第98話 「“日常の中の違和感”と、静かに近づく変化」
■午後・大学の空気
講義が終わる。
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椅子が引かれる音。
ざわつき。
学生たちの雑談。
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いつも通りの光景。
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だがその中に、ほんの少しだけ違う流れがあった。
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■噂の輪
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「昨日のやつさ」
「ほんとに来てたらしいよ」
「“斉藤もも”が大学に来るとかあり得る?」
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声は小さい。
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だが確実に広がっている。
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■颯太の位置
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颯太はその中心にはいない。
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だが“近く”にはいる。
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直接聞かれることはない。
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しかし視線は感じる。
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(まぁ、時間の問題だな)
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焦りはない。
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ただ、“広がっている”という認識だけがある。
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■教室を出る
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颯太は席を立つ。
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廊下に出ると、さらに人の流れが多い。
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その中で、ふと声がかかる。
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■女子学生の声
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「ねえ」
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振り向くと、見覚えのある女子学生。
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食事会にいた一人――
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桜井陽菜。
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■違和感のある再会
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「昨日、いたよね?」
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ストレートな問い。
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颯太は少しだけ考える。
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「いたけど」
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隠す必要はない。
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■核心に触れかける
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陽菜は少しだけ距離を詰める。
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「さ」
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「なんか……近くなかった?」
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その言葉は曖昧。
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だが、的を射ている。
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■颯太の対応
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颯太は表情を変えない。
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「気のせいだろ」
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即答。
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■完全には納得しない視線
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陽菜は少しだけ首を傾げる。
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「……そうかな」
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完全には納得していない。
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だが、それ以上は踏み込まない。
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「まぁいいや」
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軽く笑って、その場を離れる。
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■残る違和感
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颯太はその背中を見ながら思う。
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(やっぱり、気づくやつはいるか)
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“バレてはいない”。
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だが、“違和感”は確実に広がっている。
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■同時刻・自宅
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桃華は窓際に立っている。
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スマホを片手に、外を眺めている。
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通知はまだ止まらない。
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■コメントの一つ
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「昨日の食事会、距離近すぎじゃない?」
「なんか特定の人とだけ雰囲気違ったよね」
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ほんの一部の声。
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だが、確実に“見ている人”はいる。
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■桃華の反応
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小さく笑う。
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「バレてはないけど……」
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「見られてるね」
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■理解
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“完全に隠す”ことはもう難しい。
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だが、“確定させない”ことはできる。
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その微妙なライン。
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■メッセージ
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桃華はスマホを操作する。
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「ちょっとバレかけてるかも」
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■大学・颯太
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メッセージを見る。
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少しだけ笑う。
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「まだ大丈夫だろ」
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短い返信。
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■共有される認識
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お互いに分かっている。
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・完全には隠せない
・でも決定的にはならない
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そのバランスの上に、今の関係はある。
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■夕方・帰路
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颯太は大学を出る。
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空は少し赤くなっている。
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人の流れに紛れながら、駅へ向かう。
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■締め
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“普通の日常”は続いている。
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だが、その中には確実に… “少しだけ違う要素”が混ざり始めている。
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誰かが気づき、
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誰かが疑い、
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そしてまだ誰も確信しない。
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その曖昧な状態のまま、世界は静かに変わっていく。
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