14.パープル
桃と紫の間の色の空は夜というわけではなく、しかし日はどこにも見えない。雲一つないにもかかわらず、見当たらない。だが私は探すこともしない。
見慣れた煉瓦の道を歩く。ぼんやりと俯きながら少しの風が前からある。右に信号、奥にもある。しかし私は右に向いて止まった。
歩道も車道も信号は赤。身長150cmくらいの可愛らしいポニーテイルの女が向こうにいる。女も私も足は止めたまま、また、車は見当たらない。これで立ち止まることを当たり前としているのだ。されど何の疑問もない。
直立する男と女。私は女だけを見ているようで周りも見ていた。しかし、女はずっと私を見つめているような感もする。それが少し恐怖である。
薄く透けた前歯がもどかしい。暖かくも冷たくもない。自身の生暖かい吐息が前歯にぶつかると体がわずかに震えるようだ。
歯が抜けるのは怖い。
私は女をじっと見ていた。目は合わない。信号に隔たれた距離は、その白く太い横線はそれほど多くはない。もう少し近ければ引力で引っ張られる距離だ。
もしも彼女が抱きしめてくれれば、頭をうずめてくれれば、どんな不幸にも耐えられるはずだろう。それほどに彼女は可愛らしいのだ。荒んだ心に純粋な微笑みがあれば、まだ私は立ち向かえる。
その思いを胸に秘めながら、涼しい顔で彼女を見ていた。
数秒後、彼女は僕に背中を向け、真っ直ぐ離れていった。信号の向こうへ。その後ろ姿は小さいはずなのに、そう見えているのに、立ち塞がる壁のように、広く大きい。
私は悲しさに心が締め付けられた。その場で俯いていた。コンクリートも桃色。白い線よりも目立つのは桃色。
私は彼女を追わない。その理由はおそらく、信号が赤のままだからだろう。本当は追うべきなのかもしれない。だが彼女はこちらを一度も振り返らず去っていった。もう姿は消えている。
私は彼女が消えていった道を眺めていた。ただ見ていた。もうそこに彼女はいないのに。
それのことに退屈になったからではない。どうしようもないことはどうしようもないから、私は左を向いた。前へ歩いた。
それは右に先ほどの信号があるということである。
前の信号は緑色であった。私はゆっくり歩いていく、そのまったく点滅する様子のない信号へ。
私が左を向いて歩き出した瞬間に、視界の右端では緑色に光る信号が見えていた。それに気づいても、無関心に前を歩き続けたのは、そこに彼女がいないからだろう。
私は緑の信号に足を止め、空を眺めた。それが青色に戻っていることに気づく、コンクリートも線が入って黒く、車も走り回っていた。向かいには知らない人が何人か歩いている。
本を読むセーラー服の女子高生が向いで止まっていた。信号は青なのにも関わらず。
信号はやはり点滅することはなく、車もずっと止まっている。私はゆっくり歩き出した。
前を向いて歩いていった。
この先には銀行がある。だが私は通り過ぎるだろう。手を引っ張られたりしない限りは。
その景色はまだ霧の中。
文学チック?