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第85話 武闘会、優勝は……

「結局決勝戦はこのカードになったか」


 途中にダークホースが現れるでもなく決勝戦は新旧騎士団長対決となった。実力的にはどちらが勝ってもおかしくないだろう。


「刀を抜いた!?」


「あんな細い刀であの馬鹿力を防げるの!?」


 まさか打ち合うつもりか? こんなもろパワータイプを相手に? 愚策のように思えるが何か手があるのだろうか。


「ようやくこの時がやってきたってもんよ。こちとらお前に勝つために1年間修行してきたんだ」


「これで私に負けてももう1年修行の旅に出るとか言い出さないでくださいよ」


「がっはっは! 安心しろ! その予定はねえ!」


 団長と軽口を叩き合うとまず先にマルスが仕掛けた。この男は全部の試合で相手よりも先んじて動いていたが、後の先を取るのが上手い団長に対してもそのスタイルがブレないのは余程の自信があるのだろう。


 マルスが放った上段斬りを団長は刀で受け止めるのではなく、斜めに振り払うことでベクトルを変えた。そしてそのまま切り返す。燕返しというやつだ。


「おっと」


 一瞬で決まるかと思ったがバックステップでかわされる。ドルフ戦でのジャンプといいこの男は年齢にそぐわず俊敏で軽快だ。


「避けられるとは思わなかったか? フットワークはお前だけの得意分野じゃねぇってことよ」


「まさか。この程度の攻撃で決まるなんて思っていないさ。私程度の実力でそんな自惚れていたらとんだお笑いぐさだ」


「私程度ときたか。武闘会2連覇が嫌味ったらしいねえ……!」


 マルスは性懲りもなく攻めるスタイルを崩さない。先ほどと同じような展開で、今度こそ団長のカウンターが決まるかと思いきやマルスはそこに合わせてきた。


「『剛体』」


「強引だなっ!」


 まぁそういう使い方もできるわな。防御力を上げる剛体スキルを使ってあえて攻撃を避けない、かわりにこっちも1発入れさせろって、肉を切らせて骨を断つ作戦だ。追撃はさせまいと団長はすぐさま距離を取る。


「まだまだぁ!」


「チッ……」


 剛体の効果が切れるまでは反撃しても同じようにやられるだけだ。なのでその間団長は逃げに徹するしかない。しかし逃げようにもフィールドが決められているので逃げるのも難しい。徐々に隅に追い詰められていく。


「どうした! もう後はねぇぞ!」


「5、4、3、2、1……」


「お前の最強伝説もこれで終わりだ!」


「……っ!」


 団長はマルスが剛体を使用してからの時間を測っていた。そしてまさにその剛体が切れるタイミングで大振りの攻撃。それを紙一重で右に躱わす。絶好のカウンターのチャンスだ。再使用待機時間(クールタイム)があるためマルスは剛体を使えない。


 すれ違うように抜き胴が決まって勝負が決まる。そう思ったが団長渾身の抜き胴は分厚い壁に阻まれたように止められてしまった。


「なに……!?」


「おいおい、使ってる俺自身が時間を把握していないわけがないだろ?」


 カウンターを決められたはずのマルスがにやりと笑う。マルスはそのまま剣を握っていない左手でカウンターのラリアット。これは決まってしまったな。


「『マジックガード』だ。ちぃと魔力の消耗が激しいがな」


 マジックガードか。たしかダメージを魔力で肩代わりするスキルだったな……。剛体が終わったタイミングでこんなの隠してたのか。


「ま、魔法使いの防御スキル……だと……?」


「相手に干渉しない魔法の使用はOKだからな。お前のカウンターの技術は間違いなく世界最強級だが、逆に言うとそれが通用しない相手には滅法弱い。俺はそこに攻略の糸口を見出した……って聞いちゃいねぇか」


 今回は団長も課題が出来た形になったな。俺ならカウンターを無視して攻めてくる脳筋ゴリ押し戦法にどう戦うか……。


 考えられる対処法はぱっと思いつく限りで3つ。1つはこちらも脳筋戦法。こちらの攻撃力が相手の防御力を上回ればいいんだろう? という理論。いや、理論なんて大層なもんじゃないな。2つ目は持久戦に持ち込むこと。脳筋ゴリ押し攻めを耐えて相手が疲れるのを待つ。わざわざ短期戦に付き合う必要はないということだ。3つ目は魔法などで距離を取って戦う方法。これは武闘会は攻撃魔法禁止のルールなので反則になってしまうが、実際にルール無用の戦いをするのなら有効だろう。


 まぁ問題は咄嗟にこういう手合いと出会った時に対処できるかって話だな。団長はやや不意打ち気味に仕掛けられたせいで相手の土俵で戦うことになってしまったのが敗因だろう。冷静に戦闘スタイルを見極めてスタミナ切れを狙っていれば勝ちを拾えた可能性は充分にあった気がする。


「優勝はマルス・グランド!」


「あ……サクラ団長負けちゃいました……」


「随分と対策してきたみたいだからな。こればかりは有名税みたいなものと割り切るしかないだろう」


 その点で言うと団長もマルスについて対策、とまではいかなくても警戒はしていただろう。しかしこの1年で戦闘スタイルが一変してその対策が役に立たなくなったのかもしれない。


 表彰式も終わって武闘会は終了。帰ろうかと思っていたところでナナとララに声をかけられた。


「アロエちゃんとテンマさんたちもお疲れ様会来るっすか?」


 お疲れ様会て……慰労会とかもっとマシな名前があるだろう。


「ほんとは団長の3連覇おめおめの会にしたかったんだけどね〜!」


 なんだそのふざけた名前の祝勝会。とてもじゃないけど二十歳過ぎた大人のネーミングじゃねえな。


「それって私たちも行ってもいいの?」


「もちろんっすよ。姐さんたちは特別講師っすから」


「そーそ、関係者席にいるんだし今更っしょ〜!」


 そう。俺たちは団長の誘いもあって騎士団に不定期で現れる特別講師になっていた。特にフィーは彼らに絡め手や隠密を主軸としたマスターシーフを想定した模擬戦で絡め手の恐ろしさを骨身にまで染み込ませている。それこそ戦闘職ではない斥候職が戦闘職である騎士に勝てるわけがないという騎士団員の傲慢な固定観念を完膚なきまでに叩きのめした。

 そういうこともあって本来年上であるはずの彼女らがミーナやフィーのことを敬意を込めて姐さんと呼んでいる。


「場所は『熊無双』って飲み屋っす」

「今日は騎士団の貸し切りだから、アロエちゃんも気にせず入っちゃっていいからね〜」

「さ、今日は騎士団の金で飲みまくるっすよ!」


 それは騎士団の金じゃなくて毎月給料から天引きされてプールされている金では? 「じゃあまた後で〜」ってウキウキで行っちゃったけど公金でそんな飲み会なんてしたら大問題じゃないのか? それともこっちだと当たり前なのか?


「もちろん大問題ですよ。おそらくナナさんとララさんが理解していないだけかと……」


 大問題だった。やっぱあのギャル2人アホだ。話を聞かれていたのか近くにいた中堅の男性団員たちに「騎士団でプールしてる金で元は俺たちの給料だよバカ!」「毎月会費引かれてるだろ! でけぇ声で滅多なこと言うな!」とこめかみをグリグリされている。良かった、他の団員はまともだった。


「せっかくのお誘いだし俺たちも行くか」


 そういうわけで俺たちも騎士団御用達の飲み屋である熊無双へと向かった。



 熊無双なんて名前をしているから熊料理でも出てくるのかと思ったが、普通の居酒屋だった。じゃあなんでそんな名前なのかと思ったが、店主がなんとなく熊っぽかったので「ああ、それでか」と妙な説得力があった。


「テンマ様、どうぞ」


「お、ありがとう」


 隣に座ったトワがお酌してくれる。反対側にはフィーが座っていてなんかそういうお店みたいだ。未成年でそういうお店行ったことないから分からないけど。アロエは「なんか教育に悪そうなんで団員さんたちとお話してきます」と行ってしまった。俺たちより向こうのほうが健全だと思われてる。というか、教育に悪いかどうかは第三者が判断するのであってその当事者に教育に悪いと思われてしまったらそれはもう教育失敗では?


そんなアロエは「今日はお誘いありがとうございます」と挨拶回りをしている。うちの子は偉い。


「え!? 団長、騎士団やめちゃうんですか!?」


「あぁ、マルス殿が帰ってきて私がやる必要もなくなったからな。なに、他の仕事のあてもある」


「やめるっつっても帝国にはいるんだろ? 騎士団には非常勤で籍置いとくから、たまにこいつらの面倒見てくれや」


 どうやらもうこの場で団長と元団長の役職が入れ替わるらしい。この飲み会は、マルスの団長再就任の場になった。


「すっげぇ今更なんだけどさ。この嬢ちゃんは誰だ?」


「アロエちゃんっすか? それはあちらにいる方々の……」


「はい。騎士団の特別講師としてお招きしているテンマ殿、ミーナ殿、フィーネ殿、トワ殿です」


「はぁ〜!? 特別講師だぁ!? お前ら騎士団としての誇りはどうした!?」


 俺たち騎士が守るべき市民に鍛えられていてどうするんだとマルスは叱責する。まぁ正論だとは思う。マルスは情けない騎士団を嘆くあまりヒートアップして止まらない。


「おいドルフ! まさかおめぇまであんな若僧に教えを請うてるなんて言わねぇよな!」


「すんません団長。でもあの方たちはなんというか……別と言いますか……次元が違うと言いますか……」


「かぁぁぁ!!! お前俺との試合の時はもっと凛々しかったってのに! っ、あぁもうわかった!」


 そう言ってマルスは立ち上がると俺たちの方へとやってくる。わざと剣呑な雰囲気を出しているのは俺たちの実力を試すためだろうか。俺がそんな考察をしている間、トワは完全にマルスを無視して俺にお酌していた。もちろん気付いてやってるから完璧な挑発だ。


 ミーナはいつでも動けるように視線だけはマルスに向けながらグラスを傾け、フィーはいつの間にかナイフを手にしてフルーツの皮を剥き始めていた。君たちもなかなか剣呑な雰囲気だすねぇ。


「特別講師さんとやら。ちょいと一つ技を見してくんねぇか? あぁ安心しろ。俺は受けるだけで攻撃はしねえから。ほら、いつでもこい」


 手の甲をこちらに向けて指をくいくいと挑発してくる。どうしよう。トワは完全に無視してるし、ミーナは俺がやれと言わんばかりに俺を見てくるし、フィーはフルーツの皮剥きと思いきやまさかのフルーツカービングで絶賛芸術作品を作っている最中だった。このタイミングで何始めてくれちゃってんの? あ、つまり俺にやれってことね。まぁ今回も困った時の『銭投げ』でいっか。


「どした? ほら遠慮はいらん……」


「そうか、じゃ遠慮なく」


「べぼらっぶ!」


 銭投げが顔に直撃したマルスは受け身も取らずに5メートルほど飛んで行った。ちゃんと剛体で防御力を上げているのは確認しているので大丈夫だろう。それでも一撃で伸びてしまうほどにはダメージが入ったようだ。


「「やっぱこの人やべぇわ……」」


「優勝、テンマ殿」


 そんなことをしていたら騎士団の中で武闘会の優勝者が俺ということになった。

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