第103話 「“崩れる一線”と、選ばれる覚悟」
■昼・静かに動く“裏側”
部屋の中。
水上颯太はスマホを握りしめていた。
画面に映るのは―― “斉藤もも 応援裏垢”
フォロワー数はすでに、250万人 → 300万人
(50万人も増加していた。)
急激な増加。
それだけ、“注目”が集まっている証拠だった。
(ここで、止める)
これ以上、広がらせないために。
“特定”の流れを断ち切るために。
颯太はゆっくりと文章を打ち込む。
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■投稿内容(全文)
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「皆さんへ」
現在話題になっている“特定の男性”についてですが、
SNS上で名前が挙がっている人物は、斉藤ももさんと特別な関係にある人物ではありません。
食事会やイベントでは、ファンとの距離が近くなる場面もあります。
それを一部だけ切り取って、特定の関係と結びつけるのは誤解を生む可能性があります。
斉藤ももさんは、常にファン一人ひとりと誠実に向き合っている方です。
その姿勢を、どうかそのまま受け取ってください。
憶測や過度な詮索によって、本人や周囲に負担がかかることを望んではいません。
本当に応援しているなら、今の活動を静かに見守ることが一番だと思います。
これからも“斉藤もも”を応援していきましょう。
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投稿ボタンを押す。
数秒して… そして一気に広がる。
「これ信頼できる情報じゃね?」
「この人ずっと詳しいよな」
「確かに冷静に考えればそうか…」
「過剰に騒ぎすぎてたかも」
空気が、変わる。
“特定しようとする動き”が、少しずつ鈍る。
完全に消えたわけではない。
だが、“勢い”は確実に落ちた。
(……ひとまず、これでいい)
完璧ではない。
だが、“守れるライン”は維持できた。
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玄関のドアが開く。
帰ってきたのは―― “斉藤もも”。
だが、そのままリビングに入ると、ふっと表情が柔らかくなる。
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■桃華の顔
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「ただいま」
その声は、“桜井桃華”。
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■颯太の返事
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「おかえり」
いつも通りのやり取り。
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桃華はスマホを手に取り、画面を見る。
そして、小さく笑った。
「……見たよ」
「さっきの投稿」
颯太は少しだけ視線を逸らす。
「まあ、あのままだと面倒だったから」
桃華はゆっくり近づくき… 颯太の隣に座る。
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■静かな感謝
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「ありがとう」
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短い言葉。
だが、それだけで十分だった。
「もう、あんまり寄ってこないね」
「これで少しは安心できる」
「ああ」
桃華はゆっくり立ち上がる。
「ねえ」
振り返り… その目は、少しだけ柔らかい。
桃華が提案をする。颯太に…
「今日は……一緒にお風呂入ろ?」
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自然な言葉。
だが、そこには“意味”がある。
浴室に流れるお湯の音。
外の騒がしさとは無関係の、静かな空間。
隣にいる存在。
言葉は少ない。
だが、距離は近い。
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■桃華の想い
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「今日はね」
「ちょっとだけ、“もも”でいたい気分」
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軽く笑う。
それは、“ありがとう”の代わり。
颯太は何も言わず、ただ頷く。
外の世界では、まだ完全には消えていない疑い。
だが、その中心にいる二人は――変わらず、同じ場所にいる。
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守るために動いた一歩。
それは確かに、“ふたりの関係”を強くしていた。
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