13.討伐者組合Ⅲ
ロシェさんに案内されたのはギルドの敷地内にある外の訓練所。その一角。
此処は訓練以外に試験にも使われているそうだ。ロシェさんは自分達を案内した後こちらにお辞儀をしてまた屋内へ戻って行った。
訓練所は広々としていて、地面には短い足の草が綺麗に敷かれていた。奥には弓を射る訓練の為であろう的があったり、打ち込みの練習台であろう丸太の様なものが立てられている。
先程説明の時にいた四人は既に担当者と思われる人と何か話をしていた。少しすると終わったらしく担当者の人はすぐこっちに気付いて来てくれた。
「よし、先に説明は聞いているだろうがまずお前らの戦闘に関する技能を確認したい」
担当者の人は白髪混じりの茶髪を品良く整えた中年の男性だ。捲った袖から見える腕は鍛えられているので、この人も経験者なんだと思う。
「何かやったらいーんですか?」
「やるというか立つって感じだな。そこに」
担当者の男性が指差した先には謎の石の板が置いてある。
「あの魔道具と、隣のテーブルに置いてある板型の魔道具は連動する仕組みになっていてな。立った人間の技能確認の為だけに作られた魔道具だ」
「限定的ですね」
「正直討伐者組合の為だけの道具だからな……限定的な使い方の分精査しやすくて良いが」
「そういうもんなんだ~」
説明もそこそこに順に乗る事にした。とりあえず乗ったら映った内容を逐次確認して、また説明に移ってくれるそうだ。
「じゃ兄ちゃんからね〜」
「はいはい」
ソウ兄が乗ったのと同時に板がぼんやりと光る。テーブルの板も少し遅れて光を発していた。
「すごい」
「よし、降りてくれ」
降りると乗っていた側の板の光は静かに消える。
順にそれを繰り返した。待っていると結果をまとめ終わったらしく説明に移行する。
「お前達はそのまま四人で組んで動くつもりか?」
「そうなりますね」
「それなら……役割分担が必要だな」
「役割?」
「魔物と戦うのに全員前でやり合うのはどう考えても均衡取れないだろ」
「確かに〜」
「で、確認した所お前達は全員格闘と射手の経験がある様だ」
「ああ……まあ」
元いた組織では近接格闘について大分叩き込まれてきた。徒手空拳以外にもナイフとか、警棒とか。それ以外に射撃訓練もしていたし、実際に戦地でも経験している。それがこっちではそういう形に変えられているんだろう。
「だから前衛と後衛の均衡を考えて取った方が良いぞ」
「それなら、俺とアキが後ろでリツとシュウが前だね」
「だな」
「りょーかーい」
自分も頷いた。
「即決か」
担当者の男性は呆気に取られていた。
「指示出しする俺は後ろの方が良いし。アキは足の事あるし……」
「うん」
「まあ全員一致ならいいが……それで問題ないか実際に確認するか」
「はーい!」
先に説明を受けた実技の試験だ。そのままこの人が相手もしてくれるみたいだ。
「俺はウィドゥーロスだ。ウィドと呼んでくれ。元討伐者で色々武器振り回してたから、大体の相手は出来る」
「素手でも戦えるんだ?」
「ああ」
ウィドさんは訓練所の中央まで移動する。
「ほら、前衛から見てやるから来な」
「はーい!よろしく~」
シュウ兄は駆けて行きそのままウィドさんに殴り掛かっていた。そんな曖昧な始め方で良いのかなと思いつつ、本人も咎められてもいないので黙って眺める事にした。
暫く二人の打ち合いを見ていたが、ウィドさんはシュウ兄の攻撃を綺麗に躱したり受け流したりしている。捌き方も見切り方も見事だった。
シュウ兄も、隙のある所を瞬時に判断して掌底や拳、脚と色んな攻撃を試している。相変わらず格闘のセンスは群を抜いて良いなと思う。
「うーん入んねえなー」
「……これだけ出来るとはな。よし、いいぞ。次」
「じゃあ、俺か」
シュウ兄は戻って来てリツ兄とハイタッチしていた。各々得物は違う方が良さそうだと言っていたので、ナイフ、というか短剣を握るらしい。
「ここ暫く使ってないんで鈍ってますけど」
「その鈍りは早く解消した方が良さそうだな」
ウィドさんはいつの間にか剣を持って待っていた。聞くと討伐者として現役の時は剣を主に振っていたとか。という事は剣で戦うのが一番強いのだろう。
再び打ち合いが始まったので眺めている。あくまで試験なので斬ったり貫通したりは流石に出来ない様に加工されている武器なのだが、金属製ではあるのでさっきからぶつかる音がひっきりなしに響いている。リツ兄は腕が鈍っていると言っていたけどつい先日まで前線に出ていたわけだから、直ぐ元通りになるんだろうなと思う。そして二本の短剣を一本の剣で捌ききるウィドさんは本当に凄腕なんだなあ。元、とは言うけど現役でもきっと通用するだろう。
「よし。ここまでだ」
「どうも」
「ただ戦闘経験があるだけじゃないな、お前達は。今までかなり対人戦闘をこなしてきたな?」
「何でそう思ったんすか」
「的確に人体の急所を見極めながら打ち込んでたしな。正直入れられたらまずいと思った。お前達が普通に武器を持てば確実に致命傷を負わせられるだろう」
「そりゃ……そうしなきゃ死なないじゃん」
「やらなきゃこっちが殺される」
シュウ兄とリツ兄の言葉に少しウィドさんが眉をひそめていた。ソウ兄は溜息を吐いている。
「多分先にお聞きしてるでしょうけど、俺達はそもそも戦争地域から出奔して来たんです……だからそういう経験はあって当然でしょう?」
「……なるほどな。理解したよ」
「俺達みたいな人間は、街にいるとまずいですか?」
思い切ってウィドさんに聞いた。自分達だってそういう事情を持ってて迷惑をかける様なら早目に街を出た方が良い。
だがウィドさんは自分の言葉にすぐに首を横に振る。
「いや。そういう訳じゃない。でもお前達は色々と不詳な部分が多いからつい、な」
「別に人相手に何かしたくもする気もないし〜」
「わざわざ自分から争いの火種なんか作んねえよ……」
「なら良い。力の振るう先さえ違わなきゃ討伐者としては実力があって損は無いからな」
ウィドさんはソウ兄と自分の方を見る。今度は自分達の番だろう。
「ソウ兄は、結局弓使うの?」
「うーん。使えなくはないけど、もう少し銃に近い方が良いなあ」
「射手の経験があるならこれは使った事は無いのか?」
そう言って渡してくれたのは弓、とは少し形状が変わる武器だ。引き鉄を引いて矢を射出する様な武器らしい。
「これに近い物ならあります」
「それなら試しに射ってみたらどうだ?」
先程並んでいた的を指差す。ソウ兄は弓をあちこち触って確かめているので自分も覗き込む。矢は普通の物よりも短い物になるが複数装填できるらしい。射つ所も見ていたが、射出速度にも別段問題はなさそうに見える。数回射られた矢は並んだ全ての的の中心部に刺さっていた。
「うん、これなら大丈夫そう」
「扱うのが初めてな割に見事なもんだな。また実戦で見せて貰うか」
「はい」
「で。最後にお前だな」
自分はどうしようか。ソウ兄の使っている弓は少し興味があるのだが、そもそも弓を持つと杖が持てない。ウィドさんも自分が杖をついているのを見て少し考えている様だが、先程確認していた技能についてを見直して自分に向き直る。何か見つけてくれたらしい。
「お前、戦闘魔法に興味はないか?」
「はあ」
また知らない単語が飛び出てきて、つい曖昧な返答をしてしまった。




