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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
フィールドワーク.2『魔女ハインリヒの足跡』
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第197話 おじさん、自主性を取り戻す

 騎乗訓練が終わると、高松学園都市で私の凱旋パレードが行われた。

 大霊鳥ガルーダの愛称は「フェザー」。

 沿道の観客たちは歓声と拍手で迎えてくれ、子どもたちは目を輝かせた。

 私はフェザーの背中に乗り、感謝の気持ちを伝えながら手を振った。パレードの終点では市長や学園関係者が祝福の言葉を贈り、私は決意を新たにした。


「皆さん、ありがとうございます。フェザーと共に精一杯頑張ります!」


 拍手と歓声の中、私は未来への希望を胸にその場を後にした。

 その後、フェザーと共に中央自治区内の広場に向かい、プリティコスモスになった私との記念撮影やサイン会が行われた。子どもたちと触れ合いながら、彼らの夢や希望を聞くことで、私自身も多くのエネルギーをもらった。特に、一人の少女が「私もいつか魔法少女になりたい!」と目を輝かせて言った時、私は微笑んで答えた。


「君ならきっとなれるよ。夢を諦めないで!」

「うん! えへへっ」


 見知らぬ少女に夢を与えられてよかった。

 イベントが終わると、学園都市関連の代表者から感謝の演説などが始まったので、私はフェザーと共にその場を後にする。ヒーローは権力者からの栄誉を求めない。

 アレは自分の地位を高めるためにいい人のフリをしているので、真に受けるとだいたい疎まれて死ぬのだ。

 少し離れると、代表者のお知り合いらしき方々のお声が聞こえてくる。


「英雄気取りの小娘が」

「お前は何も成し得ていないぞ」

「裏世界がある限り悪はこの世から去らない」

「根源を見つけ出せ」

「悔い改めよ」


 少し調子に乗っていた部分を意識させてくれた。

 特に何をするべきかおさらいするように忠告してくれるなんてありがたい。

 ……フェザーの背に乗ったまま移動するのが暇なので、少し独り言を漏らす。


「そうでした、魔法少女試験の裏モードの謎とか、リズールさんの思惑とかぜんぜん考えてなかった。自分のことで精一杯で、周りに助けてもらってばかりで、形だけ偉くなっただけで」


 しかしその独白を聞いてくれるのは誰もいない。

 しいて言うならフェザーだが、ダント氏と違って話が通じないのだ。

 私が騎士爵を得てから特訓にかかりっきりで、話し合う時間が取れなかったことに気づいた。そして話し合う気もなかったことも。

 もっと言えば夜見ライナはデミグラシアのメンバーに好かれていない。


「……」


 ただ、嫌われているとかではなく、私の話し方が悪いというか。

 こうしている間にもトラガスを使ってダント氏に念話を送って相談しようとする辺りが大分ウザいかも。つまり構ってちゃんムーブが多くてダルい子なのだ。


「私ってメンヘラだった……」


 まあ構ってちゃんはいいのだ。私は可愛いから許される。

 問題は恋人関係にある赤城先輩や、中等部一年組の内面に向き合えていないこと。

 相手の好きが本音か、それとも上っ面だけの言葉か聞き分ける力が育ってない。

 私は嘘を嘘であると見分けられない側の人だった。


「疑り深さを身に着けないといけませんね」


 独り言を漏らしても誰も反応してくれない場所に来てようやく、己を知れた。

 ただ学園前まで戻ると、デミグラシアメンバー全員が笑顔で出迎えてくれたので全部帳消し。

 そういうことを考えてしまったことを謝罪すると、いちごちゃんとおさげちゃんが代表して優しくハグしてくれた。


「分かる。一人だとナイーブな気持ちになるよね」

「うちらは夜見はんの味方やから安心しいや」

「うう、みんな優しいから好き……っ」


 私は私に優しい人が好きだから、世界を守れるのだ。

 結局のところ代表者ズの批難で自己肯定感が下がったせいだと分かり、権力者絶対許せないという強い正義感が湧いた。

 日本人の騎士爵だし、行動は武士道に基づくことにする。


「夜見、落ち着いた?」

「落ち着きました。とりあえず私の名誉を傷つけた権力者一派が許せません」

「どんなふうに傷つけられたの?」

「私が賞賛されるべき舞台で自分の地位向上を行ったうえ、舞台裏に下がった私に忠言を浴びせて自己肯定感を下げてきました」

「ほな討ち入りやなぁ」


 今すぐに行ってもいいが、それは正々堂々とした振る舞いではないので、先に「お前ら全員ぶちのめす(※意訳)」と書いた書状を送ることに決めた。

 それはおさげちゃんが「善意(※意訳)」でやってくれるそうなので任せて、私はのんびり過ごすことにする。

 怪獣・魔物退治を行う月読プラント専属の魔法少女なので、バイオテロや魔法事件への対応は例外中の例外なのだ。


 だから、何もしなくてもいい日々を過ごす。


 ……とてつもなく暇だった。

 私には耐えられない。


 一週間でギブアップした私は、喫茶店ルームでくつろぐ願叶さんに聞いてみた。


「願叶さん」

「なんだい?」

「私もノブリス・オブリージュとか考えるべきですか?」

「僕がそれに目覚めたのは十五歳の頃だったよ」

「つまり私って早熟タイプ?」

「あはは、そうだね。ライナちゃんは僕よりもずっと優秀だ。だから君がすべきだと思うことはなんでもすればいい」

「私がすべきと思うことですか……」


 一般事務生と関わりを持つ、裏世界について調べる、毎日バトルデコイと探索に出るダント氏についていく、転送陣で中等部一年組の活動する地域へ向かう。

 色々思いついたけれど、それは誰かのため、相手のためにやるべきことであって、自分のやりたいこととして捉えられていないことに気づいた。


「私のやりたいこと……」


 少し考え、私はダント氏に構って欲しいと思ったので、彼を追うことに決める。

 彼の塩対応を慰めてくれる仲間も欲しいから一般実務生と関わって、裏世界の謎を調べて、そのあとで中等部一年組の活動する地域に行きたい。

 最後は赤城先輩と一緒に魔法犯罪者の看守をするんだ。

 やりたいこととしての順序も決まった。


「願叶さん、決まりました。まずはダントさんを追います。そのために一般実務生と交流して仲間を作ろうと思います」

「いいね。フォローは僕に任せて、君のやりたいようにしなさい」

「はい!」


 やることが決まったので、私はその日からダント氏を追うことに決めた。

 早速彼のところに行こうかと思ったけど、ライブ配信用の球体ドローンを浮かべたいちごちゃんとおさげちゃんが腕を組んで妨害してくる。


「「私たち(うちら)と一緒に裏世界探索配信!」」

「あー、駄目です。ダメ。今日の私はこだわりが強いので一般実務生の仲間探しからするって決めました。だから二人との裏世界探索は後回しです」

「「じゃあ勝手についてく!」」

「お好きにどうぞ。もう」


 とはいいつつ、構ってくれるのは嬉しい。

 喫茶店の給仕係をしているヒトミちゃんに「行ってきます」と出発を告げてフィールドワークだ。

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