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閑話⑦(前編)「姉の条件と、揺れる“現実”」


■夕方・電話


「……もしもし」


スマホを取った瞬間、胸がわずかに跳ねる。


画面の名前は――水上颯太の姉・眞衣。


「桃華さん?少し話したいことがあるの」


落ち着いた声。


以前の棘は薄いが、まだ“距離”はある。


「颯太と来れば良いですか?」


思わず出かけた言葉に、自分でも一瞬止まる。


数秒の沈黙のあと、眞衣の声が返る。


「……颯太じゃなくて、あなたと直接」


「……分かりました」


一拍。


桃華は息を吸う。


「はい」


短く、逃げずに答えた。



■カフェ・窓際


夕暮れの光がテーブルに落ちる。


「呼び出してすみません」


「いえ、大丈夫です」


眞衣は少し視線を外す。


「急にだったから、驚いたでしょ」


「少しだけ……でも、大丈夫です」


「……そう」


眞衣はカップを見つめる。


「前は……ごめん」


「いえ……大丈夫です」


「正直、まだ全部受け入れてるわけじゃない」


「……はい」


沈黙。



「ひとつ聞いていい?」


「はい」


眞衣の視線が少しだけ鋭くなる。


「颯太と、本気なの?」


桃華の指が止まる。


「……本気、です」


即答ではない。


けれど揺れはなかった。


「そう」


眞衣はそれだけ言って、少し息を吐く。


「じゃあ、話すね」



■条件の提示


眞衣は背筋を伸ばす。


「条件、っていうより確認」


「はい」


「家族として話す」


空気が少しだけ変わる。


「……逃げないで聞いてね」


「逃げません」


即答だった。




「子どもたちのこと、私も協力する」


「……え?」


桃華の目が揺れる。


「家族でしょ」


「でも、それは……」


「でもじゃない」


眞衣は即座に遮る。


「一人で抱える方が無理」


「……ありがとうございます」


声が少し震える。


「ありがとうじゃなくて、当然」




「仕事はやめなくていい。無理しない範囲で」


「ただし」


眞衣は少しだけ声を落とす。


「倒れるまでやるのは禁止」


「それは……分かってます」


「ほんとに?」


「……はい」


少しだけ間。


「ならいい」




「浮気とか曖昧な関係は絶対ダメ」


桃華が頷く前に、眞衣が続ける。


「もしやったら、絶対許さない」


「それは颯太のためでもあるし、私のためでもある」


「彼、そういうの絶対弱いから」


桃華は真っ直ぐ見る。


「しません」


「……うん」


眞衣は一瞬だけ目を細める。


「そこは信じる」




少しだけ沈黙。


眞衣はカップを置く。


「最後」


「颯太のこと」


桃華の表情が変わる。


「ちゃんと見てあげて」


「彼、自分のこと後回しにする」


「だから、止める人が必要」


桃華は静かに頷く。


「……私が、止めます」


その言葉に、眞衣が一瞬だけ驚く。


「止める、って言えるんだ」


「はい」


短く、強く。



■本音の時間


眞衣は少しだけ肩の力を抜く。


「正直に言うね」


「はい」


「最初は本当に無理だと思ってた」


「全部」


桃華は黙る。


「年齢も状況も、全部」


「現実的じゃないって」


苦い笑い。


「でも」


眞衣は視線を上げる。


「颯太が変わったの」


「前よりちゃんと笑うし、ちゃんと食べるし」


「無理しなくなった」


「それ見て思った」


「この子がいるから、保ってるんだって」


桃華の呼吸が一瞬止まる。


「……そう見えるんですね」


「見えるじゃなくて、そうなの」


即答だった。



■小さな衝突


桃華が小さく言う。


「でも、それって私がいないとダメってことにもなりますよね」


眞衣は少しだけ目を細める。


「そうじゃない」


「……え?」


「“依存”じゃなくて、“安定”」


「彼がちゃんと立ててる状態」


「その中心にあなたがいるだけ」


桃華は言葉を失う。


「……そんなふうに」


「見てるの」



■確認


眞衣は静かに言う。


「確認だけ」


「この家族、やっていけるのか」


桃華は少しだけ息を吸う。


「やっていきたいです」


「颯太と?」


「はい」


即答。


眞衣は小さく頷く。


「うん」



■帰り際


眞衣は立ち上がる。


「子どもたちのこと、本当に手伝うから」


「無理だと思わないで」


「一人じゃないから」


桃華も立ち上がる。


「ありがとうございます」


頭を下げる。


眞衣は少しだけ視線を逸らす。


「……家族だから」


そう言って、店を出ていく。



■一人


夕暮れのカフェ。


(家族、か)


スマホが震える。


ほのか「仕事、少しずつ再開できます」


桃華「お願いします」


送信。



■終幕


外は少し冷たい風。


桃華はお腹に手を当てる。


(三つの命)


(ひとりじゃない)


「……ひとりじゃない」


今度は、少しだけ“強さ”の混じった声だった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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