13 目覚めの朝ごはん
翌朝。
目が覚めて、布団から出て、伸びをしたあと変身する。
眠気まなこのぷわぷわした意識の中で、シャワーを浴びるより先にこの梱包材の山を片付けようと考える。
ドアを開けて、潰した段ボールをよいしょと抱きかかえ外に一歩踏み出したとき、ちょうど707号室のドアが開いた。
私の部屋の隣、ツミキちゃんちと逆隣。白いタキシードとタバコのスモークを身にまとった気怠そうな男の人が出てくる。物理派の人だろう。
その人は私の顔を見て「うす」と小さく頭を下げたあと、携帯灰皿でタバコの火を消した。
段ボールを抱えたままよろよろとお辞儀する様子を見て、男の人は私の手元を指差した。
「-bolster-」
「……、か、軽くなった!」
というよりは、私の腕が強くなった気がする。今ならどれだけでも物が持てそうだった。
「効果は30分だけだよ、はやく持ってきな」
「ありがとうございます…!!」
往復するつもりだったゴミを全部抱えて笑顔で階下に降りた。エレベーターホールに『全フロア禁煙』の文字があったのは見なかったことにしておこう。
道中、仕事の準備をしている佐野さんや私を手伝おうとしてくれる魔法少女たちに出会った。魔法少女って優しい人多いなぁ、と思いながら魔法省前のゴミ捨て場にゴミを投げ入れる。
後ろを振り向くと魔術派の人たちが箒にゴミ袋を括り付けてベランダからこちらまで飛んで来ていた。
「よし、部屋に戻ろっと…」
鍵をかざしてエレベーターに乗り7階へ上がる。戻ったら朝ごはんを食べよう。お父さんからの仕送りの中に食パンが入っていたのを思い出す。エレベーターから降りて廊下を抜けると私の部屋の前でツミキちゃんが最高の笑顔を見せて手を振っていた。
「おはようございます、ツミキちゃん」
「おっはよ〜〜〜う☆☆☆☆☆」
晴れた朝に相応しい、にこーーっと輝く笑みを浮かべて駆け寄ってくる様子に私もにっこりと笑って、そして問いかける。
「もうご飯は食べました?」
ぶんぶんと首を振るツミキちゃん。
なんだろう、子犬みたいだ。
「いっしょに食べよ〜〜!☆☆☆」
「はい!…でも、えっと、先にシャワーを浴びてきますね」
おっけ〜〜!と言いながらOKサインを両手で出すツミキちゃんにお礼を言って、私は部屋に戻った。
--
シャワーを浴びて部屋に戻る。
ツミキちゃんが、焼いたパンと牛乳を机に並べていた。いつのまに入ったんだろう。
そういえば鍵を開けっぱなしにしていたなぁと思い出す。
「…ねね、…ちゃんと浴びれた…????」
「苦戦はしましたが、どうにか……」
なんとなく何かが起こる予想はしていたが、シャワーのノズルを捻った瞬間スライムの髪は水分を含んで膨張した。
やむ終えなくなった私は、スライムを引きちぎってジップロックに仕舞う。そしてベリーショートスライムの状態でシャワーを浴びることで難を逃れた。逃れられているのだろうか。
最後はジップロックに仕舞い込んでいたスライムを頭の上にもちゅもちゅと戻していく。これ入浴のたびにするの面倒だなあ……と思いながら部屋に戻り今に至る。
「私の髪の毛ね〜〜〜〜
酸っぱいものとかかかると〜、ピンクになったりする☆☆☆」
「リトマスだ……」
パンを頬張りながらだらだらと会話する。
昨日見た魔法の話や、昨日飲んだカモミールティーの話、流派の話。
そして、今日の話。
「魔法は魔法省の目の前にあるフィットネスで練習するよ☆☆☆」
「フィットネス…ですか?」
「"ふくごーしせつ"ってやつ!!!
行けばわかるよん☆」
へぇ、と私は声をあげて、楽しみだなぁと微笑んでパンを齧った。
食べ終わって、二人並んで歯を磨く。
あれ?何かが気になって大口を開ける、奥の虫歯が無くなっていた。
魔法少女になった特典?ラッキーだなぁ、もう虫歯は作らないぞっ、と考えていたら隣でツミキちゃんも私の真似して「あ〜」と大口を開けている。
虫歯できてる〜〜と不貞腐れていて、思わず笑ってしまった。




