第6話 ドラゴン対人間(七星将)
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朝靄の中七人は各々の持ち場に移動する。明け方の気温は低く、吐く息は白い。
ドラゴンの正面には、大楯を持つポイチェンと黒色槍のメチウが位置取る。正面の二人を後方から援護するように、右後方に万石弓のトオサ。左後方には投石のウェイサンが左右に広がる。
大楯を中心に、右翼を盤古斧のウエンク、左翼を藍の雷刀の隻眼、アッシクが控える。
ドラゴンの後方には青竜偃月刀を構えるアッテレが後詰を担う陣容であった。
日の出を合図に、トオサとウェイサンが龍の目を狙い、視界を奪う。突然の攻撃に驚くドラゴンは、目の前のポイチェンを目掛け瘴気を吐き出す。ポイチェンは大楯で自身と後ろのメチウを守り、瘴気を吐き出した直後の隙を突いて、メチウがドラゴンの顎を下から黒色槍で突き上げる。
右翼と左翼の二人は、ドラゴンの吐き出した瘴気を合図に、両の翼を切り落とす。ドラゴンの両翼の付け根は、普段硬い鱗で覆われているが、瘴気を出した後の一瞬だけ鱗が逆立ち、切り落とすことが可能であった。
後詰のアッテレも同時に、瘴気を出し逆立つ鱗に沿って、もう一つの脅威であるドラゴンの尾を落とし、一気に片を付ける戦術であった。
これらは、長い間ドラゴンの脅威に晒され続けた人間たちが、ドラゴンの死骸を解体して解明したドラゴンの弱点であった。
人間が生きているドラゴンを退治したことは、今まで無かった。それほどドラゴンの攻撃力は高く、驚異的だった。ドラゴンに戦いを挑んだ者は、ことごとくドラゴンの初撃である瘴気により絶命していた。故に、人々はドラゴンの初撃である瘴気を如何に防ぐか、これがドラゴン退治の課題であった。この初撃を防げなければ、ドラゴンの弱点を突くことは不可能であった。
七星将が最初に考えていた作戦は、フッシコッカの村に住み着いたドラゴンを追い払うため、遠方からトオサの放つ矢で、ドラゴンの片目を射抜く攻撃だった。流石に片目を射抜かれたドラゴンは、傷を回復するため、フッシコッカを離れるだろうと考えていた。
しかし、今回、ドラゴンに対峙する七星将の手には、その瘴気を防ぐ事が出来る大楯があった。今まで数多の村や町を滅ぼし、多くの命を奪ってきたドラゴンに対し、ようやく人間が一矢報いる防具を手に入れていた。
これにより、七星将の作戦は大きく変更されることになった。人々が安心して生活できるため、その厄災であるドラゴンを討伐することに変更された。それだけ、サンペ達が七星将に渡した大楯の存在は大きかった。また、その大楯を十分に使いこなせる実力を持っているのは、七星将だけであった。
夜明け前の村は、静寂に包まれ、虫の羽音一つない。朝靄が周囲をうねりながら移動し、日の光で昇華させられる前のひと時を謳歌していた。
七つの影が、音もなく、風のように移動し日の出を待つ。
東の稜線から、一条の光が差し込み、乳白色の世界を一瞬で金色の野に変える。金色が昇華した直後、大楯頂点とした左右の後方から初撃が放たれた。
トオサの放った矢は見事にドラゴンの左目を射抜き、ドラゴンの左側の視界を奪った。ウェイサンの投石はドラゴンの右目に命中したものの、視界を奪うほどの威力は無かった。
突然の攻撃に一瞬怯んだドラゴンであったが、左目の痛みの原因を残った右の視界で確認し、目の前の敵に向かって瘴気を放つ。
ポイチェンは盾を構え、瘴気に耐える姿勢を取る。後ろに控えるメチウも瘴気が放たれた後の隙を突くため、黒色槍を構える。しかし、メチウの黒色槍は二度と敵に刺さることはなかった。メチウは、この世で見る最後の景色を記憶に焼き付けていた。
本来メチウの目の前にあるのは、ポイチェンの背中であり、大楯の内側だった。しかし実際は、大楯は地面にひれ伏しており、目の前には、今まさに瘴気を吐き出そうとしているドラゴンの口があった。その左目には矢が刺さっており、痛々しくもあったが、それよりも、全身の鱗が逆立ち、その姿を二回りも大きくしたドラゴンの姿であった。
メチウは大きく目を見開き、息を飲んだ。次の瞬間、メチウの全身を瘴気が襲う。直接ドラゴンの口から発せられる瘴気と、地面に横たわる大楯に弾かれる瘴気がほぼ同時にメチウを襲っていた。
メチウは薄れゆく意識の中で、己の体が内側から沸騰し、今にも皮膚を突き破るのではない かと思われる感覚に襲われていた。しかし、その肉体は、破裂することなく、寸前で膨張を止めていた。既に視界は無く、生をつなげるための呼吸も出来なくなっていた。
最後の光景を思い出す。目の前に迫るドラゴンの口、地面にひれ伏す大楯、ドラゴンの左翼に盤古斧を振り下ろすウエンク。右翼に藍の雷刀を振り下ろすは隻眼の勇アッシク。
世を正し、人々が平和に命をつなぐ世を作るためにと、その一員に迎え入れてくれたアッテレの姿は確認できなかったが、皆との旅の思い出が走馬灯のように蘇り、友に対する感謝の涙が頬を伝う。
この世に生を受け、今閉じようとする己の時間に、来世での再来を友に誓いながらメチウはその短い生涯を閉じた。
メチウの衣服は瘴気によって千切れ飛び、布切れがその膨れた体に張り付いているだけであった。手にしていた黒色槍もはじけ飛び、主の最後を見届ける事は叶わなかった。
視界の端で崩れ落ちるメチウの姿を目にしながら、ウエンクとアッシクは己に課せられた行動を開始する。目の前で崩れ落ちていった友の仇を打つために、ドラゴンの飛翔能力を破壊し、逃亡の手段を無にする。一つでも多く人々の厄災を減らすために。
ドラゴンの逆立った鱗に斬撃が振り下ろされた。藍の雷刀と盤古斧はドラゴンの羽の根元に深く突き刺さったが、切断には至らなかった。二の太刀を構えた瞬間足元が大きく動きアッシクは弾き飛ばされる。ウエンクは弾かれる瞬間に、アッシクの入れた初太刀の反対側を切りつけ、ドラゴンの右翼を切断することに成功していた。
投石でドラゴン右目を潰す事に失敗したウェイサンの前に、メチウの黒色槍が飛び込んできた。口金の蒼房も瘴気により色を失い、業物の風格すら失っていた黒色槍を持って、ウェイサンはどこかに身を隠してしまった。
大楯の下では、ポイチェンが安堵のため息をつく。大楯でメチウを守り初撃の瘴気を防ぐ予定であったが、慣れない大楯のせいでバランスを崩してしまい、気が付けば、大楯の下敷きになっていた。
「この大楯、本当にドラゴンの瘴気を防ぎやがったよ。メチウには悪いが、ここは早めに退散するに限るな。」
そんなことを考えながら、この場所から離れる方法を考えていた。
右翼を失ったドラゴンの咆哮に続き、二度目の瘴気による攻撃があった。大楯は二度目の攻撃も防ぎきっていた。ポイチェンは大楯を背中に背負いながらドラゴンの反対側、後方に避難を開始した。気配を消し、誰にも気づかれないよう、少しずつ、ゆっくりと移動を開始した。
ドラゴンの瘴気により、みるみる人の形を失っていく友の姿に、トオサは言葉を失い、その体は小刻みに震えていた。それは友を失った底知れぬ喪失感からなのか、目の前に横たわる大楯の失態に対する怒りなのか。
感情の整理がついてないトオサの意識を、ドラゴンの咆哮が一気に引き上げる。次の瘴気による攻撃の直前、トオサの体は狙撃位置から飛び出し、メチウの体を抱えて走っていた。今にも破裂しそうな、既に人の形を失った友の体を、村の井戸に投げ入れた。
そのまま、万石弓に矢をつがえ、ドラゴンのもう一つの眼に狙いをつける。弓を引き絞り、矢が放たれようとした瞬間、トオサの右腕が後ろに弾けた。雨竜の髭で作った万石弓の弦がメチウの体に触れた際に、瘴気に侵されていたのだった。
自身の左の視力を奪った犯人を確認したドラゴンは、狙いを地に転がっている大楯から白髪碧眼の男に切り替えた。万石弓を失ったトオサは、矢筒に付けている黄龍の短剣を構える。
二撃、三撃とドラゴンの攻撃をかわすが、短剣での防御はドラゴンの攻撃を紙一重でかわすのが精一杯だった。次第に鋭さを増すドラゴンの攻撃に、トオサは反撃することも出来ず、致命的な一撃を食らってしまった。
ドラゴンの攻撃は規則的だった。頭部を狙うドラゴンの強靭な顎。左顔面を狙う右腕。右から胴体を狙う左腕。最初はこの攻撃の繰り返しであった。致命的な一撃を食らったのは、突如、右胴を狙う左腕が顔面を捉えて襲ってきた時だった。トオサは頭をのけ反り攻撃をかわした。瞬間、左の顔面に痛みが走った。トオサが頭を逸らしたことを確認したドラゴンは、一瞬爪を伸ばした。その伸ばした爪が、トオサの左眼球を捉え、眼窩からえぐり出していた。トオサは数本の神経でかろうじて繋がっていた眼球を掴み、懐に入れた。不思議と痛みは無かった。
再びドラゴンの顎がトオサを襲うが、その攻撃はアッシクの藍の雷刀で防がれる。
「すまん。少し遅れた。」
「うむ。」
トオサはその一言を発しただけだった。
トオサはすぐに少し離れた場所に移動し、腰に付けた予備のショートボウを構える。万石弓より威力は数段落ちるが、このショートボウでも矢を放つことは出来る。最後の一矢まで目の前の脅威に立ち向かう友のため、己を奮い立たせる。
藍の雷刀を巧みにさばき、ドラゴンの弱点をトオサの前に向ける。この、敵を思い通りに誘導するアッシクの攻撃方法は、正に天賦の才だった。目の前に来るドラゴンの弱点に向けて次々と矢を打ち込む。既に左目には3本の矢が突き刺さり、口腔内には十数本の矢が刺さっていた。体のいたるところに矢が刺さり、ドラゴンはその動きを鈍くしていた。最後の手持ちの矢はドラゴンの右の眼に刺さっていた。
後方では、アッテレとウエンクがドラゴンの尾を相手に苦戦していた。巨木のような大きさのドラゴンの尾が、それだけで意思を持つように、正確にアッテレとウエンクを攻撃してくる。二人は反撃を与えられる隙もないドラゴンの攻撃をかわし、さばいていく。
アッテレがドラゴンの突きをかわそうとした瞬間、朝露で濡れた草に足を取られ動きが止まった。青竜偃月刀を杖に体を支えているアッテレはドラゴンの標的だった。ドラゴンはその隙を見逃さず、アッテレの体幹を目掛けて刺突を繰り出した。無防備になったアッテレは、迫りくるドラゴンの攻撃に体を硬直させる。体が貫かれる瞬間、アッテレの体は右方向に弾かれていた。
アッテレの体はドラゴンに穿たれず、ウエンクに弾き飛ばされていた。アッテレの体を穿つはずのドラゴンの尾は、ウエンクの右腕にしっかりと抱え込まれていた。
「今!」
その言葉に反応したアッテレは、闘気を込めた青竜偃月刀を叩きこむ。アッテレが振るう刃は、それに触れるものに抗うことを許さず、なんの抵抗も出来ないまま、蝋細工のように切断される業物であった。
最初の攻撃でドラゴンの初撃を受けたメチウがみるみる膨れ、人の形を失っていく友の姿を思い出し、アッテレは友のために、より強い闘気を込めて青竜偃月刀を振り下ろした。
その時、ウエンクと力比べをしていたドラゴンの尾が一回り大きくなった。ドラゴンがウエンクに対抗しようと力を込めた瞬間、アッテレの刃が振り下ろされてきた。
ドラゴンの鱗と強靭な筋肉で守られた尾は、アッテレの振り下ろした刃を粉々に砕いていた。その刀身は盛者必衰のごとく、以前の美しさは失われ、一瞬でその命を閉じてしまった。
ウエンクの腕の中で一回り大きくなった尾は、次の瞬間鞭のようにしなやかになり、ウエンクの腕をすり抜けていた。腕から抜ける瞬間、尾は触れている物、全てを削り取る鋼のように鋭く尖り、あらゆる物を削り取っていった。ウエンクの体も鎧ごと大きくえぐられ、抱えていたウエンクの右側には、不自然な丸い空間が開いていた。
片膝を付き薄れゆく意識の中で、ウエンクは己の分身である大斧、盤古斧をアッテレに託した。丸太程の太さがあったウエンクの右腕は三分の一まで削り取られていた。
続けて攻撃してくる、鞭のようにしなるドラゴンの第二撃をウエンクは左腕で押さえこむ。尾が再び一回り大きくなった直後、鱗が逆立つ瞬間をアッテレは見逃さなかった。筋肉を鞭のように弛緩させ、纏っていた鱗を逆立てたことにより無防備となった尾の付け根を、アッテレの持つ盤古斧は一太刀で切断した。
両の脇を大きく抉られながら、ウエンクがドラゴンの尾を彼方へ投げ捨てた。
その時には、既にウエンクの呼吸は止まっていた。
友の形見となった、盤古斧を手に、アッテレは再びドラゴンに挑むため、アッシクたちと合流する。
アッテレがドラゴンの正面へと移動している時に、反対側をドラゴンの後方に向かう二つの影があった。
その影はドラゴンの背後に回り、挟撃を加えるかと思ったが、手には武器も無くドラゴンに対する敵意は皆無であった。ドラゴンの背後に回ると、一人は砕け散った青竜偃月刀の柄を掴む。もう一人は動かなくなったウエンクの骸を漁っていた。骸から目当ての袋を取り出し、中を確認すると、思った通りウエンクが所持していた銀貨、金貨が入っていた。二人は用がなくなったウエンクの亡骸を川に捨てると、再び気配を消した。
七人中二人脱落。二人逃亡。
次回三人でドラゴン退治です。
おかわりいくら丼。




