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没落のトライアンフ ―部品扱いの僕が機械の彼と繋がる話―  作者: 狛犬えるす
光芒のヴィジランティ

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EP5 『恐怖に抗する術』

 この時、帝国宰相のザーゲビールが‶蛆ども〟と呼ぶレジスタンスもまた各地で武装蜂起を開始していた。

 山岳部や田舎などに潜伏していたレジスタンスがウォルポート連合王国の特殊作戦執行部(SOE)工作員と合流、連携し、各地で連合軍の侵攻のためにサボタージュや襲撃が相次いだ。

 中でも最大規模となったのは国境近くを拠点とするレジスタンス組織、農民軍による通信設備や発電施設でのサボタージュであり、実に二四ヵ所で襲撃が実行され、一五ヶ所で成功を収めた。


 高性能なプラスチック爆薬をどのように整形すれば最大の破壊力が得られるのかを、SOE工作員は叩き込まれ、レジスタンスはその教え通りに爆薬を運用し各地で最小を投じた最大規模の戦果を挙げたのだ。

 驚くべきことにこの帝国反攻作戦のためにウォルポート連合王国はパーシュミリアが陥落したその年、つまり二年以上前から工作員を訓練、派遣し続けており、同時に武器弾薬なども密かに供給し続けていた。

 将軍たちには金の無駄遣いと呼ばれ、性別経歴不問のなんでもありという方針から‶非紳士的戦争省〟と揶揄されていたが、この工作員たちは今回の作戦で立派に、そして非紳士的に実績を打ち立てたのだった。



「非紳士的な彼らは我らの六個師団と同等の兵力足りうる」


 

 真っ先に渡河に成功しSOE工作員たちと合流したサンベルナール共和国のギャビー・ボードゥアン中将はそう謝辞を述べ、SOE工作員やレジスタンスと積極的に協力し合うことになる。

 事実として国境付近で同時多発的に行われたこれらのサボタージュや反乱によって、帝国軍は連合軍の大規模渡河作戦に万全の状態で対応することが出来なくなり、一部の部隊は通信網から孤立し情報もないまま包囲されるという事態に陥った。

 また後方攪乱任務に当たった空挺装甲部隊の活動は帝国軍増援部隊の到着を阻害し、各地で観測された短距離弾道ミサイルの報告と迎撃、広範囲に渡るジャミングなどもあり、帝国軍の動きは停滞していた。


 ドネル川は川幅が一キロメートルを超える箇所もある大河であり、検問施設を備えた片側二車線の大型橋が二つ掛かっている。

 大河にも関わらずそれだけかと思うかもしれないが、交通の主体はこの二つの大型橋といくつも存在する河川港に集約しており、このうち河川港は船舶数の確保が迅速に出来ないことから進軍にも兵站にも不適格であるために渡河作戦初動の大部分は大型橋二つの確保に集約した。

 比較的川の勢いが穏やかな箇所に建築された大型橋の「ワラキア大橋」と「モルダビア大橋」の二つは、前者をサンベルナール共和国陸軍第三軍が、そして後者をウォルポート連合王国第五軍の担当戦域となり、これを奪取することとした。


 国境の中央付近に存在する「ワラキア大橋」の奪取は、反攻作戦の初動の中でもっとも重要だ。そしてドネル河をさらに南へ八〇キロほど下った地点にある「モルダビア大橋」もまた同様だ。

 この二つの大型橋を奪取するため、連合軍は大規模空挺降下作戦を実施して対岸の都市、ジュルジェとフェテシュティ周辺の駐屯地の攻撃、制圧を行わせており、渡河作戦と並行して行うことによって前後で挟撃する手はずとなっている。

 駐留帝国軍は橋の爆破を試みたが、「ワラキア大橋」では共和国陸軍の重迫撃砲制圧射撃によりマヒ状態に陥ったところを、無人の地雷処理車を先頭に歩兵戦闘車がブレーキも踏まずに突撃するという荒業で制圧し爆破を未然に防いだ。


 またもう一方の「モルダビア大橋」では爆破作業中に現地レジスタンスの攻勢を受け、これを援護するために、たまたまこの地点に展開していたエアクッション揚陸艇、《フォルネウス》と《ヴェパール》が甲板にシミュラクラを搭載して河川を敵前強行渡河し邪魔するものを正義の三十ミリガトリング砲と一四〇ミリロケットですべて粉砕し、プラズマジェットエンジンとエアクッションの轟音と水飛沫をまき散らしながら豪快に突破した。

 川岸に辿り着いたフォルネウスとヴェパールは甲板上のシミュラクラを降ろした後、三十ミリガトリング砲をぶっぱなしながら艇首扉を開いて、艇内に乗り込ませていた自由ニルドリッヒ軍の歩兵二個中隊を展開させ、これを制圧下に置いた。


 愉快なことに、この敵前強行渡河の実施を立案して実施したのはハル少佐で、それをアーサー少佐と艦載AIが支持したため自由ニルドリッヒ軍のみの戦力でという条件付きで採用されたのだった。

 結果としてこれは先行する空挺降下部隊の戦果と合わせて、連合国内部において自由ニルドリッヒ軍が戦争遂行のための正当性確保という名目で存在する、名ばかりの張り子の虎であるという悪評を払拭した。

 この大型橋の奪取・占領が確定した時点で、連合軍は大型橋から機甲部隊を対岸に展開させると同時に、中型橋への攻撃と占領、ならびに小型橋の威力偵察と架橋地点の制圧を同時に開始し、ドネル川一帯をとりあえずのところ制圧したのだ。



―――



 先んじて空挺降下した部隊、自由ニルドリッヒ陸軍、任務部隊一七八九とアゲラン大隊は「ワラキア大橋」の先、ドネル河近くの都市ジュルジェ付近の駐屯地の二か所の制圧に成功していた。

 一方で、「モルダビア大橋」の先にあるフェテシュティ周辺の駐屯地と砲台を破壊するはずのアゲラン大隊第二中隊の行方は、ウォルポート連合王国が大橋の奪取に沸く連合軍司令部にもたらされた。ミルチャ・チャウシェスク大尉率いるアゲラン大隊第二中隊二八機は、パース国家弁務官区の弁務官、マンフレート・ツェロット・フォン・ヴュルテンベルク率いる直属の髑髏大隊トーテンコップ・バタリオンと、帝国陸軍の第五〇五独立装甲保安中隊シュヴェーレ・ポリツァイコンパニーによって狩りたてられ各所で捕捉、包囲殲滅された挙句に、一か所にまとめられて処刑されたのだ。それは処刑の様子が他でもないヴュルテンベルクによってオープンチャンネルで放映したことで明らかとなった。

 戦争には戦争法というルールがある。それは、人間が人間同士で戦う以上、引き返せないところまで暴力が及ぶことが無いようにするための安全装置だ。それはいつの時代でも、常に完全に守られたことなど一度もなかったが、堂々とそれを見せつけるような振る舞いが良しとされたことはなかった。



「こいつは……面倒だ」



 と、正統共和国宇宙艦隊軍務長兼、艦隊司令官兼、参謀総長兼、共和国暫定議会国防大臣兼、今やいつの間にか少将となっていたニルス=オーラヴ・フスベルタは、自由ニルドリッヒ軍のフランシス・シュヴァルツのホログラムの前で呟いた。

 議会制民主主義を凍結し国土奪還と帝国への復讐を掲げる自由ニルドリッヒと、その軍事部門の自由ニルドリッヒ軍は、そのどちらもがフランシス・シュヴァルツを頂点に置いている。そしてシュヴァルツが不要として投げ捨てた共和国暫定議会は、議会制民主主義への宣誓と自らの政治理念からニルス=オーラヴ・フスベルタが拾って保護している状態だった。本来ならその政治的な立場から協力しないであろう二人はしかし、必要であるというただそれだけの理由で手を取り、こうしてホログラム越しに顔を合わせている。このホログラムの会談は共和国暫定議会には秘密なだけでなく、すでに複数回行われているが、議会制民主主義の守護者となってしまったフスベルタがそうした理由は単に「説明が面倒くさい」からだった。

 インスタントの紅茶を一口啜り、フスベルタ元帥は眉間に皺を寄せながら一言も口をきかないでいるシュヴァルツの顔を見ながら言った。



「こういうタイプは徹底しています。解放戦でよくある現地民からの協力は最小限に留まると考えた方が良いでしょう。国境部はウォルポートの連中のお膝元だったから上手くいきましたが、こいつが相手では同じ手は通用しないはずです」


「君もそう思うか?」シュヴァルツの彫像のような厳めしい無表情は変わらない。「実は既に解放地で弁務官への密告者だと住民間で衝突や私刑が起こっている。事態は深刻だ。連合軍の全会一致で軍警察(MP)や国家憲兵隊の増派が決まった」


「でしょうね」



 さも当然だと言わんばかりの態度に、シュヴァルツの眉がぴくっと痙攣した。



「君は歴史に詳しいようだが、この手の問題への解決策は歴史の中で語られているのか?」


「徹底した恐怖と監視の下で抑圧された住民は、相互不信に陥りがちです。こいつは協力者には飴を与え、敵対する者には鞭を与えるタイプです。飴が欲しくて協力者になった連中はかなり多いと見た方が良い」


「それで、解決策は」


「即効性のあるものはありません」シュヴァルツの眉が再び痙攣するのをフスベルタは見た。「―――しかし、一番単純なのは、恐怖の主体が劣勢であると見せつけることです」


「ふむ」



 たとえば、とフスベルタは今なお捕虜処刑の様子がリピート再生されているウィンドウを指さしながら言った。



「‶これ〟です。敵は恐怖を植え付けるためにメディアを使っていますが、僕らはそれを敵の弱さや地盤の不安定さ、そしてなにより連合軍の強さと勝利の可能性について使うことが出来る。それが住民に届くかは別としてですが」


「情報統制はシュリーフェン帝国が最も得意とする分野だ。しかし、なにもしないよりはマシだろう。その案を連合軍各国に掛け合ってみよう」


「それが良いでしょう。―――それで、マリアネス連合宇宙軍の動員はまだかかりますかね?」



 ぐっと背を椅子に預けながら、フスベルタは苦笑する。

 マリアネス連合は複数の国家が加盟する国家連合で、政治主権や軍事などは統一されていない。それは宇宙軍も同様であり、停泊地がマリアネス領有の軌道エレベーター≪アイテール≫というだけであって、その動員体制や展開宙域はそれぞれの宇宙軍の管轄となっている。休戦期間中にすべてが済めばよかったものの、ウォルポート連合王国は艦隊規模の大きさから乗員を宇宙に上げるのと予備役艦の再起動で手一杯で、サンベルナール共和国に至っては地上戦を最優先としたために宇宙軍の動員はほとんど進んでいなかった。正式に戦争状態となった現在、軌道エレベーターは条約で守られてはいるものの、宇宙港から打ち上げられたシャトルは拿捕の可能性があって使えない。そのため、宇宙軍の動員はなかなか進んでいないのだ。

 それを知っているにも関わらず苦笑しながら問うてきたフスベルタに対して、シュヴァルツも苦笑しながら応じた。



「まだかかるな。そちらも急がせるように言っておこう」


「どうも。できればウォルポートだけでも話をつけておいてくれると助かります」


「……なにか腹積もりがあるのか?」



 正統共和国宇宙艦隊軍務長兼、艦隊司令官兼、参謀総長兼、共和国暫定議会国防大臣兼、ニルドリッヒ共和国第三艦隊改め正統共和国直掩艦隊司令長官、ニルス=オーラヴ・フスベルタ少将は右手で旋毛辺りを掻きながらこともなげに答えた。



「無いと言ってられないのが、今の僕の立場なんでね。まあ、やるだけやってみますよ」



 そうか、とシュヴァルツは言った。

 そしてウォルポート連合王国に対してその旨を打診し、いち早く宇宙軍の動員を完了させるように掛け合ってみる、と。

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