント連携をタップ。

 すると私のアカウントとゲームが紐付けられて、アプリを消されても私のアカウント用クラウドにデータが保存されるので絶対に消えなくなった。


「よーし、もっとやっちゃいます!」

「好きなだけやってくださいお姉さま!」

「はい! 全キャラ完凸するまでガチャ回してレベルマックスにします!」

「よく言ったわ夜見!」


 目標は図鑑コンプリート。

 お金も時間もたくさんあるので、ガチャを引いてキャラを集めて凸を重ねて、「ブースト」でレベルアップさせる遊びを楽しむ。

 気がつけば「大魔女」の他に「仙人」や「ハイエルフ」と言った別種族になる子まで現れ始めた。

 カンストキャラの上限も2000だったり、10000を超えるレベルに到達する子も。

 ゲームをやり込むたびに私のブーストによるレベルアップも加速し、上限もどんどんインフレしていく。

 マルチタスク強化を覚えた頃には抱える実務生の総数が一万を超えた。

 どうやら月読学園のOB・OGまで強化できる仕様らしい。

 最後に引いた懐かしの「山田」にブーストをかけると、彼女はこう言った。


「品切れでーす。育成できる人間がいなくなったので現実に戻って下さい」

「私は山田さんを育てたいだけです」

「そ? なら好きなだけ加速するといいよ。君は私だし」

「ではお言葉に甘えまして……ブースト」


 ワードを言うとレベルが上がっていく。

 レベル1000、50000、1000000……――レベルMAXIMUM。

 ようやくカンストした山田さんを見て、私は一息ついた。


「やりきったー……」

「満足した?」

「ええ。ゲームっていいですね」

「なら良かった。じゃあ現実に戻ろうか」


 パチン、と山田さんが指を鳴らすと、いちごちゃんたちが左右から私のマジタブを覗き込んでいることに気づいた。

 画面には「フルコンプリート」と書かれた図鑑だけが表示されている。


「夜見はんがゲームクリアしおったわ……」

「世界初の偉業ね」

「流石はお姉さまです。ヒトミ感服いたしました」

「そ、そうですか? えへへ」


 パチパチと拍手される。

 よく分からないけど、嬉しいので照れておいた。

 するとラストダイブの内部で暇そうにする実務生から要望が出る。


「ふむふむ。実務生たちは暇を持て余しています。他のアプリと連動させますか、ですか。何と連動させるべきでしょうか」

「相手に聞いてみたらええねん」

「たしかに。どんなアプリと連動したいですか?」


 私の言葉に反応した実務生はアプリ内の仲間で集まって会議を始め、最終的に一つのアプリをピックアップした。

 それは「フェアリーテイル・フロンティア」というオープンワールドゲーム。

 黄金のワンエーカーと連動させればゲーム世界と現実を行き来できるというマジカルライフハックつき。

 さっそくサクラメントからダウンロードして連動すると、画面内に虹色の扉が現れ、彼らの背後が異世界のような幻想的な空間になった。

 狂喜乱舞(比喩抜きで)する実務生たち。


 ピロン。

「ん、お礼の印?」


 すると連動前の黄金のワンエーカーから通知が届く。

 ソレイユ女王からの感謝と称して「A等級シャインジュエル」が送られてきた。

 果樹園を運営しているゴリラ聖獣のローランド氏からの「ありがとうございますライナ様! 頑張って育てます!」という通知にもクスッとくる。


「いいことあった?」

「はい。別ゲームのキャラに褒められました」

「お姉さま、他にも連動させたいアプリを聞いてみてはいかがでしょうか?」

「いいですね。もっと報酬が貰えるかも。実務生さん、他に連動させたいアプリはありますか?」


 ラストダイブの画面の中にいる実務生に話しかけると、また仲間を集めて話し合って、厳選した三つの候補を出してきた。


「アームズ・ウォー」「スチームテクノロジー」「平安ノ陰陽師~大和幻想記~」の三つ。

 たしか一大ニュースになるほどの大人気ゲーム作品だったとは知っている。

 この背景を求めているのは別の生徒たちだったようで、そちらに誘導してもらい、ダウンロードしたアプリを連動させていくと、サイバースチームパンク古代日本世界というカオスな世界観が生まれた。

 画面内の男子生徒は喜びながら泣き崩れたり、はしゃぎすぎてお祭り騒ぎだ。


「ふふ、楽しそう」

「神様になった気分やろ?」

「かもです。もっと早くにゲームを始めるべきだった」


 もちろん報酬も届く。AAA等級シャインジュエルって何と思ったけれど、ローランド氏が通知で「これは世界樹の種! ウオオオ頑張ります!」と笑わせてくれる。

 他にないか尋ねると「黄金のワンエーカー」との連動を求められた。

 連動すると「異世界の扉」という機能が追加され、先に連動した四つの虹色の門と、黄金のワンエーカーに繋がる金枠の赤扉が存在する大広間が出来た。

 ラストダイブに登録された実務生たちは虹色の門の先へ向かったり、広間であつまって雑談したりと自由に交友し始める。みんな楽しそう。


「これで選びぬかれた一般実務生がお姉さまの領民になりました」

「いつでも現実とゲーム世界を行き来できるなんて幸せやろなぁ」

「ヒトミもはやくそうなりたいです」

「もうなってるじゃないの」


 いちごちゃんはツッコミのキレが凄い。

 ともかく、どうしよう。

 一般実務生を雇って育てたはいいけど私はコミュ障だ。

 まだ距離感が分からないから、何度か対話をして慣れるまで動かせそうにない。


 「い、いまはいいか。しょうがない」


 ダント氏の所在地は学園都市を歩いていれば分かるだろうし。


「よし、次の行動を取ります!」

「なにするん!?」

「裏世界探索よね!?」

「そのためにダントさんを探します!」

「「「探索だー!」」」


 夜見ライナは三人を引き連れてダント氏の追っかけ配信を始めた。


「ふふ、子供は元気いっぱいね……かわいいー」


 その様子を少し離れた場所から眺めていた一人の魔女がいた。

 鉄槌の魔女ハインリヒだ。


(……道端で集まってガチャを引いてると思ったら、裏社会では人さらい用途としても使われる非合法アプリ、フロイライン・ラストダイブだった。ソレイユの華族ってヴィランよりも悪どいのね。感服した。流石は私のライバルと褒めたいわ)


 とはいえ、ハインリヒには夢がある。

 ヴィランとして無様に敗北したいうえに、できれば何度も味わいたいという夢が。

 悪どさや犯罪行為の質で負けていられないのだ。


(そう言えばフェアリーテイル・フロンティアをダウンロードしていた。あのゲームの門召喚は、香川裏世界に向かう方法と手順が似ていたはず。セキュリティーを押し止める第四勢力も欲しかったところだし、二つの世界を混ぜちゃいましょう!)


 この間、わずか0.005秒。

 IQ三億の頭脳で改変した香川裏世界に向かう方法を編み出したハインリヒは、夜見たちを追跡しながら機会をうかがう。

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