プロローグ
――この世には、あそびのかみさまがいる。
街は、もうめちゃくちゃだった。
崩れたビル。割れたアスファルト。赤く燃える空。
どこからか聞こえる警報も、誰かの叫び声も、炎の音に呑み込まれていく。
その中で、私――朝倉紬は、膝をつきそうになる身体を必死に支えていた。
意識が霞む。息を吸うたびに喉が焼ける。
それでも、私は歯を食い縛って前を見た。
目の前にいるのは、腹が立つほど美しい顔をした、私と同い年の少女。
黒羽ミナ。
私は、彼女をそう呼んでいる。
燃え盛る街の中心で、ミナだけが異様なほど静かに立っていた。
炎の赤も、瓦礫の影も、彼女には届いていないみたいだった。
ミナは冷たい瞳で私を見下ろし、短く言った。
「諦めろ」
ぶっきらぼうで、言葉足らずで。
でも、それが彼女なりの優しさなのだと、私はもう知っている。
だからこそ、余計に腹が立った。
「……諦めない」
震える声で、私は言い返した。
ミナの表情は変わらない。
ただ、少しだけ目を細めて、私から視線を逸らさずに続ける。
「崩壊シナリオが起動してる。ここまでだ」
その瞬間、ミナの足元から黒い影が這い上がった。
ぐるぐると渦を巻き、彼女の周囲を覆っていく。
やがて影は、ぼろぼろに裂けたマントの形を取った。
無数の異形の目が、その布の奥でゆっくりと開く。
ミナはそれを、何でもないことのように羽織った。
まるで、死そのものを纏うみたいに。
「この遊びは、ここで終わらせる」
ダメだ、と叫びたかった。
けれど、声が出なかった。
喉の奥で言葉が震えて、炎の熱に溶けていく。
この世界には、あそびのかみさまがいる。
子どもの遊びを、世界のルールに変えてしまう神様たちが。
そして――。
それを終わらせる死神も、いる。




