6.そしてフィナーレ?
ドレフュス団長は防戦一方に見えて、表情には余裕がある。というか、楽しそうだ。
会話しながら打ち合っているのか、口が動いて見えるが、動きが早くて今度は読めない。
あの人たちの体幹はどうなっているんだ!? ルバスール団長の魔法で、かなり地面がでこぼこしてきている。俺ならこけそうだよ。
そして二人の距離が開いたときだった。どんだけ詠唱を続けているのか、ルバスール団長が氷魔法で大きなドリル状の塊をぶつけにかかった。
まじで? 避けたらどこにぶつかるの?
ドレフュス団長は広い炎の壁を作って、迎える。壁を維持しながら移動しているのがこちらから見えるけど、ルバスール団長には見えているだろうか。
脇から攻撃に転じたドレフュス団長の剣が、ルバスール団長に向かうが、受け止められる。当たったのか風圧なのか軍服の紐が飛んだ。
うわぁあ。勝負つくのかなコレ。皆の息を飲む音が聞こえそうだ。
次に距離が開いたときが、勝負かもしれない。目が離せない……と思いつつもふと気になって皇女殿下の方を見たら、席を立ち手を結んで祈っていた。
そういえば、殿下はこの勝負の発端を知っているのだろうか。目を離していたら、剣の当たる音が止んだ。慌てて団長達を見る。
来るぞ。
ルバスール団長からも、ドレフュス団長からも龍のような炎の魔法が放たれ、中央でぶつかり、拮抗している。
ルバスール団長はどんだけ魔法が使えるんだよ。
二度目の大技。これは使っていい範囲なのかとか、ドレフュス団長も意外と魔法を使えたんだな、などと思っていたところだった。
ルバスール団長の身体が傾いて膝をついた。今にも倒れ込みそうだ。
「そこまで!」
総団長の声が聞こえて、ドレフュス団長を見やると立った状態から、後ろにふらぁっと倒れ込むところだった。
「……まったく」
風が吹いたかと思うと、ドレフュス団長は怪我もなく横たわっていた。
「城が壊れなくて済んで良かったけど、気が済んだか」
総団長の疲れたような声が聞こえた。
「先に膝をついたのはルバスールだから、勝者はドレフュスとする。……まあ、ほぼ引き分けだけどね」
第三騎士団からの歓声が上がる中、かすかに女性の声がする。
「……ベ……ル様」
フロランス殿下の声じゃないか?
「ランベール様!」
簡易の観客席だから、確かに簡単に場内に入れるんだけれど、ここまでは想定外。走り駆け寄る殿下に、困った顔をしながら付きそうカティ。
どういうことだと、どよめく声と、やっぱり団長かよと悔しがる声。
仕方なく殿下に近寄る。
「ドニー! ランベール様が死んでしまうわ。早く救護を」
涙を流し始めた殿下に、呆れながらもしっかり伝える。
「この程度で死んだりしません」
そして、ギギギっと音が鳴りそうなほどゆっくりと、恐る恐る振り向いて陛下の顔を見た。目を逸らしたかったが、目が合った。誰か説明しろという顔だった。
そりゃそうだよなぁ。
ルバスール団長はというと、ナタリナに肩を借りてこちらに歩いてくるのが見えた。
「ランベール! 起きろ!!」
ルバスール団長の一喝で、ドレフュス団長の瞼が薄くゆっくり開いていく。しかし最初に目に映ったのは皇女殿下のお顔で。
「どうして泣いてるの? 小さなお姫様」
ゆっくりと手が上がり殿下の頬へ添えられる。その手に自分の手を重ねる殿下が更に泣く。
「カティ、今更だけど殿下を席まで連れて行って。殿下、席にお戻りください」
「ドニー!」
「ドレフュス団長は大丈夫ですから」
しぶしぶ殿下が立ち上がったとき、鬼の形相の陛下が近くまで来ていた。
「ドレフュスよ。責任は取ってくれるんだろうな」
ドレフュス団長は、まだ意識が朦朧としているようで、口を開けたり閉じたりしている。
「救護班、こいつを運んでいけ」
陛下のお声で場が動き出す。
ドレフュス団長とフロランス皇女殿下の間には、まだ俺の知らない関係があったのだろうか。
ドレフュス団長の強さを証明しようという俺の計画は、とりあえずは達成したけれど、ほぼ引き分けだったし功績としては微妙なライン。だけど殿下が飛び出したから事態は大きく動いた。これが吉と出るか凶と出るか。殿下の頑張り所でもある。
っていうか、殿下がうまく立ち回ってくれないと、俺も危なくない?
陛下とともに去っていく皇女殿下に、心の中でエールを送った。
「ドニー? なんか企んでたか?」
ルバスール団長の声に慌てる。
「だ、団長!?」
「まあ、でも少しスッキリしたし良かったよ」
「少し……ですか!?」
「あの野郎、常にナタリナと一緒にいるんだぞ」
ルバスール団長は通常運転だった。
「仕事のときだけなんですから、文句言わないでください」
ナタリナがうわずった声でたしなめる。恥ずかしいのだろう。
「そんな可愛い顔は誰にも見せないで欲しい」
もう、二人だけでやってろ!
誰もルバスール夫妻を引き裂こうとしないから。公爵夫人の座を狙っていた誰かも、今回の決闘もどきには引くだろう。
◇ ◇ ◇
それから、一週間が経ってフロランス第二皇女殿下からの呼び出しがあった。
「ありがとう! さすがドニーね! おかげでランベール様への降嫁が決まったわ」
「私の首は無事で?」
「まあ! ドニーったら面白いことを言うのね」
「皇女殿下が頑張られた結果だと思いますよ」
実際、この一見ぽやっとした殿下が、陛下と話し合った結果なんだろう。助かった。
「聞いていいのかだけど……ドレフュス団長は身ぎれいにするように陛下に命じられたので?」
「何を言っているの、ドニー。ランベール様に決まった女性なんて、はじめからいないわ。だからカティと組んでいたのでしょう?」
事も無げに殿下がおっしゃる。
全部、噂だった? びっくりして声が引っ込んだ。
そしてしばらくしたら笑いが込み上げてきた。
「本当におめでとう! 皇女殿下」
「ありがとう、ドニー。今度、お兄様も一緒にお茶をしましょうね」
お、お兄様って皇子殿下ぁあ???
待って、心臓がやばい。俺の首は無事?
やっぱり一介の騎士には荷が重すぎます!
ここまで、読んでいただき本当にありがとうございます!
ドニー、何やってるの、頑張れ(笑)などと楽しく思っていただけたら本望です。
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