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第90話  身近に潜む悪意

 カレンちゃんがお店を出してから1ヶ月が経った。何がきっかけで人気が爆発したのか、カフェロゼッタはいまや連日のように大行列を作る大人気店となっていた。満席の店内で俺たちはフラッペを飲んで行列の様子を眺める。もはや数十分待ちは当たり前となっている繁盛ぶりを見せているのだが、それがカレンちゃんを悩ませていた。


「嬉しい悲鳴というやつだな」


「おかげさまで。でも、今のままだと並んでから商品を提供するまでに1時間近くかかってしまいます。なんとか待ち時間を減らす方法は無いでしょうか」


 まぁそれでも待つ人は待つんだろうけど、俺はいくら人気店でも1時間は待てないな。この様子だと列を見て諦める人もいるだろう。つまり回転率をあげないといけないというわけか。


「単純に人員を増員するのではダメなのか?」


 ミーナが言う人手を増やす方法は解決策としては単純明快だが、人を雇うのにもお金がかかるからな。


「今のメニューってホットコーヒー、アイスコーヒー、フラッペだったよな?」


「はい。それとパンなどのフードメニューをいくつか。いずれは期間限定などで味を増やしていくことも考えていますが……」


 まぁ飽きられないように味を増やすのは悪くないと思うけど、今じゃないな。


「落ち着くまではドリンクはフラッペだけにするとかどうだ? フードメニューはみんな注文するわけじゃないだろうから、ドリンクとは別で会計する場所を作るとか」


「そっか。それならとりあえず来た人数分だけフラッペを作れば良くなるもんね」


「しかし、そんなスペースはあるのですか?」


 そうなんだよな。これをするとフードメニューを提供するスペースを別に作らなきゃいけないし、こっちでも列を作ることになったら本末転倒だ。さらにドリンクメニューの会計とフードメニューの会計で人を割かないといけないから結局人手が欲しいみたいな問題もある。


「仕方がないですが、当分はフラッペのお持ち帰りのみにして落ち着いたら色々なメニューを考えていきたいと思います。ありがとうございます、参考になりました」


 カレンちゃんは最後までああでもないこうでもないと頭を悩ませながらバックヤードに戻っていってしまった。


「大丈夫でしょうか?」


「分からん。けど頑張りどころなのは確かだな」


 この繁盛っぷりを見れば間違いなく成功していることは分かる。あとはこれを上手く捌けるかどうかだが、人が増えればトラブルも増える。


「ここかぁ〜! 最近話題の喫茶店っちゅうのは!」


 大太鼓のような腹をした中年の男が大きな声を出して入ってくる。すると男は値踏みをするような目で店内をぐるぐると歩き回った。嫌な感じだ。


「ちぃと貧相な店やけどまぁええわ! おい責任者出てきぃ! この店は今日からワシのもんやー!」


 なんだこのおっさん。いきなり出てきたと思ったらとんでもないこと言い出したぞ。お客さんたちも何事だとざわついている。


「おい、あれって……」

「あぁ、ガラルホルム伯爵だ。みかじめ料を払わない店には嫌がらせをするってもっぱらの噂だ」


 なんだそれ、見た目通りとんでもないやつじゃないか。


「あんたが店長はん? いやぁ偉い繁盛してますな。どうです、こんだけ人気やとならず者の1人や2人出てきますやろ」


「いえ。ありがたいことにお客様のご協力のおかげでオープン以来そのようなトラブルはございません」


「それは運がよろしいですな! しかしこれから先もそんな幸運が続くとは限りまへん。どうでっしゃろ、ワシのところにこのお店を任せてくれればそのようなトラブルも万事解決! ま、営業中の安全を買うようなものですわ! この規模でこんだけのお客さんなら、月300ってところやな」


「はぁ……私は雇われの身なのでなんとも」


 店長さんのそっけない態度にガラルホルム伯爵は苛立ちを見せる。


「貴様、ワシが誰か分かっているのか?」


「ガラルホルム伯爵とお見受けしますが、それが何か?」


 お前はここまで言っても分からんのか! と伯爵は捲し立てる。しかしいくら捲し立てても伯爵は店長から欲しいリアクションを貰えないのでついに諦めた。


「……まぁええわ。また後日伺いますわ」


 伯爵はイライラしているのを隠そうとしないで店を出て行った。ただこれで問題が解決したわけではない。むしろこれからが問題というのは誰の目にも明らかだった。


「あんた、大丈夫なのか?」

「ガラルホルム伯爵に目をつけられたら商売は出来ん。あの男はやり方こそ汚いが、金さえ払えば店は守ってくれる。悪いことは言わん。早く金を渡した方がいい」


 客の中には店長さんの身を案じてお金を払うように言うものもいたが、それでもまぁどうとでもなるでしょうと店長は楽観的な態度を崩さなかった。


「お兄様……どうにかできませんか?」


「どうにかなぁ……でも俺たちが一日中見張ることもできないし……」


 嫌がらせの実行犯を捕まえれば一件落着か? いや多分違うだろうな。きっと1回や2回では終わらないだろうし、初めは店を破壊するとかその程度の嫌がらせで済むかもしれないけど、ヒートアップしたら店長さんやスタッフさんを直接狙ってくる可能性だってある。そう考えたらやっぱり大元を叩かないとダメだな。


 とはいえいきなり伯爵をしばき倒したりすればこっちがお尋ね者だ。いやまぁバレないようにできるだろうけど、それじゃただの通り魔だしどっちが悪人か分からなくなってしまう。あくまで帝国の法に則って然るべき処罰を受けさせるのが良いだろう。



 深夜。みんなが寝た後に俺は街灯のない真っ暗な帝都の街を1人寂しく歩いていた。基本的に夜は外を出歩かないというのがこの世界の常識なので、昼間はあんなにうるさかった街もこの時間は閑散としている。店に嫌がらせをしてくるならばこういう人気のない時間帯だろう。


「まぁ、昨日の今日で行動をしてくるとは思わないけどな」


 そんなの状況証拠だけで筆頭容疑者だからな。けどその可能性がないとは言い切れないので俺はこうしてパトロールに出たわけだ。


「『夜眼』」


 弓術師のスキル『夜眼』のおかげで俺は暗いところでも視界が確保できる。単純にスキル未使用者と比べて夜戦に有利なのは当たり前だが、松明や行灯を持たなくていいので片手が空く副次的な効果も嬉しい。


「ん? こんな時間に灯りがついてる?」


 カフェロゼッタがほんのり明るい。というか耳をすませなくても「おらぁ! やっちまえ!」と汚い怒号が聞こえてきた。まさか本当に昨日の今日で動いてきたのか!? とりあえず様子を見に行かないと! 


 店のドアは壊されている。くそ! もっと早くに来るんだった! 俺が店の中に入ると、複数の殺気が一気に向けられた。


「新手か!?」

「何人来ても一緒や! 返り討ちにしたるで! 『フリーズバインド』」


 うぉぉぉ!!! いきなりが過ぎるだろ! 別に痛くも痒くもないけどさ。 


「『レジスト』」


「何!?」

「こいつ……できる!?」


 改めてよく見るとどういう状況だこれ。なんか店のスタッフさんが狼藉者を拘束しているんだけど。


「待って、オーナーのご友人だよ」


 店長さんが襲撃者と思われる1人の男を片手に持ちながら他のスタッフさんを静止してくれる。


「すまん、大丈夫か?」


「あぁ、魔法抵抗力は高いからな」


「イーサンのバインドをこんな易々と……ただものではないな」


 まぁステータスが違うからね。そんなことより一体何が起こってるのか説明して欲しい。


「むしろこっちはこの状況に驚いてるんだが?」


「あー、これ? 私たちランページ侯爵家に仕える前は冒険者やってたからね」


「元とはいえA級冒険者だからな。この程度の相手なら何人来ても一緒ってもんよ」


 へぇ、そうなのか。そんな人たちがカフェで店員やってるなんて絶対誰も予想できないよな。勝ち目が無いと悟ったのか、意識のある襲撃者の1人が命乞いを始めた。


「待ってくれ! 俺たちはガラルホルム伯爵に頼まれただけなんだ!」


「思ったより簡単に口を割るんだね」


 襲撃者の拘束を解かずに店長さんたちはこの後のことを話し合っていた。俺も仲間に入れてくれよ。


「我が身可愛さに雇い主を売るなんて伯爵の子飼いの犬にしては程度が低くないっすか?」


「そういえば最近騎士団が裏の連中を一斉検挙したって話があったな。1週間で5000人近くの組員が投獄されたらしい。裏組織も人材不足で質が落ちてるんだろう」


「へぇ……悪党も大変みたいだね」


 1週間で裏の組織の連中が一斉に? おかしいな、なんか心当たりがあり過ぎる。みんなに【対人戦の極意】を習得させるために20個くらい裏組織を壊滅させたぞ。まさかそんな影響がこんなところに現れるとは……。


「それで、どうしますか?」


「明日お嬢様にお願いしてランページ侯爵家からガラルホルム伯爵に直接抗議文を送っていただきましょう。ついでに過去の悪事も詳らかにしてこれまでの行いの清算もさせてやりたいと思います」


 つまり侯爵家の威光で伯爵を黙らせるというわけか。侯爵と伯爵では階級は1つしか違わないけど、どのくらい権力が違うのかはいまいちよくわからない。そういえば以前トワパパが伯爵位くらいならあげるよってめちゃくちゃ軽い感じでくれたな。あれ公爵はともかく侯爵は無理だったのか? そう考えると国王と王女の2人の命を救って貰える限界が伯爵位ってことか。


「じゃ、今日は騎士団にこいつら引き渡したら解散。あ、ドアの修理は明日の朝やろう。まぁ最悪無くてもいいか」


「了解」


 ん? なんかいつの間にか全部終わってしまっていた。そういえば俺何もしてねぇ!

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