↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

110/173

第81話 「“日常に紛れた非日常”と、大学という舞台」


■大学キャンパス・朝


朝の大学構内は、いつも通りの速度で動いていた。


講義開始まで、あと数分。


急ぎ足で建物へ向かう学生。

片手にコーヒーを持ち、笑いながら話すグループ。

イヤホンをつけ、世界から切り離されたように歩く者。


誰もが、それぞれの“今日”を生きている。


どこにでもある、ありふれた朝。


⸻


――そのはずだった。


⸻


ほんのわずかに、

空気の“流れ”が乱れる。


風ではない。


音でもない。


視線。


⸻


誰かが、立ち止まったわけでもないのに、

人の目線だけが、同じ方向へ揃っていく。


意識してではない。


反射的に。


⸻


「……え?」


小さな声。


抑えたつもりの、漏れた声。


それが、静かに周囲へ伝播する。


⸻


■違和感の正体


人の流れの中に、一人。

ただ歩いているだけのはずなのに… “そこだけ密度が違う”。


浮いてはいない。


むしろ自然。


それなのに―― “自然すぎて、浮いている”。


⸻


桜井桃華ではない。


⸻


そこにいるのは、


“斉藤もも”。



スマホの画面越しに見る存在。

タイムラインの中で消費される存在。


“現実の温度”を持たないはずの人間。


その存在が今、この地面を歩いている。


⸻


■ざわめきの広がり


「ねぇ、あれ……」

「待って、本物じゃない?」

「似てるじゃなくて、本人だよね?」

「なんでここに……?」


声は抑えられている。

だが、“抑えきれていない”。



「撮影……?」

「でもカメラないよ?」

「普通に歩いてるよね……?」



誰も近づかない。

近づけない。


⸻


けれど、誰も視線を外せない。


⸻


■ももの“日常”


ももは気づいている。


視線の集まり。

空気の揺れ。

音が一瞬だけ変わる瞬間。


すべて。


⸻


だが、反応しない。


⸻


歩幅は一定。

姿勢も変えない。

視線も泳がない。


⸻


ただ… “いつも通りに歩く”。


その“いつも通り”が、この場所では異質だった。


⸻


そして―― 数メートル先。


⸻


颯太がいる。


人混みの中に埋もれる、完全な“背景”。


⸻


ももは、ほんの一瞬だけ視線を向ける。


⸻


一瞬。


本当に、一瞬。


⸻


そして、小さく手を振った。


⸻


■見えてしまった違和感


それは自然な動作だった。


知り合いを見つけた時の、軽い合図。



だが。



ひとりの女子学生が、その動きを捉える。


(今の……誰に?)



違和感。



(ファンに向けた感じじゃない)


もっと限定された、“個人に向けた動き”。


⸻


(距離、近くない……?)


⸻


答えは出ない。

だが、“引っかかる”。


⸻


■食堂・昼


昼。


大学の食堂は、音で満たされる。


トレーがぶつかる音。

椅子を引く音。

笑い声と、注文番号のアナウンス。




“日常のピーク”。




颯太は、その中心にいながら… 完全に溶け込んでいた。


⸻


誰も見ない。


⸻


彼は、ただの学生。


その隣の椅子が、静かに引かれるまでは。


⸻


■隣に座るという“事件”


音は小さい。


だが、空気が止まる。


⸻


座ったのは――“斉藤もも”。


⸻


迷いがない。


遠慮もない。


⸻


“当然のように隣にいる”。


⸻


(え?)

(今、隣に座った?)

(なんで?)

(どういう関係?)


⸻


思考が追いつかない。


音だけが、一瞬遠のく。


⸻


■テーブルの下


言葉はない。


視線も合わせない。


ただ、テーブルの下で… 指先が、触れる。


⸻


一瞬では終わらない。


離れない。


ゆっくりと、確かめるように絡む。




恋人繋ぎ。




隠されているのに、決定的な行為。


⸻


■“確信”へ変わる空気


「今の見た……?」

「距離おかしくない?」

「いや、あれ絶対……」

「知り合いじゃないでしょ、あれは」


ざわめきが、“推測”から“確信”へ近づく。


⸻


ただの興味ではない。


踏み込みかけている。


⸻


■ももの選択


ももは、その“境界”を読む。


これ以上は危険。


ゆっくりと立ち上がる。


⸻


■言葉による制御


「すみません」


大きくない声。

だが… 全員に届く声。


⸻


空気が止まる。


「彼は知り合いなので、声をかけました」


⸻


■意味


それは説明。


同時に、“線引き”。

ここまで… それ以上は踏み込むな。


⸻


■再び“日常”へ


「……ああ、そういうことか」

「知り合いならまぁ……」

「でも距離は……」

「いや、有名人だし?」


⸻


納得しきれないまま、人は納得する。


“日常を壊さないために”。


⸻


■それでも残るもの


ももは座り直す。


⸻


テーブルの下。

手は、まだ繋がれている。


⸻


離さない。


離れない。


⸻


■小さな声


「びっくりした?」


囁き。


「ちょっとな」


返答も、小さい。


誰にも届かない。


⸻


■境界


ここは現実。


大学。


だが、その中にある“例外”。


⸻


誰も触れない。


触れられない。


⸻


■締め


食堂は元に戻る。


音も、会話も、流れも。

だが―― 中心にあった違和感だけは、消えない。


⸻


桜井桃華ではない。


斉藤ももでもない。


その両方であり、どちらでもない距離。


⸻


ももが呟く。


「普通にするの、意外と難しいね」


⸻


颯太は答える。


「でも――これが普通だろ」


⸻


その“普通”の意味を、

理解できる者は、まだ誰もいなかった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。