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君が国を取れ ~辺境領主の転生者、兵法で無双して『闇軍師』と恐れられる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志


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第8話:これはデートなのか?


 林氏領は北西に細長く伸びた地域で、北には砂漠が広がり、南には山脈が連なっている。

 こうした地域だからかとにかく風と共に砂が舞う。都市の四方を囲む城壁は敵だけでなく砂を防ぐ役割も持っていた。


 また屋敷に関しても同様で、住宅・役所・廟など多くが「四合院」と呼ばれる家のつくりをしている。

 形で言えば「日」みたいな感じ。城壁と同様にこれも家の壁が砂を防ぎ、おかげで中庭で洗濯を干したりできるのだ。


 官服を纏い、頭巾を巻いて、その上から冠を被る。

 この冠の種類で役職を識別するんだけど、ま、仕事に行くわけじゃないしな。


 ということで「西公」としての冠ではなく、竹の皮の細工を施された私用の冠を選ぶ。

 一見地味だが、黒を基調にした味のあるお気に入りの帽子だ。こういうのでいいんだよ、こういうので。


「待ってたぞ!明浩!」


「……大王様が迎えに来ずともよろしかったのに。立場的に自分が迎えに行かないと、こっちが怒られることになるんですが」


 南の玄関より外に出ると、既にそこで魔王せつらんが待っていた。

 服装はまるで狩りにでも行くかのような軍装であり、髪も後ろでひとまとめにして爽やかな印象。


 ちゃんと王に相応しいような高価な衣服も用意しておいたはずだから、彼女はあえてこの服装を選んだってことか。

 そして今日もしっかりと俺の戦袍マントを羽織っている。もういいや、これは献上したことにしよう。


 しかしなんと言うか、しっかりとした体格をしているおかげか、こういう男物みたいな服装が本当によく似合う。

 逆にこっちが用意したような衣服は似合わなかったのかもしれないな。ファッションは値段じゃないってことか。


「あれ?そういえば、寧殿は?」


「梁牙彪に用があるとかで引っ張られて行ったな。その後は知らん」


「そ、そうですか」


 あれ、となると二人だけか?

 当然だけど俺や魔王せつらんには、英嫣えいえん管轄の間者組織による最大限の警護が陰ながらついている。

 だから厳密に言えばこれは別に完全な二人きりというわけではないわけで。なんだろ、急に緊張してきた気がする。


「では案内してくれ、明浩」


「おおせのままに、大王様」


 まぁ、一旦難しいことは考えず、街を巡ってみるとしよう。

 明るく口角を上げている彼女を見てると、ただ単純に楽しんでほしいという気持ちだけになってしまう。


 ここ"天水"は、林氏領の領都である。また天水の側を通る河川「渭水イスイ」は西都、そして王都に通じている。

 物資はその渭水を通って、巨大な市場である二大都市に行きつくということもあり、ここ天水も商売が盛んになるわけだ。


 二人で大通りを歩く。まだ騒乱の実感を感じていない人々は活気に溢れ、しかしやはりどことなく浮足立っているような感じもする。

 時間は真昼。中央広場に通じるこの市場の区画は朝から夕方まで開かれていて、今が一番繁盛している時間になるだろう。


「林氏領は人間族の領地なのに、色んな魔族が往来しているのだな」


「各地から"辺境防衛の刑"に処された罪人が、この林氏領に送られてきます。故に出身も様々で、多種多様な種族がこの地に定住してきました」


 この林氏領、領土は広大だが非常に人口が少なく、自領の人間だけでは北方から押し寄せる"外敵"を防ぐことが難しかった。

 西方の外国から高級な珍品をせっせと運ぶ商隊を守るためにも、罪人でも何でも人を集める必要があるのがこの地なのだ。


 そう言った厳しい環境にあるからか、種族の違いで互いを憎むという風潮は特になく、そして上下の隔たりもあまりない。

 種族も地位も関係なく、庶民が役人と宴会をするなんてよく見られる光景だし、別にこっちもそれを咎めたりはしない。


 ただ、一人だけ例外はいる。

 そのとおり。この俺である。


「それにしても、明浩は領民からも慕われているのだな!皆がお前に敬意を払って頭を下げ、道を開けてくれているぞ!」


「ソ、ソッスネー、あはは……」


 俺は領民からどうやら嫌われているというか、恐れられているらしい。

 まぁ、それもそのはず。ウチは罪人もわんさか受け入れている関係上、どうしても治安の悪化が避けられないのだ。


 更に西の辺境に行けば、より厳しい環境だから罪人でも助け合って生きていく(しかない)のだが、この天水は違う。

 領都として栄えているし、人も金も商品も集まる土地だから盗みや殺しが非常に多かった。


 そんなわけで俺が二年前に領主となってから真っ先にやったことが、厳格な法整備による改革だった。

 親父が賄賂で失脚したという経緯もあって意外と反発は少なく、乱に発展することが無かったのは幸いだった。


 軍部を統括する梁牙彪が理解を示してくれたのも大きい。結局、力が無ければ暴力を抑えきれないからな。

 そのおかげで治安は回復したんだが、この悪人顔も相まってマフィアの冷徹系ボスみたいに思われている節がある。


「うん?なんだか良い匂いがするな」


「あそこの飯店ですね。良い時間ですし、食事をしていきますか?」


「そんなことして良いのか?い、行きたい!」


 ひと際大きな飯店だった。この市場の中で最も繁盛しているのは間違いなくここだろう。

 店内には昼休憩中の役人なども多く、見知った顔もちらほら居るな。


 流石に領主と魔王が居ると居心地が悪いだろうってことで、とりあえずテラス席を選ぶことに。

 まだ人々の行き交う街並みを眺めながら食事が出来ることに、魔王せつらんも喜んでくれているようで助かった。


「これはこれは我が君、御無沙汰しておりますだぜ」


 ヘコヘコと絵にかいたような"ごますり"をしながら現れたのは、小鬼ゴブリン族出身の店主であった。

 ゴブリンというが、見た目は身長の低い人間であり、違いといえば額に短い一本の角が生えている。


 そんな小鬼族はその魔力で「コミュニケーションの能力」に磨きをかけている種族である。

 長い歴史の中で大鬼オーガ族に隷属し続けたことにより、相手の気を損なわないよう進化した結果らしい。


 具体的に言えば相手の感情を色として見ることが出来たり、同族とテレパシーで簡単な意思疎通が出来たりするのだとか。

 故に商売をしている小鬼族は多い。ウチで一番数が多い魔族はたぶん小鬼族だろうしな。


「爺さん、これで二人ぶん頼むよ」


「へへっ、前払いは嬉しいねぇ。期待にはしっかりと応えてみせるぜ」


 銅銭の詰まった小袋を手に取り、ほくほくの笑顔で店主は戻っていく。

 その間も魔王せつらんはあちこちに首を振って忙しない様子だった。鶏かな?


「大王様、少しは落ち着いてください。ドシッと構えるのもまた、王たる者の務めですよ」


「そういえば、二人の時は"雪蘭せつらん"と呼んでくれと言っただろ!」


「いやいやいや、貴方は魔王で、私はあくまでその臣下。これは絶対に覆せないものなんです。勘弁してください」


「……じゃあ、もし余が魔王でなかったのなら、明浩はこうして余と共に大通りを歩き、市場を案内してくれなかったのか?」


「そ、そんなことは」


「ふっ、すまない、困らせてしまったな。ただ、余はお前と仲良くなりたいだけなのだ。そこに偽りはない」


 賑わう通りの中なのに、やけに彼女の声だけがハッキリと聞こえるし、照れるように笑う彼女から目が離れない。

 本当に狡い人だ。そんなにハッキリと「仲良くなりたい」と人に言えたら、この世の悩みもきっと九割方は消えるのだろうな。


「ヘイ、お待たせぃ!ウチの一番人気の特製"焼餅"だ!」


 俺と彼女の前にドカンと乗せられたのは、更の上に乗せられた「ハンバーガー」であった。

 まぁ、ハンバーガーというか「ナンみたいな生地で肉と野菜を挟んだ一品」だな。ケバブとかに近いのか?


 肉は複数の香辛料や調味料で煮込んだ山羊の肉であり、少し指で押すだけでスープがジュっと溢れてくる。

 勿論手は汚れるが、ぐちゃぐちゃに手を汚しながら食うコレがとにかく美味いんだよな!


「た、食べても良いか!?」


「勿論」


 スープを滴らせながら大きな口を開け、魔王せつらんは焼餅にかぶりついた。

 口の周りが汚れるほどボトボトと汁を落としながら、大きく目を開く。


 夢中で咀嚼をする彼女の顔を見ていると、何を言いたいかなんてもう聞かずとも分かる。

 そして俺もかぶりつく。一口で口いっぱいに暴力的な旨味が溢れ、鼻から抜ける香りさえ美味い。


 洗練された味ではないが、それが逆に良いんだ。

 健康に良いとはとても言えない食事だが、たまに食べる分にはメンタルも健康になると思って、そこは目を瞑ることにしていた。


「これはっ、外で食うべきだ!なっ、明浩!」


 フンフンと鼻息荒く興奮している彼女の様子を見ていると、何だか面白くて思わず吹き出してしまう。

 分かる、夢中になるよなこの味は。削ぎ切りにしている肉は解けるように柔らかく、まるで飲み物のようだった。


「余は、今日という日を決して忘れないだろう。また来ような!」


「そうですね。他にも色んな飯店が並んでいますので、そこを巡るのも良いでしょう。少し歩いた後、そっちもご案内しますよ」


「それは楽しみだ」


 もう食べ終わりそうな頃合いに、一人の女性がこちらへ歩いてくるのが見えた。

 見知った顔、あれは英嫣えいえんか。


 こういう公の場所で彼女が俺の前に現れるときと言えば、決まってだいたい面倒な話が舞いこむ時であった。

 焼餅を飲み込み、布巾で手を拭う。そっかぁ、この楽しい時間はもう終わりなのかぁ。


「うん?明浩、彼女は?」


「兄様、梁牙彪将軍が呼んでおります」


「要件は」


「魔王様の護衛軍が一部、この林氏領に亡命してまいりました。率いる将は、"玄牙 岱(げんが たい)"であると」


「爺やか!?」


 椅子を飛ばす勢いで立ち上がる魔王せつらん。そうか、西都で別れた、あの老将か。

 その表情を見れば分かる。彼もまた大事な存在なのだろう。


「急ぎ向かう。馬は」


「用意しています。詳細は道中にて」


「大王様、行きましょう。心配なのでしょう?」


「う、うん。子供の頃から側に仕えてくれていた者なのだ、頼む、助けてやってくれ」


「大丈夫、お任せください」


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面白いと思っていただけましたら、レビュー、ブクマ、評価など、よろしくお願いします。

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