夏休みが始まる
「……負けた。くっ……桐藤くんの結果見せて。……数学で差を付けられたか」
「いや、勝ってる教科もあるじゃん。古文とか」
「むぅ……それ以外は負けてるんだけど!」
佐倉さんが教室でも堂々と俺に話しかけてくるようになった。
通知表を渡され、それを封筒に入れて先生に返す。返した奴は後日郵送されてくる。普通に持ち帰れば良いと思うけど、なんでも過去に親から通知表が来ないと学校にクレームが結構あったらしい。まぁそれでもポストの前で張り込みして回収して処分する奴がいるらしいけど。
「悔しい」
「テストの度にそんな感じなのか?」
「今回はわたしの頭の上にいる人に直接愚痴ってるから全然違うね! ……夏休み、数学教えてね。あと化学も物理も英語も」
「良いけど。良いのか? 友達との予定とか」
「桐藤くんも友達だし」
「そっか」
友達、か。
口の中で言葉を転がしてみても、言いなれない言葉だ。でも。悪い気はしない。
「予定合わせよう。今から」
「マジ?」
「うん。いや?」
「嫌なわけがない」
「良かった」
スマホのカレンダーアプリを立ち上げながら思う。
なんだかんだ。いつだったか雪夜が言っていた『普通は放課後や休日どこかに出かけられるくらいを目指す物なんだよ』これは達成できたのかなと。
ならまぁとりあえず。今は良いか。多分俺にしては、上出来だと思う。
その後の話を少しだけ。
雪夜の担任が退職することがわかった。そして雪夜を嵌めた奴らも転校したらしい。
教室の雰囲気が和らいだ気がすると雪夜が言っていた。
そんな雪夜に今日は連れ出されていた。暑い。
「はぁ……」
「デート中にため息は普通に減点」
「すまん」
「まぁ、気持ちはわかるけど。暑すぎるね」
「本当に。アイスが染みる」
朝、雪夜に駅前で待ち合わせでと言われて来てみたが、駅前にできた新しいアイスクリームショップに行きたかったと。
そういう意味では、アイスを楽しむ上で最高の状況を作ってもらえたと言える。
「プールも行こうね」
「え?」
「折角痩せたんだから、プールも楽しめるじゃん」
「そういうもんか」
「うん」
「わたしも誘ってね」
「え?」
「え?」
「ふふん。来るなら教えて欲しかったな」
四人掛けのテーブル席だったが、いつの間に雪夜の横に佐倉さんが座っていた。
「まぁ今日は友達とだからすぐに退散するけど。プール行く日後で教えてね」
そう言って佐倉さんは退散していく。
「プールか」
これは……行くことになってしまった。ということで良いのだろうか。まぁ、とりあえず。
「水着買うところからだな」
「ついでに暖色系、チャレンジしてみようか、また」
「え? なんでまた」
「将暉くんの目、ちょっと変わったから。今なら似合うかもよ」




