閑話⑪ 「“二つの顔”と、それを知る意味」
夜・同じ場所にいる二人
リビング。
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明かりは柔らかく、静かな時間。
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桜井桃華はソファに座り、
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その隣に、水上颯太。
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さっきまでの余韻が、まだ少しだけ残っている。
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颯太が口を開く。
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「……なあ」
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桃華が横目で見る。
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「なに?」
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言葉にする覚悟
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颯太は少しだけ考える。
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簡単なことのはずなのに、
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言葉にするには、少しだけ勇気がいる。
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「さっきさ」
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「両方見せてもらったじゃん」
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桃華は静かに頷く。
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「うん」
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二つの存在
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颯太はゆっくり続ける。
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「“斉藤もも”と」
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「“桜井桃華”」
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「全然違うのに」
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「どっちも同じ人で」
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言葉を探す。
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本当の気持ち
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そして、はっきりと言う。
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「やっぱ、好きだわ」
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桃華が少しだけ目を細める。
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「どっちが?」
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少しだけ意地悪な問い。
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迷わない答え
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颯太は迷わない。
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「両方」
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「どっちかじゃなくて」
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「両方だから好きなんだと思う」
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桃華の沈黙
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桃華は一瞬だけ言葉を失う。
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それは予想していた答えでもあり、
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それ以上のものでもあった。
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「……そういうの」
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小さく呟く。
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「ずるいね」
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颯太が聞く。
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「なんでだよ」
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桃華は少し笑う。
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「逃げ場なくなる」
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“受け入れられる”ということ
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颯太は静かに言う。
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「逃げる必要あるか?」
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「どっちもお前なんだろ」
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その言葉はシンプルで、強かった。
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桃華の答え
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桃華はゆっくりと肩を預ける。
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「……ありがと」
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小さな声。
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でも、ちゃんと届く距離。
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ももとしても
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桃華は少しだけ視線を上げる。
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「じゃあさ」
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「“斉藤もも”としても聞いていい?」
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颯太は頷く。
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桃華はほんの少しだけ表情を変える。
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「あの私も、ちゃんと好き?」
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即答
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颯太は迷わない。
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「当たり前だろ」
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「最初に好きになったの、そっちだし」
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重なる答え
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桃華は小さく笑う。
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「そっか」
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そして、少しだけ目を閉じる。
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“もも”としても、
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“桃華”としても、
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どちらも否定されていない。
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静かな再確認
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颯太がぽつりと言う。
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「むしろさ」
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「両方知ってる俺、ちょっと得してる気分」
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桃華は吹き出す。
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「なにそれ」
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締め
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二人の距離は、もう迷いがない。
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“違う顔”を持っていても、
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それは分裂ではなく、重なり。
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颯太が最後に言う。
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「どっちもお前で」
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「どっちも好きだよ」
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桃華は何も言わず、
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静かに寄り添った。
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それが、答えだった。
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