中編
お久しぶりです。全三編を目標にしております。
何よりも世界が愛おしかった創造神は〝ケルプの瞳〟と〝セラフの翼〟を創った。それを持つ者は、人間でありながら神の末席に名を連ねることが許された。けれど、神ではない。人の子なのだ。
もう何度繰り返してきただろう。あの子たちはちゃんと幸せに生きているだろうか。この苦しみも悲しさも何も知らずに生きているのなら、それで良い。
「あれっ、皆さんお揃い!?お茶!!」
「桜花、ボトルに入ったお茶を持っておいで」
「はひ!?良いんですか?!」
「良いよ。早く戻って来るんだよ」
「桜花!私も行くから落ち着きなさい!」
藍さんに諭されて、桜花はまた給湯室へと戻って行く為に足早に出て行く。置いて行ったマグカップは、私と桜花と瑠夏さんの分だけ。瑠夏さんにマグカップを渡して、私も給湯室へ向かう為に腰を上げた。
「咲夜ちゃん、ボクが代わりに行くよ」
「え?いや、私行きますよ」
「千雪、行って来い」
言外にお前残って話をしろと告げた龍己さん。嫌だなぁ。そんな目で見つめないでほしい。薄暗い炎を灯した漆黒の瞳に呑み込まれそうになる。
いま執務室には瑠夏さんによって緊急招集が掛けられ、特殊部隊の面々が揃っている。隊長の龍己さん、副隊長の藍さん、医療担当の千也さん、諜報担当の瑠夏さん、雑用係の千雪さん。ちなみに余談ではあるが、千雪さんは私と桜花の先輩で、千也さんというお兄さんと一緒に所属している。
「で、話してもらおうか」
特殊部隊。名の通り特殊、普通ではない。よって、此処に居る者すべて特殊な存在なのだ。まったくもって、厄介な組織が残っていたものだと私は嘆息する。そういえば、昔は神代庁だとか神宮省だとか色々あったなあ。異端児や忌み子と呼ばれる特殊な人間の集まりが。
「…名を変えても尚残り続けているということは、私たちはいつかこうなることを信じて願い続けたから、消さなかったんだろうなぁ」
「は?」
「元々〝ケルプの瞳〟の役目は世界の行方を知りながらも、ずっと見守り続けること。幾人もの〝セラフの翼〟たちを見殺してきた大罪を背負いながら、ずっとずっと傍らで見守り続けてきた」
「お前が〝ケルプの瞳〟だと?」
証拠は何処に、と声なき声が問う。証拠などありやしない。私という存在こそが〝ケルプの瞳〟なのだから。〝ケルプの瞳〟とは違い〝セラフの翼〟には聖痕がある。左胸に広がる両翼の刻印。私の両親と彼女の両親、そして私と桜花を取り上げた医師のみがこの事実を知っている。
〝ケルプの瞳〟には聖痕がない。ただ世界の記録者としての記憶が、ハジマリの時から受け継がれる。そうして〝ケルプの瞳〟としての役割を思い出すのだ。
「えっと、なんて説明すりゃ良いのか。世界の記録者という役目を他人様に教えると言うのが、何せ今回が初めてなものでねぇ。さて、どうしようかなぁ」
「え?」
「歴史を語るのは安易すぎるし、内情を語っても伝わらないし、証拠と言う証拠がないんだよねぇ。桜花、出てらっしゃいな」
扉の前に見えた二つの影に私は声を掛ける。千雪さんと桜花だってことは気配で分かった。見知った気配と愛する気配。分からないわけがない。
「咲夜…」
「お前が愛しい〝セラフの翼〟だというのは神々の中では周知の事実。人々が知らないだけで、世界や神々は知っているんだ。かつて存在した神代庁や神宮省が、こんな形で生き残っているだけだというのは分かるな?」
「うん、ずーっとずーっと私たちの傍に居たんだもん」
「そうだ。ただ、その面々と顔を合わせ話をするというのはこれが初めてなわけだ。どんなに特殊部隊の彼等が、〝セラフの翼〟や〝ケルプの瞳〟を調べようとしても、存在する書物は少なく情報はごく僅か。お前はこれより歴史を語ることを許可するか?」
私は歴史書。世界が生まれたこの幾星霜、見守り続けた生きる書物。さぁ、お前の思うがままに。願うがままに。




