54. 無慈悲な勇者
シロが第5階層で、アナスタシアとケンジの服を内職している頃、俺は、拠点のログハウスのウッドデッキで、BBQを楽しんでいた。
「は~い! ミーナタン、お肉が焼けましたよ~!」
「ニャ~」
俺は必死に、ミーナとオリ姫の為に、お肉を焼き続けている。
普段だったら、俺のお肉はシロが焼いてくれるのだが、万能メイドのシロは上層に買い出しに行っている。
まあ、BBQは大人の男の嗜みだし、
肉を焼くのは、それほど苦痛でなかったりするのだけど、
ただ、俺はシロがいると甘えてしまい、駄目人間じゃなくて、駄目リッチーになってしまうのだ。
「ニャ~」
「エッ? 何だって、肉が熱すぎる?
そっか、ミーナタンは、猫舌でしたね~」
俺は、可愛らしいミーナタンに甘い。
何故なら、俺は猫派なのだ。
しかし、前世では、母親が猫アレルギーだったから猫を飼えなかったけど。
そんな訳で、俺は、ミーナタンのお肉をフーフーして、お肉を冷ましてあげる。
「キュイ! キュイ!」
俺が、ミーナタンのお肉を冷ましていると、オリ姫も俺に話し掛けてきた。
「どうしたオリ姫、お前の肉も熱いのか?
って、お前、灼熱の第29階層出身じゃなかったか?」
「キュイ!」
「えっ? 違うって、誰か来てる?」
「キュイ!」
「第22階層に来れる冒険者なんていないから、まさか、また魔王の配下か!?」
「キュイ!」
「前に来た人と同じ人だって!」
「スルトの奴め、また懲りずに来たのか……」
「キュイ!」
「なんだって! それから違う人が、1万人居るだって!」
「キュイ!」
オリ姫が、嬉しそうに『そうだよ!』と、答えた。
何で、オリ姫は嬉しそうなんだ?
お客が来て嬉しいのか?
お客と言っても、俺達を殺しに来る、招かれざる客だけど。
しかし、敵1万人って、どう考えても無理ゲーだろ。
「なんでこんな時に限って、シロが居ないんだよ!」
俺は思わず叫んでしまう。
いつもいるシロがいないと、こんなに心細いなんて……。
「キュイ?」
オリ姫は、叫ぶ俺を不思議そうに見ている。
オリ姫は、余裕だな……。
俺は仕方が無いのでBBQを切り上げ、シロが戻るまで、ログハウスで籠城する事に決めた。
ーーー
暫くすると、ログハウスの外から女悪魔スルトの声が聞こえてきた。
「居るのでしょ。金色のスケルトン。
貴方を殺しに来たわよ!」
ログハウスの窓から覗くと、女悪魔スルトは、何とも言えない薄ら笑いを浮かべて、こちらの様子を伺っている。
しかし、これは……。
俺は思わず笑ってしまう。
確かに、スルトは1万の軍勢を率いている。
完全に、俺達を殺すつもりだ。
シッカリと、オリ姫の物理攻撃の対策も考えられている。
しかしだ。それが、スルトの仇になっているのだ。
何故なら、1万の魔物の軍団は、全てゴースト。
確かに、オリ姫の攻撃は当たらないが、光属性の魔法が使える俺にとっては、お得意様。
俺は、すっかり安心して、籠城していたログハウスから出る。
そして、
「ハッハッハッハッ! スルトよ! また俺様に、殺られに来たか!」
と、勇者らしく、スルトと1万の軍勢に向かって言い放ってやった。
「誰? 貴方? 私が呼んだのは、金色のスケルトンよ?」
スルトが、何かおかしな事を言っている。
「だから、俺がその、金色のスケルトンだよ!」
「貴方、ただのリッチーじゃない?」
「確かに見た目は、リッチーだが、中身は、金色のスケルトンなんだよ!」
そう、俺の現在の見た目は、異様に歯だけが白いリッチーなのだ。
鑑定持ちじゃなければ、誰も俺が、パーフェクトリッチーだとは気づかない。
まあしかし、実際には、鑑定を持っていても、超隠蔽スキルでステータスを改ざんしてるので、ただのリッチーにしか見えないのだけどね……。
まあいい。
相手が勘違いしてるなら、俺は乗っかるだけ。
「その通り、俺は金色のスケルトンの一番下っ端の配下、普通のリッチーさんだ!
お前の相手如き、俺一人で問題ないのだ! クワッハッハッハッハッ!」
「貴方、正気かしら……この1万の軍勢を見て、よくそんな大口叩けるわね?」
スルトの薄ら笑いが消える。
もしかしたら、怒っているのかもしれない。
スルトは、本気で俺を殺しに来ているのだ。
それなのに、茶化されたら誰だって怒るか。
「それがどうした? 」
しかし俺は、そんな事お構い無しに挑発する。
「もう、オリハルコンスライムの攻撃も効かないのよ?」
「カッカッカッカッ! 俺は勇者、金色のスケルトンの眷族なのだぞ?」
「だから、闇属性のスケルトンが、勇者の筈ないって、前も言った筈だけど、
私は、いつまで貴方達の茶番に付き合わないといけない訳?」
「茶番かどうかは、俺様と戦ってみないと分からないだろ?」
「貴方じゃ話にならないわ! 金色のスケルトンが居ないなら、副官のアラクネを出しなさいな!」
「アラクネ様も、休暇の最中でいませんけど!」
「貴方、本気でムカつくわね。
他にマトモな相手はいないのかしら?」
「猫とスライムならおりますが?」
俺は急いで、ログハウスに戻り、ミーナとオリ姫を連れてくる。
「貴方、本当に舐めてるのね……」
どうやら、女悪魔スルトはブチ切れたようだ。
スルトの周りから、赤黒い魔素がモヤモヤと漂っている。
「ゴーストよ、遠慮は要らない。あの忌々しいリッチーを殺っておしまい!」
女悪魔スルトが、1万のゴースト軍団に命令を下す。
それと同時に、1万のゴーストの軍団が、不快な叫び声を発しながら、一斉に、俺達に襲いかかる。
スルトの作戦は完璧。
ゴーストには、オリ姫の物理攻撃は効かないのだ。
しかし、俺は闇属性のリッチーでありながら、聖属性の勇者!
死霊系のゴーストはお得意様。
こんな美味しい、経験値稼ぎは他にない。
ここからは俺のターン。
「第3階位光属性魔法、オールヒール!!」
俺、オリ姫、ミーナ VS スルト、ゴースト1万匹の戦いが、今、始まった。
ーーー
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