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後編

「いいえ、それは望まないよ」




「どうして?彼等なら、お前を救ってくれるだろう」




「〝セラフの翼〟だった少女たちが望まない。それに、私だって望まない。これは私の運命で使命なんだもん」




予想外の答えだった。彼女は生きたいと叫ぶのだと思っていた。私の驚きを裏腹に、桜花はふわりと花が綻ぶように笑う。それは大人になれなかった少女たちの面影を残していて、私を今一層悲しくさせた。




「桜花…」





「例え、魔王の子でも、竜族の子でも、英雄の子孫であっても。この運命に楯突くことは不可。ましてや相手は漠然と迫りくる闇だよ」




「分かった。分かったからそれ以上言うてくれるな」




桜花は肩を竦めて口を噤んだ。やるせない。呆然として桜花を見つめる隊長たちに、私は静かに首を振った。この子は本心から救われることを望んでいない。否、救われることではない。彼女は危険に晒されてるわけではないから、救われるという言葉には語弊があるが。





「…まぁ、そういうことだよ」





「…そういうことだよなぁ。久しぶりにぐっさり心を抉られたわ。お前、本当に生きる気ないのか?」




「それ違うよ。知ってる癖に。私は世界を包む翼になって生きるの」




皆を守って生きるなんて素敵じゃない?と桜花は続ける。泣きそうな千雪さんや瑠夏さんを横目に、ちょっと残酷だったかと息を吐く。可愛がってくれていたからな。




「だよなぁ。隊長や皆はお前を…」





「どうしちゃったの咲夜。今日は珍しく引かないねぇ」




「一縷の望みに掛けてみたくなったんだ」




魔王の子、竜族の子、英雄の子孫。それから王族の子たち。過去に関わり、何らかの形で〝セラフの翼〟と一緒に居た存在。再び、こんなカタチで(まみ)えたのは奇跡。




その奇跡を手離すには、まだ惜しいのだ。どうせなら有効に使ってやりたい。今代の〝セラフの翼〟の為に。桜花の為に。





これは必然的な運命なのだから。巡りに巡ったラストチャンス。逃せばもう二度とやって来ないだろう。世界は、なんだかんだ言いながら〝セラフの翼〟が愛おしい。自分を包み込み、己の子ども(生きとし生けるもの)を護って欲しいと願いながら、己の子供でもある桜花に生きて欲しいと願っている。





矛盾の中に感じる愛情。笑ってしまう。





「ははっ。あははははっ」




「咲夜?」




「生きたいくせに。過去の女神たちもそう願って来たんだ。お前もその例外に漏れる筈がない」




「…何を言ってるの。本当に今日どうしちゃったの。咲夜、可笑しいよ」




「魔王の子よ、竜族の子よ、英雄の子孫よ、王族の子たちよ。お前たちの思いはしかと受け止めた。まだ幼き〝セラフの翼〟よ。お前の望みはしかと聞き届けた」




私は〝ケルプの瞳〟として歴史を見て来た。言葉で綴り、夢で見せ、絶望を知って来た。守れなかった苦しみも、伝えれなかった悲しみも全部背負ってきた。





「世界を跨いできた者共よ。連れて行くがよい。お前たちの世界に」




私は隊長たちに笑い掛ける。私は知っていた。此処は彼等の世界ではないと。かつて過去で何らかのカタチで一緒に過ごした。しかし、だ。世界は幾重にも存在する。




彼等はそこに居た。




私たちとは違う、それでいて同じ世界に。






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