第70話 「揺れる日常と、“完全には分けられない現実”」
朝・何気ない違和感
「……また増えてる」
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水上颯太がスマホを見ながら呟く。
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“斉藤もも”関連のニュース。
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撮影情報。
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SNSの反応。
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昨日より、さらに一段増えている。
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桜井桃華はコーヒーを飲みながら言う。
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「戻ってきた実感あるね」
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でも、その言葉には少しだけ重さがある。
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外の世界の加速
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マネージャーの岸田ほのかから連絡。
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「取材依頼、かなり来てます」
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「テレビもまた動いてます」
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桃華は少し考える。
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「全部は無理」
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「選ぶ」
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“選択”の意味
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それは単なる仕事量ではない。
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“どの顔をどこまで見せるか”の選択。
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桃華はそれを理解している。
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午前・保育園
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子どもたちを送り届ける。
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いつもの風景。
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でも今日は少しだけ違う。
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保護者の一人が小さく話している。
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「最近さ、あのニュースの人って……」
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桃華は聞こえないふりをする。
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颯太は気づいている。
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(そろそろ来るか)
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“外と内の接点”
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この家の中は静か。
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でも外は動き始めている。
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その差が少しずつ埋まり始める。
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夕方・小さなズレ
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帰宅後。
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桜がぽつりと言う。
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「今日、誰かがね」
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一瞬、空気が止まる。
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桃華が振り向く。
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「なに?」
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桜は少しだけ考えて言う。
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「“もも”って言ってた」
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沈黙
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颯太と桃華が一瞬だけ目を合わせる。
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外の世界が、内側に入ってきた瞬間。
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夜・確認
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子どもたちが寝たあと。
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リビング。
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颯太が言う。
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「もう完全には隠せないな」
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桃華はゆっくり頷く。
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「うん」
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境界の変化
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これまでは“分けていた”。
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でも今は違う。
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“漏れてくる”。
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外の顔が、内に影響する。
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内の顔が、外に滲む。
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夫婦の判断
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颯太が言う。
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「無理に隠すのはやめるか?」
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桃華は少し考える。
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そして言う。
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「でも、守るのは守る」
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「子どもたちの世界は別」
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結論
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“全部を開く”わけじゃない。
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“全部を隠す”わけでもない。
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その間のバランス。
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締め
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桃華が静かに言う。
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「また難しくなってきたね」
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颯太は笑う。
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「でも前よりは分かってる」
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桃華も小さく笑う。
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「そうだね」
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外と内。
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二つの世界は、もう完全には分けられない。
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そして――
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その“交差点”に立つ家族は、
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少しずつ次の段階へ進んでいく。
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