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第64話 デートと

1時間ほど露店を見て回っていたら人の多さに嫌気がさしてきたので俺たちはメインストリートから1本離れた劇場で一休みすることにした。劇場もほぼ満席だったが、演劇の見にくい後方の席が幸いにも空いていた。


「なんとか座れてよかったな」


「あ、あぁ……」


どういうわけかミーナはさっきから心ここに在らずといった様子だった。実はここに来る前に(かんざし)をプレゼントしたのだがそれからこの様子なのだ。うーん、チラチラ見ていたから欲しいと思ったんだけど余計なお世話だったかな? でも商品の入った袋は大事そうに持ってくれている。気に入ってくれてるならいいか。


せっかくなんで演劇を見る。プロの演劇なんて俺の人生で修学旅行のときに見た1回きりだ。内容は若い男女の恋愛をテーマにしたものだったが、魔法が当然のように組み込まれているところに異世界を感じさせられた。


気付けば演劇もいよいよ終盤に差し掛かり、隣国との戦争で男が徴兵されるシーンになった。


「なんでよ! なんであなたが戦争に行かなきゃダメなの!」


いやぁ、泣く演技も自由自在でプロは凄いな。なんならプロでも目薬を使う人だっているのに。だけどそんな小細工を使わないからこそこの演技が際立っているように思える。


「それが王国男児の使命だから……なんて、僕にそんな愛国心はないけど、僕が戦争に行くことで君を守れる可能性が1%でも増えるんだったら、僕は戦争に行くよ」


「約束して、必ず帰って来るって」


「……約束するよ」


この返事の間が本当の会話っぽい。安易に答えられないけれど空元気でも出して欲しいという男の心情が現れていた。


「だから、無事に帰れた時は僕と結婚してくれないか?」


おそらくこの演劇最大の見せ場であるプロポーズのシーンだ。受け入れてくれるならこれを受け取ってくれと男は()を差し出した。


ん? ちょっと待って!? なんか俺の知らない間にとんでもないことが起きている気がする。男の死亡フラグがビンビンだなんて考えている場合じゃないな。


簪を大事そうに受け取る女優を見て全てを察した。まさかプロポーズの時に簪を贈る習慣があったなんて……でも普段着飾らないミーナが簪に興味深々だったのちょっと違和感あったんだよなぁ。


ふと隣を見ると大事に簪を持っているミーナと目が合った……と思ったら目を逸らされた。


「なんでこのタイミングでこっちを見るんだ」


「いや、すまん」


それはめちゃくちゃ意識しちゃってるからだ。でもミーナも俺のこと見てたよな? お互い意識しまくりのまま劇が終わってしまう。ちなみに劇の最後は男が無事に帰って来てからの結婚エンドだった。


「結婚……結婚か……簪をくれたっていうことはつまりそう言うことに……」


劇のせいで意識してしまったのか隣でミーナがうわ言のように呟いている。どうしよう、そういうつもりじゃなかったなんて言えない。いや別にミーナと結婚したくないわけじゃないんだけどさ、こんな形でプロポーズをするだなんて考えてもいなかった。ミーナは喜んでくれてるけど俺の気持ちが釈然としない。また後日改めてプロポーズしよう……。



演劇を見終わった後は王都でいつも利用している宿に行くと、宿に併設されている食堂にフィーとトワがいた。


「よっす〜、デートはどうだった〜?」


「お前ら、わざとはぐれたのか」


フィーの様子を見て察したわ。まぁあんな一瞬でいなくなるなんてそれ以外無いか。しかしなんでそんなことを……。


「最近はわたしやフィーお姉様がテンマ様を独占する機会が多く、ミーナお姉様に申し訳ないと思っていたのですが、お二人の絆はその程度のことでは揺るがないご様子。ミーナお姉様、おめでとうございます」


トワの視線はミーナの頭にある簪にフォーカスしている。隠すつもりもないし、折角なので劇場から出る時に付けることにしたのだ。


「ありがとう。まぁ、フィーもトワもすぐに祝われる側に回るんだけどな」


実はミーナの提案でここに来る前に簪をもう2本買ってきている。ミーナにみんな幸せにするんだろ? と煽られて反射的に出来らあっ! と返してしまったからだ。俺はどこで男を見せようとしてるんだ。店では簪を挿したミーナが隣にいるのに簪を吟味している俺、しかも2本購入。これから2人にプロポーズするんですと言ったら店員さんは得も言えない表情をしていた。まぁやってることめちゃくちゃだもんな。多分クズ野郎だと思われてる。俺もまさか1度に3人にプロポーズするなんて思ってなかったよ。


「何があってもみんなのことを幸せにすると誓うよ。だから受け取ってくれ」

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