第66話 選択
「この方は毎月孤児院に多額の寄付をしてくださっている方です」
「な、なにいいい!!!???」
おいコラなんだそのリアクション。誰が孤児院に寄付しない顔じゃい。
「あ、あの……お気を悪くさせてしまって申し訳ありません。ほらジョルジュさんも謝ってください!」
「お、おう。すまんかったな兄ちゃん。ほら、アロエはこの通り可愛ええやろ? せやからアロエに色目使うナンパ野郎が毎日数人はおんねん」
女性店員はどこの世界でも大変だな。ん? ちょっと待て、つまり俺は女性店員をしつこくナンパするようなキングオブゴミクソ迷惑男と思われたってことか?
「女の子のことを無意識に落とすあたりナンパよりもタチが悪いですけどね」
「俺ってみんなにどう思われてんの?」
冤罪なんだけど。むしろ俺って最初の方は気持ち悪がられてたよ?
「まぁいいや。そういえばアロエはどうして屋台をやってるんだ? 孤児院で下の子たちのお世話をしてるんじゃなかったか?」
たしか変態貴族に買われそうになっていたときもお世話出来る子がいなくなってしまうからという理由で先延ばしにさせていたはずだ。
「あの、少しでも孤児院のために働こうかと……」
「それにしてもだなぁ….」
こんな屋台で生計を立てるなんて危険が多すぎるし、何よりそれではそこまで生活の足しにならないはずだ。それに、この子が稼いだお金は孤児院のためではなく自分で貯めて欲しい。というかそのために俺が孤児院を支援しているんだから。うーん、俺が面倒を見ることも出来るけど……それを言うとこれ以上女の子を増やすなと怒られそうだ。
「テンマ、うちで面倒を見てあげるのはどうだ?」
「そうだよ〜。ほっとけないよ〜」
「え? いいの?」
なんか怒られそうとかそんなこと考えていたのが恥ずかしい。そうだよな。俺以上のお人好しがそんな困っている子供を見捨てるような真似しないか。
「というか、いつもなら真っ先にテンマ様がご提案されるのでは? おおかた、新婚のわたし達に気を遣ってのことでしょうが」
「あぁ……そういうことだったのか」
うわ、全部見透かされてる。というか、この様子を見る限りミーナも何で俺が言わないんだろうって思ってたのね。全員アロエを引き取ることに異論がないなら話は早い。
「話を聞いてて分かったとは思うけど、俺たちの中にアロエが来るのを拒む人はいない。俺たちとともに来るか、自分で選ぶといい」
「ちょお待ちぃや! そんなどこの誰かも分からんやつにアロエを任せられるわけないやろ!」
「それならお前が面倒を見ればいいだろ?」
「ワシは冒険者やからアロエのそばにはおれん……」
なんだそれ。なら他人に任せておけよ。代案も出さないくせになんだよこいつ。
「そうやっている間に割を食っているのはアロエだ。そんなことを言ってるからいつまで経ってもアロエの安全が保証されないんだろ。それとも毎日ナンパ野郎が来るのに屋台を続けさせたいのか?」
そんなのいつか大きな事件に発展してもおかしくない。付きまといや声かけ程度のストーカー被害で済めば良い方だろう。誘拐事件に発展する可能性だってあるし、仮にそうなったらスマホもないので誰も誘拐の事実に気が付かない可能性だってある。あと誘拐と気付いても日本の警察と違って捜査すらしてくれないなんてこともあるかもな。
「屋台はたしかに危険かもしれん。それなら冒険者ならどうや? 冒険者ならワシも面倒を見れる!」
「私たちも冒険者だ。同じ立場で言わせてもらうと冒険者が1番危険だと思うが?」
「アロエちゃんが腕に自信があるなら別だけどね〜」
中には善意だけで助けてくれる冒険者もいるだろうが、同じように悪意で近づいて来るやつもいる。依頼中に何かあっても自己責任で済まされるのが冒険者の世界だ。依頼で街の外に出たところを狙われるケースは珍しくない。まぁ何にせよ決めるのはアロエだ。
「あの、一つ質問してもいいですか?」
「何だ?」
「どうしてそこまで私に拘るんですか?」
拘るか。別に拘っているつもりは無かったんだけど、指摘されてみると確かにそうだ。孤児院にはアロエ以外にもたくさん子供がいるわけだが、支援を続けても孤児院を出た後までしっかりと見てやろうとは思わない。まぁそれが何でかって言われると、せっかく変態貴族に狙われていたところを助けたのにその後あっさり同じような目に遭いましたってなったら何のために助けたって話になるからだろうな。結局、俺の気持ちの問題だ。恩を着せるつもりはないが、幸せを願う権利くらいはあるはずだ。しかしそれを本人に伝えるのもなぁ。
「アロエさんはテンマ様が孤児院の支援を始めたのはいつ頃からかご存じですか?」
「え、えっと……数ヶ月前にシスターが言ってたような……」
「はい、そのきっかけは1人の少女がある貴族に見請けされるという話があったからです。孤児院に支援金を出して孤児を身請けする貴族、珍しい話ではないですよね」
トワのやつ、あんまり言うなよ。手前味噌になって嫌だからミーナやフィーにも詳しくは言ってないんだよ。ほら2人も興味津々じゃんか。
「しかしその貴族は表では人道支援をする顔を見せておきながら、その実は小さな女の子を物のように扱う悪魔のような一面を持つ男でした。それを知ったテンマ様は孤児院の支援者となり、支援者として子供は15歳になるまでは孤児院で庇護するよう新しくルールを設けたのです」
「まぁ支援してたのは俺だけじゃないけどな」
あんまりにも俺をヨイショするもんだから恥ずかしくてつい口を出してしまった。というか、俺が出来てなかった間の支援をずっとしておいてよく手柄を全部俺に渡してくるよな。
「つまりその少女というのがアロエちゃんってわけだね〜」
「ふむ……また一つ後世に伝えるべきテンマの武勇伝を知ってしまったな」
「いや伝えなくていいから」
ほんとに、余計なことはするなよ? お前らはマジでやりそうだから。俺の言葉、というかトワの言葉が刺さったのかアロエの表情は決心した者の顔になっていた。
「分かりました。私、みなさんに着いていきます」




