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第97話 「“変わらない日常”と、少しずつ変わる世界」


■朝・大学へ向かう道


朝の空気は穏やかだった。


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駅へ向かう人の流れ。

同じ時間に同じ場所を歩く人たち。

変わらない日常。


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その中を、水上颯太は歩いている。


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だが、昨日までとは違う。


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(もう隠してる感覚がないな)


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“斉藤もも”と“桜井桃華”。


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その関係を、自分の中で整理しようとする必要がなくなっていた。


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■大学・キャンパス


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キャンパスに入ると、いつもの光景。


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学生たちの会話。

講義へ向かう流れ。

笑い声。


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だが――


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ほんの少しだけ、空気が違う。


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■視線


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「……あれ、水上じゃね?」

「昨日のやつ行ってたって聞いた」

「“斉藤もも”のイベントだろ?」


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完全にバレているわけではない。


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だが、“知っている人は知っている”状態。


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■颯太の反応


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颯太は特に気にしない。


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「普通に行っただけだしな」


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それ以上でも、それ以下でもない。


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■講義室


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教室に入る。


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席に座る。


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ノートを出す。


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すべてが“普通”。


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■周囲の空気


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だが、隣の席の男子が話しかけてくる。


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「昨日どうだった?」


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軽いトーン。


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颯太は短く答える。


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「普通に食事会だった」


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それだけ。


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■違和感


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男子は少しだけ驚く。


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「え、それだけ?」


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期待していた“特別な話”は出てこない。


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■颯太の本音


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(特別だったけどな)


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ただし、それは“言葉にするものではない”。


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■同時刻・別の場所


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その頃――


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桜井桃華は自宅にいる。


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眼鏡をかけたまま、ソファに座っている。


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スマホには通知が並ぶ。


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SNSの反応。

ニュースのまとめ。

ファンのコメント。


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すべて“斉藤もも”宛てのもの。


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■桃華の表情


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それを見ながら、小さく息を吐く。


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「……すごいな、ほんと」


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他人事のようで、


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完全に自分のことでもある。


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■画面の中の自分


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そこに映っているのは、


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“斉藤もも”。


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だが、昨日の自分は、“桜井桃華”でもあった。


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■二つの世界


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・外の世界 → “斉藤もも”

・内の世界 → “桜井桃華”


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しかし今は、その境界がほとんど意味を持たない。


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■メッセージ


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桃華はスマホを操作する。


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短いメッセージを送る。


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「講義どう?」


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■大学・颯太


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スマホが震える。


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颯太は画面を見る。


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少しだけ笑う。


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「普通」


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それだけ返す。


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■繋がり


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たったそれだけのやり取り。


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だが、そこには確かな“日常”がある。


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■午後・再び日常


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講義が進む。


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黒板の文字。

教授の声。

ノートを取る音。


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すべてがいつも通り。


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しかし颯太の中では、確実に何かが変わっている。


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(どこにいても、繋がってるな)


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■締め


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外の世界は、今日も少しずつ騒いでいる。


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“斉藤もも”の話題はまだ消えない。


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だが――それに振り回されることはない。


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⸻


ももも、桃華も、

(“ 斉藤もも” も、桜井桃華も… )


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そして颯太も。


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⸻


それぞれが、それぞれの場所で、同じ日常を続けている。


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⸻


そしてその日常は、確かに繋がっている。


⸻ 


最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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