第70話 剣神の新スキル
クランハウスに帰って1ヶ月。まぁクランハウスに戻ったからといって俺たちのやることは普段と変わらない。まずは新しく加わったアロエのレベル上げを優先しそのついでに俺たちのレベル上げだ。
【剣神レベルが5に上がりました。アビリティ『パーティメンバーのダメージ+500%』、スキル『スキルメイカー(剣)』を習得しました】
あら、なんか久しぶりにアナウンスを聞いた気がする。剣神のレベルが上がってステータス欄がいつもと違うことに気がついた。
テンマ(18):レベル341
体力:2820
攻撃:3103
防御:2562
魔力:1345
器用さ:1596
精神力:1350
素早さ:2217
職業:『剣神』レベル5(MAX)
レベル342までの経験値341359
最上級職『剣神』はレベル5が上限らしい。最上級職は全部レベル5までなのだろうか。そして新しいスキル『スキルメイカー(剣)』というのも気になる。
『スキルメイカー(剣)』……剣神は剣に何を思い描くか。神域に至った者がひとたび剣を振るえばそれは新たな剣技となる。剣技スキルを創造するスキル。※現実への影響力は魔力と精神力に依存する。
よく分からないな。スキルを作るっていうのは名前から察してたけどそれ以上の情報が得られなかった。
「おいテンマ! ぼーっとしすぎだ!」
やべ、そういえば今ダンジョンの途中だった。俺が気付いた時には帝国ダンジョン62階層のボス『ケルベロス』が火・氷・闇の3属性の複合魔法を放っているところだった。
避けられない。ならばと俺は剣を振るう。あわよくば剣圧で少しでも抵抗を、と考えたのだが、それが良い方向に転がった。
【スキル『抗魔剣』を習得しました】
脳内アナウンスが流れると同時にスキルが発動する。するとケルベロスの放った魔法が跡形もなく消滅した。なんだこれは……。
「魔法が……!」
「消えた!?」
ミーナたちの目にもそのように映っていたようだ。『抗魔剣』というスキルがこの事象を引き起こしたというのは明らかだ。抗魔剣のスキル説明を読みたいが今は戦闘中なのでまたぼーっとしていたら怒られてしまう。
「ちゃっちゃと倒しちゃいましょうかね、『次元斬』」
俺の攻撃でケルベロスの上部に321592と数字が表示される。これが俺の1回の攻撃で与えたダメージなのだが、これはスライムならば3万回殺せる威力だ。一般的に5桁行けば世界最強レベルらしい。ミーナやフィーは特定条件下では6桁に到達するが、基本的には5桁を彷徨っている。
ちなみに火力の秘密はパッシブスキルだ。『パーティメンバーダメージ+500%』『剣ブースター、剣使用時ダメージ+50%』『剣マスタリー、剣使用時ダメージ+100%』『クリティカルダメージ+100%』『物理ブースター、物理攻撃時ダメージ+50%』。これだけでも合計して+800%、細かいものも合わせれば更に補正がかかって実際は1000%近くにまでなっている。
ただ流石に60階層を超えるボスモンスターはこの程度では倒れない。なんならこれでも数分はかかるので『祝福の鐘』のメンバーが数時間戦ったという理由が分かるだろう。
「アロエ、ヘルハウンドを倒してみろ」
60階層までのパワーレベリングでアロエのレベルも70を超えたのでケルベロスが召喚する取り巻きのヘルハウンドくらいならば1人でも倒せるようになってきた。まぁ俺のパーティメンバーのダメージ増加パッシブスキルのおかげという部分もあるが。ただ、たった数日前までレベル5とかだったのに肝はかなり座っていた。今もヘルハウンドを相手に物怖じすることなく戦っている。
モンスターが可哀想だとか、暴力行為なんて出来ないというような軟弱な考えはなく、ただやらなきゃやられるという意識をしっかりと持っていた。
「トワはアロエのことを見ていてくれ。ミーナ! フィー! ケルベロスを叩くぞ!」
「了解した」
「ラジャ〜」
ここから先はただの一方的な蹂躙。冥界の番犬とも呼ばれる凶悪なモンスター『ケルベロス』も俺たちの手にかかればチワワ同然だった。
ケルベロスを倒したあとにドロップしたアイテムよりも先に新しく習得したスキル『抗魔剣』について確認する。さっきのを見た感じ文字通り魔法に抵抗する剣のようだが、それがどういう力かまでは分からなかった。
『抗魔剣』……あらゆる魔法を相殺することが可能となった魔法使い殺しの剣。相殺する力は魔力と精神力に依存する。
なるほど、魔法を相殺する力。俺がケルベロスの魔法を完全に消滅させたのはつまり俺の魔力だとか精神力がケルベロスの魔法力よりも上だったということか。逆に俺の方が負けると相殺しきれずにダメージを受けてしまうというわけだな。となるとさっきのは割と危なかったということか。まぁ1回くらいなら食らっても大丈夫だろうけど。
「アロエもこの1ヶ月で随分と逞しくなったな。そういえばテンマ、気のせいかもしれないが途中からダメージが増えなかったか?」
「あ、それ私も思った。またテンマ君が何かしたの?」
「あぁ、それは剣神のレベルが5になったからだ。パーティメンバーのダメージ+500%。単純にレベル4の時より+100%だからそれでだろう」
「毎度レベルが上がるたびに思いますけど上昇量がえげつないですね」
俺もそう思う。上級職をレベル30にして貰えるのが『○○マスタリー』という+50%の補正なので+500%という数字はマジでえぐすぎる。
「ただ、残念なことに剣神はレベル5で頭打ちらしい」
青天井でレベルが上がって行くのも若干期待したが、そこまではやってくれないらしい。というわけでだ、このままだと職業経験値が勿体ない。
「そんなわけだから次の最上級職にジョブチェンジするぞ」
「え、お兄様ってそんなに色々な最上級職になれるんですか?」
「まぁレベル300というハードルさえ突破できればあとは上級職をマスターしているだけだからな」
ダンジョンの50階層をソロでクリアという関門もあるが、これに関してはレベル300まであげてなくてもなんだかんだいける。経験値2倍という恩恵がある俺が1日10時間以上のレベリングをして数ヶ月だからな。けどレベリングを目的とせずにその日生きるためだけの狩りをしている冒険者では何百年と費やさないと到達できないんだけどね。
「俺がマスターしている上級職は他に『騎士』『拳豪』『白魔道士』『黒魔道士』『高僧』……」
「ちょ、何個あるんですか」
「『占星術師』『弓術師』『魔弓術師』『バトルマスター』『吟遊詩人』『ダンサー』『マスターシーフ』『大商人』だな」
羅列したらとんでもない数だな。
「上級職ってこんなにあるんですね……」
「これでもまだ『マスタースミス』とかメジャーなところが残ってるんだからヤバいよね〜。つまり最上級職もとんでもない数があるみたいだけど」
今判明しているだけでも相当数の最上級職がある。その全てに『ダメージ+500%』のような鬼スキルがあると考えたら現状は虫ケラみたいなものでまだまだぶっ壊れるということになる。恐ろしい。
「まだ上級職でも解放条件が分からなくて『???』になってるのもあるけどな。まぁいつまでも解放できないものを待っていても仕方がないし先に最上級職を埋めていこう」
さて、最上級職をやるにしても何から上げたものか……スキルメイカー(剣)のスキルが魔力と精神力に依存しているみたいだし魔力を伸ばす意味でも純白魔道士は悪くないか。それに回復は大事だ。既にレベル1の時点で四肢欠損のような状態でも治せるけどな、これがレベル5になったらどうなってしまうのか。
「私たちも離されないように頑張らないとな」
「だね〜。いつまでもテンマ君を待たせるわけにはいかないっしょ〜」
2人ともあとはレベルを上げるだけで最上級職が解放される。2人が最上級職に転職する日はそう遠くないかもしれない。その時が来るのが非常に楽しみだ。




