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第84話 観戦

 元団長と団長は反対側のブロックのため決勝戦まで当たらない。そのあとも団長は問題なく勝ち続けた。


「勝者! サクラ・カミイズミ!」


 それは同じく元団長も同じだった。


「勝者! マルス・グランド!」


 お互い危なげのない勝利が続く。実力は1枚も2枚も上といったところか。


「お兄様、パンにソーセージを挟んだだけのこのパンが何故こんなに美味しく感じるのでしょうか」


「それはホッドドッグといってこういう場所で食べると何故か美味く感じるパワーを持っているんだ」


 不思議だろう。俺もなんでか分からない。それがホッドドッグというものだから。


「パワー……魔力のようなものでしょうか……」


 いやトワさん、真面目に受け取らなくていいから。


「ミーナ、口元にソースがついてるぞ」


「む、すまん」


 可愛いやつめ。イチャついてると思われたのか騎士団の男連中に妬ましそうな目で見られた。


「私も結婚したいなぁ……」


 切実な女性団員の声も聞こえてきた。お前らいるぞ! チャンスを見逃すな! 


「でもここの連中は勘弁だよね〜」

「「ね〜」」


 すまんお前ら。推定冒険者ランクAからSのお前らの評価がこんなに低いとは思わなかった。俺はお前らの市場価値分かってるからな。


「クソ羨ましいぜあの野郎……! あいつ倒したら誰か俺と結婚してくれねぇかな」

「待て早まるな……あの悪魔に勝てるわけがない」

「けどよぉ! あの悪魔が市場の女を4人も取ってるなんて俺許せねえよ!」


 味方だって言ってんだろ! 俺をなんだと思ってんだこいつら。あとさらっとアロエのことを頭数にいれるな。俺はアロエには手を出していない。


「いや、流石に私もあの人に行く勇気はないわ……」

「うん、手を出したら怖いというか……」

「あれは死にたくなったら一夜の過ちを犯す用」


【悲報】俺、女性団員からの評価も低い模様。なんだ死にたくなったら一夜の過ちを犯す用って。


「あれ、テンマ君。ちょっとがっかりしてる〜?」


「テンマ様、まさかとは思いますが女性団員とワンナイトしようと」


「ワ、ワンナイトって……も、もしかしてぇ……ひゃうぅ……」


「さぁて試合はどうなったかなぁ!」


 アロエの前でなんつー話してんだこいつら。今度騎士団の訓練に顔出して女性団員の弛んだ根性叩き直してやる。ついでに男連中、お前らもだ。


「準決勝! マルス・グランド対ドルフ・サリチル!」


 ほら騎士団員ども。お前らの同僚の試合だぞ。集中して見てやれよ。


「サクラ殿の後釜と言われているドルフ殿か」


 後釜というが、年齢はそう離れていない。なぜそう言われているかというと、団長があくまで臨時の団長で、後任が見つかれば騎士団を辞めると宣言したからだ。それは団長が帝国出身でないというところが強く関係していて、そんな人物が守備の中枢を担うのは歪であると主張する派閥があり、それを団長自身も同意しているというのが大きい。もっとも、帝国騎士団の強化という多大な貢献をした団長を守ろうとする派閥もあり、彼女の帝国での地位は約束されているみたいだ。


 そういうこともあってドルフにとっても負けられない戦いだ。街中が注目するこの大会で無様な姿を晒せば、サクラ団長の方が安心だったなんて声が出てくるのは想像に難くない。逆に、この大会で団長に勝てばこれならば安心だと思わせることが出来る。この元団長戦はドルフにとっての最初の鬼門なわけだ。


「試合開始!」


 試合開始とともに2人は駆け出す。まずは挨拶と言わんばかりに2人の剣が交錯した。


「ほお、ちょっとはやるようになったじゃねぇか」


 元団長マルスの剣は言わば『剛』の剣だ。これまでの挑戦者は見るからにパワータイプの巨漢でさえこの一振りを受けるだけで手から武器を落としていた。しかしドルフは武器をしっかりと握って手放さない。


「この程度で褒められても嬉しくねぇ……よ!」


「いやいや、案外この程度ができねぇもんさ」


 一合、二合と剣を交えていく。まともな剣戟が出来ているが、少しドルフの分が悪いか。最初は互角に打ち合っていたように見えたが、いつのまにか一合一合を頑張って受けている形になっていた。


「どうやって攻めに転じるかだな」


 ジリ貧な状態が続く。このまま攻撃を受け続けている限りチャンスはない。どこかで切り返そうにも怒涛のラッシュでその隙がない。


 万事休すか。そう思った瞬間、呼吸を入れるためか一瞬だけ攻撃が緩んだ。


「そこだぁぁぁ!!!」


 ドルフが剣を受けたと思ったらマルスの剣が上空へと舞い上がった。まさかマルスの方が剣を手放す展開になるなんて誰が予想しただろうか。


「上手い! 巻き上げか!」


 なんだそれ、なんか美味そうな名前だな。ってそんなことより剣を手放した今が絶好のチャンスだ。


「もらったぁぁぁ!!!」


 ガラ空きの胴を狙って横に一閃。誰もが勝負ありと思った瞬間、マルスがニヤりと笑った。


「人間ってのは、勝ったと思った瞬間が一番隙だらけってね」


 んな馬鹿な。マルスは中年のおっさんとは思えないジャンプで剣をかわしたかと思うと、そのままドルフの顔を蹴り飛ばして気持ちいいほどに綺麗なカウンターを決めた。


「勝者! マルス・グランド!」


 この試合は今大会1番の盛り上がりを見せた。見応えのある剣戟に技ありの巻き上げ、そしてそのピンチを凌いだカウンター。一般席の観客席は見応えのある素晴らしい試合だったと誰もが拍手喝采している。まぁ概ね同意だ。俺も知らない技を知ることが出来たし。


 しかし元団長とやらはちゃんと強いな。対人慣れしているというか、剣を巻き上げられた時ですら微塵も焦りを見せなかった。


「わざと巻き上げられたのか……?」


「まさか……いや、結果として巻き上げが油断に繋がったわけだからその可能性もあるか……」


 もしそうだったらドルフは負けるべくして負けたということになるな。だけどどうも引っかかるんだよな。


「しかし、あのままでも勝てたのではないですか? あの状況ならわざわざ技を喰らう必要があるとは思えませんが……」


 まさにトワの言う通り。あのまま押し切って勝つことも可能だったように思える。わざわざ巻き上げを食らうなんてそんなリスクを負うだろうか。うーん、だったらわざと食らったっていうのは俺の思い違いか……。


「スタミナじゃない? あれだけ激しい攻撃が長く続けられるとは思えないし、早く決着をつけたかったとか?」


 確かにそれはかなり有力だな。攻めるのと守るのとでは攻める方が大変だ。受けに徹せられると試合が長引くのでそれを嫌ったということか。


「なるほどなぁ。対人戦って奥が深いんだな」


「実力の近しい者同士の試合なら心理的な読み合いが勝負を決めることもある。最も、ステータスの差でそれが通用しなくなるのもまた対人戦だがな」


 帝国で1000人以上の人と戦って『対人戦の極意』なんて称号を手に入れたけど、対人戦のことなんて何も分かってなかったなぁ。

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