表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『真実の愛』に裏切られた元婚約者が、ヤンデレ化して戻ってきました  作者: 黒木メイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/20

元婚約者の初恋相手から呼び出されました

 手紙をもらった。停学中のミラ・ベルモンドから。

 書かれていたのは、『大切なお話があります。放課後、○○まできてください』という文章。

 カタリナはそれに一度目を通し――ゴミ箱へと捨てた。


「酷い! どうして来てくれなかったんですか⁉ 私ずっと待っていたんですよ!」


 翌日、ミラがクロムウェル侯爵家に突撃してきた。

 カタリナは唖然とした。酷いのはどちらだと。

 まず、カタリナは彼女のことを知らない。いや、正確にはセシリアにある程度調べさせた(勝手にセシリアが調べ上げ、報告してきたともいう)ため情報としては知っている。だが、顔を合わせたこともない間柄だ。


 それは彼女からしても同じはず。それなのに、いきなりの呼び出し。その手紙の内容も酷かった。礼節の『れ』の字も感じられない。ただただ一方的な要件のおしつけ。

 本来なら侯爵家から男爵家に抗議を入れてもいいくらいの内容。にもかかわらず、カタリナは見なかったことにしてその事実を握りつぶした。それはただ単に面倒事を避けたかっただけ。

(それなのに、まさかあちらからやってくるとは……)


 当然のように先触れなしの訪問。

 つまみだすこともできたが、一応彼女は男爵令嬢。しかも、ミラは単騎でやってきたらしい。その勇気(?)に免じて彼女を招き入れ、話を聞くことにした……迎えが来るまでの間だけ。

 男爵家の御者に、彼女の親に引き取りに来てもらうよう、連絡を言づけた。

(御者のあの顔色……彼の方がよほど常識を持ち合わせていたわね)


 何かに急き立てられているかのように焦りを前面に出しているミラ。

 カタリナは彼女をとりあえず落ち着かせるため、紅茶と菓子を勧めた。遠慮なく手をつけるミラ。

「さすが侯爵家。これも、これも、美味しいわ!」

(うーん。警戒心は微塵もないのね)

 ミラが飲食に夢中になっている間に、カタリナは『ミラ』という人物を観察していた。


 この女性が七人もの貴族男性を虜にしたのが信じられない。

 確かに見目はいい。蜂蜜色のふわふわとした髪は触り心地が良さそうだし、ヘーゼルの大きな瞳はくるくる動いて見ていて飽きない。体型はカタリナよりも一回り小柄だが、胸とお尻にだけはしっかり肉がついている。いかにも男受けしそうな体だ。

(でも、体を使って陥落したわけではないのよね。話術が巧み……というようにも思えないし。こうして実物を見ても、彼女の魅力というのがいまいち分からないわ。……異性相手に特化した能力でも持っているのかしら)


 一通り食べ終わって満足したのか、ミラは姿勢を正した。

「それで、話の続きなんですけど! どうしてカタリナ様は来てくれなかったんですか⁉」

「そうね。せっかくここまで来てくれたのだし……教えてあげましょう」

 そう言い、カタリナは『貴族とは』から説明を始めた。ミラでも分かるように。淡々と。そして、ミラがカタリナに送った手紙がいかに常識外れだったのか。なぜ、その手紙にカタリナが応えなかったのかについても。丁寧に。


「と、いうわけなのだけれど……おわかりいただけたかしら?」

 ちらりと見やれば、ミラは顔面蒼白になり、震えている。

 どうやらわかってもらえたらしい。よかったとカタリナは安堵した。


 説明しても分からない人種だったらどうしようと思っていたのだ。そんなのただの時間の無駄になってしまうではないか。

(さあ、後は用件だけ確認して、迎えが来るまで適当に過ごしてもらえば……)

 カタリナがこの後の段取りについて考えていた時。ミラが勢いよく頭を下げた。


「申し訳ありませんでした!」

「……それは礼を欠いたことへの謝罪でいいのかしら?」

「それもあります! ですが、それだけじゃなくて……私のせいでカタリナ様とオーギュスト様の婚約がなくなっちゃったから」

 ミラは瞳をうるうるさせ懺悔を始めた。


「カタリナ様という素晴らしい婚約者がいるにも拘わらず、私はオーギュスト様を魅了してしまいました。言い訳に聞こえるかもしれませんが、本当にそんなつもりじゃなかったんです。ただ、ちょっと、カッコイイ人がいるな……と思って声をかけただけで。まさか、それがこんなことになるなんて思ってもいなくて……私っ」


 ちらちら、とカタリナを見上げるミラ。その姿は小動物のように可愛らしい。だが、カタリナはというと――。

(いつお話は終わるのかしら。このままのペースだと、お父様に出された課題が終わらないわ)

 などと眉間に皺を寄せ考えていた。思わず溜息も漏れる。

「ひっ!」と声を上げるミラ。カタリナは首を傾げるが、彼女はぷるぷると震えるのみ。


(それはどういう反応なのかしら。分からないけれど、もういいわね)


「謝罪は受け入れます」

 カタリナがそう言った途端、ミラの目が光った。

「本当ですか⁉」

「……ええ」

「でしたら、もうこれ以上うちの商売の邪魔をするのは止めてください!」

「はい?」

 何のことだと首を捻る。けれど、ミラの目は本気だ。

「オーギュスト様は返してあげましたよね⁉ 私はもう他の人と結婚が決まっているので復縁の可能性もありません! 必要なら今後は彼に近づかないと誓います。今、謝罪もしました! だから、どうかもうお父さんの仕事の邪魔をしないでください!」


(ああ、そういうこと)

 カタリナはようやく彼女の目的が理解できた。


 つまり、ミラはベルモンド家の商会の経営成績が下がっているのはカタリナが裏で手を回しているからだと勘違いしているのだ。

 いや、勘違いではないかもしれないが。貴族というのはそういうものだ。貴族の矜持を潰されれば、報復は免れない。父が何もしていなくても、サウェル公爵家が動いている可能性は十分にある。もしくは、彼女が粉をかけた他六名にかかわる家の可能性もある。


 ただ、そんな中でクロムウェル侯爵家が犯人だと決めつけたのは猫カフェ事件のことがあったからだろう。

(あれも男爵夫人の自業自得なのだけれど。私が教える義理はないけど……また来られても面倒だものね)

 そうと決まれば、と口を開く。先ほどと同じく丁寧に、ミラでも分かるように。カタリナは彼女の、ベルモンド男爵家のダメなところを一つ一つ説いていった。


「理解できたかしら?」

「……は、い」


 蒼白どころか、真っ白な顔で頷くミラ。

 その姿に思わず憐みの目を向けてしまった。


「謝罪も結構だけれど、それ以前にまずは貴族社会というものを学ぶことをお勧めするわ。幸いなことにあなたの『真実の愛』のお相手は生粋の貴族のようだし、今後は嫁入り修行を兼ねて彼の生家で教えてもらったらどうかしら。そして、学んだことを今度はあなたがあなたのご両親に教えてさしあげるの。そうすれば、効率も上がるわ。インプットするだけでなく、アウトプットすることで記憶の定着にも繋がるはずだから」


 いつの間にかカタリナにも熱が入る。真剣に彼女の、ベルモンド男爵家の矯正計画を立てていた。

 ミラが感動したようにカタリナを仰ぎ見る。


「カタリナ様。カタリナお姉様とお呼びしても⁉」

「いえ、それはちょっと……」

「ああ、今の私では呼ぶ資格等ないですよね! でしたら、私が立派な淑女となった暁にはお姉様とお呼びさせてください!」


 ずい!とカタリナに近づき、ミラは乞う。

 その勢いに押され、カタリナは「まあ、そうね。その時が来たら……」と安易にOKを出してしまった。

 後にカタリナ信者セシリアやオーギュストたちがギャンギャン騒ぎ立てるとも知らずに。


(さて、そろそろかしら)


 男爵家から迎えが来たかの確認をしようとカタリナが立ち上がった時、勢いよく扉が開いた。


「カタリナ! 無事⁉」

 血相を変え飛び込んできたのは、オーギュスト。

 ミラは彼が誰だかわからなかったのか、「ひっ」と怯え、カタリナの背中に隠れている。


「……ええ、無事ですわ、オーギュスト様。先触れもなく他家の屋敷に押し入るのは、公爵家の令息としていかがなものかしら?」


 現在の適正な距離を自覚させるためにも、冷たく言い放ったつもりなのだが……その拒絶の言葉すら、今の彼の耳には届いていないらしい。

 オーギュストはカタリナに庇われるようにして立っているミラへと、不愉快な害虫でも見るかのような、憎悪や殺意にも似た感情をぶつけている。

 彼の登場により事態は新たな、そしてより面倒な『修羅場』へと突入しようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ