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第89話 カフェ

 カレンちゃんはよく家に遊びに来るようになった。アロエと仲良くしてくれているみたいで嬉しい。


「お、お兄さん。今日はお兄さんにお願いがあって来ました」


「え? 俺に?」


 なんだろう改まって。アロエの様子を見る限りアロエは聞いているみたいだ。


「あの、コーヒーのお店を出店してもいいですか!?」


 ん? それって俺が決めることなの? 商会の偉い人とかじゃなくて?


「お兄様。カレンちゃんはお兄様のコーヒーを使ったあのスイーツを提供するお店の出店を考えているんです」


 あぁ、某コーヒーチェーンのインスパイアもとい丸パクリさせて貰ったあれね。俺のって言われると罪悪感が強いな。


「あぁ、別にいいけど。そんな許可とかいらないよ?」


「だ、だめですよ! あのレシピはお兄さんのものなんですから!」


 やめてくれえ! そんな純粋な目で俺を見ないでくれ! 


「あれはカレンちゃんに託したんだから、好きに使っていいんだよ?」


「お兄さん……!」


 うん、これが俺にできるせめてもの罪滅ぼしだ……。


「ねぇ、お店の場所とかは決まってるの? 内装とかは?」


「友人がその手の専門家さんを紹介してくれることになっていて……ありがたいことに職人さんには困らなそうです」


「あのお菓子は氷を使うので氷魔法を使える魔法使いが必要ですよ。それもお店を開いて利益を出そうとなると連日、複数人」


 あ、たしかに。自分たちで楽しむ分には気にならなかったけど、お店を出すとなると1日で何杯売り上げるか想像も出来ないな。


 店によるだろうけど、ちょっと雑に計算してみるか。混雑時は1時間に60人くらい捌いてそうだから1時間に60杯。場所によっては朝は7時から夜は23時までの16時間営業している店舗もあるけど、混雑しているのはうち4時間ほどとして残りは1時間あたり平均25杯くらいで計算してみよう。だから合計してだいたい500杯くらいか? まぁそれは営業時間を限定するとか一日何杯限定とかにすればどうとでもなるか。問題は氷魔法を使える人材を毎日確保できるかだな。


「それも友人が派遣してくれるみたいで……」


「友人とやらが凄いな」


 前世でいうところの人材派遣会社みたいなものだろうか。しかしそういうのは商会が準備してくれるものだと思ってたけど違うんだな。


「父からはお店を経営したいなら商会の力に頼らないで自分の力で始めるようにと言われていたので当分見込みは無かったのですが、友人が援助してくれることになったのでお店を出せるようになったんです」


 へぇ、意外と厳しいんだな。経営者として人を使えるようになれって教育の一環なのかな。


「しかし、いくら友人だからと言ってそんな全面協力してくれるなんて凄いじゃないか。いったい何者なんだ?」


「侯爵家のご令嬢ですよ。カレンちゃんがたらし込んだんです」


「た、たらっ……! あ、アロエちゃん、人聞きが悪いよ〜!」


 ぽかぽかという擬音がつきそうなパンチで抗議している。アロエがそのパンチを受けて「うへへ」とだらしない顔をしているのが若干気になるけどそういうお年頃なんだろう。


「オープンを楽しみにしてるよ」


「はい! また報告にきますね!」



 あれから1ヶ月、カレンちゃんからオープンしましたという報告を受けてオープン初日に早速お邪魔させてもらった。初日だから客入りはそこまでだ。ちなみにお店の名前はスタ……ではなく、出資者の名前を貰って『カフェ・ロゼッタ』だ。それを見てアロエが名状しがたい表情をしていたけど何かいい名前でも考えていたのだろうか。


「あ、お兄さん!」


「よっ!」


 カレンちゃんが俺たちに気付いて可愛らしくとてとてと駆け寄ってくる。普段の営業日にはいないそうだが、今日は初日ということで視察しているらしい。


「店はどうだ?」


「そうですね……。コーヒー自体馴染みがあるわけじゃないので知らないお客さんからしたら入りにくいのかもしれないです。でも、豆を買って帰ってくださるお客さんもいたので、ハマったら流行るのかなと」


 そういえばこっちにはコーヒーの文化そのものが無かったな。外の看板にはコーヒー喫茶であることは書かれていたけど、それが何か分からない人からすればちょっと勇気がいる。


「カレンちゃん、ちょっと外の席借りていいか?」


「それはいいですけど……何かするんですか?」


「ん? 宣伝」


 まぁそれだったら知ってもらうというか、入りたくなるような要素を作ってあげればいいんだよな。カレンちゃんにもその意図が伝わったのか、急いで俺たちの分を用意してくれるみたいだ。


「店長さん! 5杯用意お願いします! 3つはホットで、2つはフラッペで!」


「はいよー」


 厨房の方から女性の声が聞こえてくる。店長? と思ったがカレンちゃんはここのオーナーだそうだ。そりゃそうか。ここはカレンちゃんの店だけどカレンちゃんは普段学校にいるわけだし他に責任者がいるよな。


「よろしくお願いします!」


「あいよ」


 アロエちゃんからホットコーヒー3杯とフラッペ2杯を受け取って外のテラス席へと向かう。まずはこの店が何を取り扱っているかを知ってもらうのが大事だろう。「あれ、新しい喫茶店出来てる。興奮してきたな」って入っていく人はやっぱり珍しい。


「ふむ……外で街の喧騒を楽しみながら飲むのもなかなか乙なものだな」


「ちょっと優雅だよね〜」


 街行く人があいつらは一体何を飲んでいるんだと観察してくる。こうやって美人が楽しそうに飲んでたら気になるだろう。


「お兄様が作るのとはまた少し違った味わいですね」


「それは砂糖の使用量を減らして代わりに蜂蜜を使用しているのではないでしょうか」


 トワなんて一挙手一投足が上品だからまるで絵画から飛び出してきたみたいだ。そんな人が飲んでいるものが気にならないわけがない。そしてアロエのような子供でも美味しく飲めるというのが分かる。完璧な布陣だ。


 まぁ知ってもらうなら試飲ができるといいんだろうけど、フラッペの試飲なんて気軽にできないからな。だから俺はこっそり伝えてやることにした。


「女性人気間違いなしの喫茶店だ。デートの下見でもどうだ?」


「なぁ、入ってみようぜ」

「悪くないだろう」


 男性客が釣れた。お前らってほんと……。


「うわぁ! なんかお洒落かも」

「うん、雰囲気あるね〜。うーん、でも一杯600ゴールドかぁ……喫茶店にしてはちょっと高くない?」

「あ、でもオープン記念で500ゴールドだって」

「500ゴールドかぁ……それでもご飯が買えちゃうなぁ……」


 これは喫茶店としては少し高めの値段設定らしい。南方からの輸送費や砂糖などをふんだんに使用することを考慮するとどうしてもこれ以上は下げられないみたいだ。トワが言っていた砂糖の代わりに蜂蜜で補っているというのもコスト削減が目的らしい。


「あらアロエさん。いらしてたの」


「あ、ローザさん」


「ちょっとお待ちになって、今からそちらに行きますわ」


 ん? なんかあからさまに貴族っぽい子がアロエに話しかけてきた。学校の子かな? 貴族の子とも仲良くしてるみたいだ。


「今の絶対貴族の子だよね……」

「つまり私たちも貴族様の気分を味わえるってこと……?」


 迷っていた女性2人も貴族様が食べるようなものが食べられることが決め手になって入っていく。しばらくするとテラス席にさっきの貴族の子がやってきた。


「アロエさんも招待されていましたのね」


「はい。お友達ですから」


「ふーん……」


 あれ、もしかしてこの2人仲良くない? 目がバチバチなんだけど。え、仲良いんだよね?


「えっと、ローザさんだっけ? 俺はテンマ。一応アロエの保護者ということになっている。これからもアロエと仲良くしてやってくれ」


「存じ上げていますわ。カレンさんからはここのメニューの開発者だとお聞きしています。あなたにもカレンさんは渡しませんわよ!」


 いきなり指をビシッと刺されて宣戦布告される。カレンちゃんを渡さないって言われても俺別にカレンちゃんのビジネスパートナーってわけじゃないよ?


「こういう人なんですよ……ローザさんは」


 あぁなるほど……アロエとローザでカレンちゃんを取り合ってるのね。女の子同士のいざこざにいいイメージはないから喧嘩しないで仲良く取り合って欲しいと思う。

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