8 優雅に温室ティータイム
3人の師弟さんに促され、私達はガーデンチェアに腰掛けて紅茶を飲んでいる。
注いでくれたカモミールティーは優しい甘さだった。
目の前のポットに入った蜂蜜をスプーンですくってお茶に沈め、くるくる混ぜる。口溶けが良くなって甘さも引き立つ。
温室の華やかさに気圧されてか静かに動いていたツミキちゃんも甘いお茶と美味しいおやつにウキウキになっている。
「紅茶おいしーー☆☆☆
この固まったクリームみたいなやつもおいしい〜〜〜!!!!」
「それは焼きメレンゲっていうのよ」
千尋さんがツミキちゃんの口についたお菓子をレースハンカチで拭い取る。
千尋さんの隣にはみやこさんが座っていて、さらにその横、私とみやこさんの間に桔佳が座り黙々とドライフルーツを食べている。
「この乾物、味がようしゅんでおいしいなぁ
干すん上手にならはった」
その言葉に師弟さん達はパァッと顔が明るくなって、各々感謝を告げていた。
ふと気になってみやこさんに質問する。
「いったいどんな魔法を教えているんですか…?」
「それ、私も気になってた」
桔佳もドライフルーツを頬張りながら話に乗った。
みやこさんは「そうやね、」と考えた。そしてティーカップをことんと置いて、腕を伸ばした。
「ーivyー」
みやこさんの肩のあたりからツタがシュルルと音を立てて伸びて、伸ばした腕のずっと先にある果樹に到達した。
ツタは目に見えないほど早い動きでヘビのように動き回る。その木に実っていたオレンジが柔らかい土にバラバラと落下した。
「おぉ……」
自然と拍手が湧く。
師弟さんの一人が確認しにいき、落下したオレンジを両手に抱えて戻ってきた。
「みやこさんはあの一瞬でツタを手足より滑らかに動かして、さらに植物の声を聞き、熟したものだけを選んで落とすのです」
目の前に出されたオレンジはどれも傷一つ付いておらず、見た目が甘そうな物だけを落としていた。
「魔力を相当細かく練らないと出来ない芸当ね…
これを教える代わりにメイドをやらせているのかしら」
「こないできて、ようやっと半人前どす。
それにメイドかて立派な修行やさかい。
果物、花、芝生……こいらの声をずっと聞けるよにならなあかん」
ティーカップを傾けて香りを楽しみながら一口飲んだみやこさん。ラングドシャをつまんだら、さらに言った。
「まぁ、…侍女代わりなんも本当や」
やっぱり、と千尋さんがぼやいた。