第87話 暗黒魔道士
アロエも学校に行くようになったので日中は各々で行動することも増えてきた。ミーナもフィーもレベル300に到達しているし、以前のように毎日数時間と精力的にレベル上げに勤しむことはなくなったというのもある。まぁ前のペースが異常だったとも言えるんだけど。
なので最近はみんながお昼に何をしているとかは知らない。でもそのおかげで色々な土産話が聞けるようになった。夜にみんなでリビングに集まってみんなの土産話を聞くのが俺は好きだったりする。
「そういえばテンマ様、レベル300に到達しました」
「えっ!?」
トワさんさぁ、それそんな淡々と事務連絡みたいに言うことか? ずっと頑張ってたんだからもっと嬉しそうにすればいいのに。
「おぉ、ついにトワもか」
「これはお祝いしなきゃだね!」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます。そういうわけなので『純白魔道士』は私が引き継ぎます。というかもう転職しておきました」
あ、行動早いね。純白魔道士は『エクスヒール』というあらゆる病や四肢欠損すら治せる固有スキルと、『エリアメガヒール』という広範囲に大回復の効果をもたらす汎用スキルを取得することができる。即死でなければ完全復活させられるまさに回復の鬼だ。
「なら俺は『暗黒魔道士』やろうかな。ミーナは拳神、フィーはダークロードで物理攻撃が過剰だからな。魔法職がいた方がバランスが良いだろう」
暗黒魔道士は黒魔道士の上位職でデバフや魔法攻撃に特化している。『万物の根源』という固有スキルで火・水・土・風・氷・雷・聖・闇の8種の属性魔法とそれらを複合した強力な魔法を使用することができる。
「試し撃ちしに行っていいか?」
あまり魔法職をメインでやってないから強力な魔法攻撃というのも楽しみだ。浮かれているとみんなが俺を冷たい目で見てきた。
「そんな新しいおもちゃを貰った子供みたいな……」
「そうだよー。トワのお祝いが先でしょー!」
怒られてしまった。しかもぐうの音も出ないほどの正論で。というか、お前らの時はお祝いとかしなかったんだが?
「お祝いといってもだな。知らなかったから何も用意してないぞ? 夜だからお店も閉まってるし……」
「お兄様……」
やめてくれ。そんな情けないようなものを見る目で俺を見るんじゃない。
そんなこんなでダンジョンの50階層にやってきた。あ、結局試し撃ちになりました。一応だけどトワが試し撃ちに行こうって言ったから来てるんだよ? まぁトワが気を利かせて言ってくれただけなんですけどね。
「今回の犠牲者のダイヤモンドゴーレムさんだ」
ダイヤモンドゴーレムは動きこそ単調だが、物理耐久、魔法耐久、デバフ耐性に優れたまさに初心者殺しと言えるボスモンスターだ。
「レアドロップがダイヤモンドだから相当お金になるんだよね」
「ダイヤモンドですか……そんなに儲かるんですか?」
そういえばあの時はまだアロエはいなかったな。かつてのミーナとフィーもそうだったが、ダイヤモンドの価値にピンと来ていないみたいだ。
「手数料とか諸々差し引いて20億ゴールドだ」
「に、に、に、にじゅうおく!?」
「あれは世界唯一と言っていいほど色・サイズ・カット・透明度に優れていましたからね。二つ目を持ち込んだとしてもそこまで伸びないですよ」
もともと二つ目を持ち込まない約束でオークションに参加させてもらったんだけどね。だからアロエには申し訳ないけど入手しても帝国では売れない。
「じゃあ早速試し撃ちをしようかな。景気良く一番威力の高いやつで、『アルケー(火)』」
まずは火の根源をストックする。暗黒魔道士はこのストック機能を使って魔法の強化や魔法を掛け合わせて複合魔法を作るみたいだ。ストックできる魔法の数は8つ。ちょうど属性の数と一緒だ。
「『アルケー(水)』『アルケー(土)』『アルケー(風)』『アルケー(氷)』『アルケー(雷)』『アルケー(聖)』『アルケー(闇)』」
全ての属性のアルケーを1つずつストックする。それら全てを複合魔法として放つ暗黒魔道士の最強魔法スキル。
「『アポカリプス』」
直後、とんでもなく極大な黒色の光線が放出される。とてつもない熱量を感じるそれはダイヤモンドゴーレムに直撃したと思ったらその上半身を消し飛ばしてしまった。
「い、一撃ですか……」
最初に俺、ミーナ、フィー、トワの4人でダイヤモンドゴーレムに挑んだ時は1時間近く戦った。当時のミーナ1人だと8時間かけてようやく倒せるようなモンスターだ。発射までに事前準備が必要というのはあるが、当時より強くなっているとはいえこの威力はヤバい。
「1発でMPのほとんど持ってかれてるな」
MPは魔法スキルを使う職種にとっては生命線だ。時間経過で自然回復するけど今のところ1日1発が限界だな。魔力回復薬なんてものもあるが、そこまでがぶ飲みしたくはない。
「事前に溜めが必要なのは私たちが時間を稼げばいいだけだが、魔法職なのにMPがカツカツなのは厳しいな。短期決戦ならいいが、持久戦や連続戦闘には向いていないようだ。暗黒魔道士、なかなかクセが強い職業みたいだな」
まだまだ使っていない魔法が多いのでなんとも言えないが、確かに『アルケー』を使用する魔法スキルは消費MPが多めに設定されている。
例えば、黒魔道士のスキルに『メガファイヤー』という火属性のスキルがある。これの消費MPは15だが、『アルケー(火)』を2つストックして発動する複合魔法『ヘルファイヤー』の消費MPは150だ。威力は10倍どころじゃ済まないみたいだけど。
魔法スキルを主に使用する最上級職は全部こんなピーキーな性能をしているのだろうか。今のところだと解放されている最上級職では『神魔弓師』『アークビショップ』『聖騎士』あたりか。色々試してみないとな。
「ドロップアイテムはダイヤモンドじゃなくて黒色の石……? お兄様、これも貴重な宝石の仲間でしょうか?」
「いや、これはただの炭みたいだな」
「残念です……」
「まぁ確定ドロップじゃないからな。こういう時もある……」
この時、俺は思った。これってもしかしてダイヤモンドなのではと。もしそうだとしたらこれはとんでもない損失だ。
「テンマ様、どうかなさいましたか?」
「実はダイヤモンドっていうのは炭素で出来ていて熱に弱くてだな。一定の温度を超えると黒くなるんだ……」
融点は3500度近くあるんだけどね。ただ熱を加えると炭化してそこまで耐えられないというか……なんなら酸素と結びついて二酸化炭素になって消滅するというか。
「それって、ちょうどこの炭みたいにか?」
どうやら俺の言いたいことは伝わったみたいだ。
「テンマ君! もうあの魔法禁止!」
ごめんって! まさかドロップアイテムにまで影響するとは思わなかったんだって!
こうして暗黒魔道士最強魔法スキル『アポカリプス』は封印させられた。うん、『ヘルファイヤー』の存在は教えないでおこう。
けどこんなに強いならあそこに挑戦するのもいいかもしれないな。王都のダンジョン70階層。危険が伴うが、トワも最上級職になったし安全性はかなり確保できているはずだ。でも流石にアロエは連れていけないからなぁ。ダンジョンは機会があったらにしよう。その時には更に強くなっていてより安全になっているだろうからな。




