第105話 「“再び近づく影”と、試される日常」
■大学・違和感の始まり
昼前のキャンパス。
講義の合間、廊下には学生たちのざわめきが広がっている。
水上颯太は、いつも通りの足取りで教室へ向かっていた。
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だが――
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(……視線が多い)
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明らかに、ここ数日とは違う。
“落ち着いたはずの空気”の中に、
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また別の“違和感”が混ざり始めていた。
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そのとき。
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「水上くん」
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後ろから声を掛けられる。
振り返ると、そこにいたのは――同じ学部の男子学生。
どこか探るような目。
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■直接の問い
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「ちょっと聞いていい?」
「この前さ……」
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一歩近づく。
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「“斉藤もも”と一緒にいたよね?」
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核心。
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(……来たな)
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颯太は一瞬だけ間を置く。
だが、表情は崩さない。
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「知り合いではあるけど」
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曖昧に、しかし否定はしない。
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■追撃
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「やっぱりか」
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その男子は納得したように頷く。
「あとさ――」
さらに続ける。
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「桜井桃華、最近見てないけど……どうしたの?」
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その名前が出た瞬間、空気がわずかに張り詰める。
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(ここは……)
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答えようとした、そのとき――
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■別の声
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「ねえ、水上くん」
横から声が入る。
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振り向くと、そこには三人の女子学生。
藍田杏香
蒲田絢佳
鎌田綾音
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桃華と親しかった三人。
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■詰め寄り
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杏香が一歩前に出る。
「桃華、なんで学校来てないの?」
真っ直ぐな目。
「連絡も返ってこないし……」
絢佳も続く。
「何かあったの?」
綾音も小さく頷く。
「この前、“斉藤もも”が来てたのも変だったし……」
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■重なる疑問
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一気に集まる視線。
颯太は、言葉を選ぼうとする。
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だが――
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■教授の登場
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「その件については、私から説明しよう」
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低く落ち着いた声。
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振り向くと、
そこに立っていたのは――教授・黒崎隆司
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■正式な説明
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「桜井桃華さんは、すでに本学を退学しています」
静かながらも、はっきりとした声。
「理由としては――」
「ある事情と学業の両立が難しいとの申し出があり、大学側として了承しました」
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■衝撃
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その場の空気が一瞬で凍る。
「えっ……?」
杏香が目を見開く。
「そんなの……聞いてないです」
絢佳と綾音も、同時に首を横に振る。
「私たち、何も……」
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■動揺
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三人の中に広がる不信感。
そして同時に、“空白”への疑問。
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■新たな疑問
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綾音が、ふと颯太を見る。
「じゃあ……」
「なんで“斉藤もも”がここに来てたの?」
核心に近づく問い。
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■さらに
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そのタイミングで、別の二人が加わる。
塚原真由子
鳥柴恒一
颯太のサークルの先輩たち。
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■興味と疑問
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「それ、私も思った」
真由子が腕を組む。
「なんで来てたん?」
鳥柴も続く。
「水上くん、あの人と知り合いなん?」
さらに踏み込む。
「彼女?それとも付き合ってる?」
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■集中する視線
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全員の視線が、颯太に集まる。
(ここは……崩すな)
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■颯太の返答
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「いや、そういうのじゃないです」
落ち着いて答える。
「俺、ただのファンなんで」
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「握手会とか、ファン感謝祭とか……」
「サイン会も含めて、合計で100回以上……多分200回くらい行ってるんで」
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■反応
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「えっ⁉︎」
杏香が大きく驚く。
「そんなに行ってるの?」
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■真由子の理解
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「なるほどなぁ」
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真由子が納得したように笑う。
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「それだけ熱心なファンやったら、顔覚えられてても不思議じゃないな」
「だから、あの居酒屋でも一緒やったんやね」
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■現実的な指摘
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「でもさ――」
「さすがにあんな隣におったら、他のファン怒るんちゃう?」
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■颯太の返し
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「そこはちゃんと距離取ってますよ」
「プライベートでも、あくまで“ファンとして”って感じで」
完全な納得ではない。
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だが、一応の“説明”としては成立する。
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■残る違和感
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それでも―― 杏香たちは完全には納得していなかった。
(桃華が何も言わずに辞めるなんて……)
その違和感は消えない。
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疑いは、完全には消えていない。
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だが、“決定的な証拠”もない。
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だからこそ、この状態が一番危うい。
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表面は静か。
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だが内側では、確実に“何か”が積み重なっている。
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そしてそれは―― いつか、形になる。
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