第63話 真贋鑑定
ダンジョンから離脱した俺たちは夜ご飯を食べながら今後の方針についての話し合いをすることにした。まず議題に上がったのは当然というべきか70階層のことだった。
「70階層はどうなさるおつもりですか?」
「あれはやめておこう。別に俺たちはダンジョンを制覇したいわけじゃないんだし」
あんなんはやりたいやつにやらせておけばいいんだよ。最上級職という向こうが提示している最低ラインを満たしているとは言え、それはあくまで最低ラインだ。安全マージンを考えたら少なくとも全員が最上級職を解放するまでは挑戦しなくて良いだろう。
「けどさ、ダンジョンのモンスターがわざわざ警告してくれるのって何でだろうね」
「さぁな。けどもしかするとダンジョンを攻略させるためなのかもな」
俺が思ったのは69階層までと70階層の違いだ。前者は上級職が6人いればクリアできる範疇だが、後者は最上級職であることを要求されている。それを知らずに特攻したら全員70階層でお陀仏だろう。それを教えてくれるのは攻略前提で造られているからではないだろうか。
「ダンジョンを攻略させるため……ですか?」
「情報を与えてくれるのがなんでかなって思って」
「あぁ、たしかに変だな……」
ここでは警告という形で最上級職の存在を示唆してくれているわけだ。俺は順序が逆になったが、70階層の初挑戦時に最上級職の手がかりを入手し、50階層をソロで攻略することで最上級職の解放条件を満たす、転職条件であるレベル300を達成してようやく最上級職、つまり神の領域とやらに足を踏み入れることになる。
きっと最上級職の手がかりというのは他のダンジョンや帝国の南の山脈のような未踏破領域と呼ばれるようなエリアにもあるのだろう。祝福の鐘のリーダーがダンジョンという世界の謎を解明するのがうんたらかんたらと講釈を垂れていたが、ある意味では世界の謎に迫れていると言えるかもしれない。
「ま、俺たちには関係ないけどな」
最上級職の解放条件? 自分で頑張って見つけろ! 俺は俺のことを慕ってくれるやつ以外の利益になることをするつもりはない。なので祝福の鐘の一行にはダンジョン攻略を頑張って70階層に到達して最上級職の手がかりを貰って……まぁとにかく頑張って欲しい。
「とりあえずトワのお父さんのことも気になるし一度王都に戻るか」
1週間で何が分かるんだって話だけどさ、一応経過とか聞いた方がいいじゃん? まぁ調子が悪かったとしても俺に出来るのはエクスヒールくらいなんだけどさ。
そういうわけで俺たちは再び王都へ向かうことにした。
道中は目立ったイベントも発生せず、のんびりと馬車を運転している時間が続いた。このまま何もなく王都に到着するかな、と思っていたらイベントが発生したのは王都近郊までやってきた時だった。
「え、なにこれ?」
目の前にはずらっと並ぶ馬車、馬車、馬車。馬車が渋滞していて全く進まない。
「あの馬車は……アーク商会のロゴですね。あれはアート商会、あっちはアネモネ商会」
いや、アから始まる商会多すぎだろ。引越し業者か。
「てことはこれほとんどが商人ってこと!?」
「そうなりますね」
マジか、少なくとも1週間前はこんなんじゃなかったぞ? 商人がこんだけ来るってことはそれだけ経済が活発になってるってことだよな?
王都民が集う1番大きな広場。衛兵が目を光らせていた時期なんかは閑散としていたが、今日は馬車も人もひっきりなしに往来している。
「凄い活気だな……」
「あぁ、これが本来の王都の姿というわけか」
俺が初めて王都を訪れた時もここまでの活気は無かった。その時はトワパパは病床に臥していたからな。トワパパが本来の政治力を発揮させたらこんなに活性化するのか。一時的なものにしても凄いな。
「これははぐれたら簡単に見つけられないぞ」
「うむ、そうだな。先にはぐれてしまった場合の合流地点を決めておかないか?」
「子供でもないんだし、夕方くらいにいつもの宿で集合でいいだろ」
「まぁそれもそうか」
「フィーとトワもそれでいいよな?」
…………。
同意を求めたところまさかの返事が返ってこない。あれ? 2人ともどこ行った? もしかしてもうはぐれた!?
「まぁ大丈夫か」
さっきも言ったけど子供じゃあるまいし。それに何か事件が起きてもあの2人ならば心配ない。
「ん? 探さなくていいのか?」
「いいだろ。それよりせっかくだし露店とか見て回ろうぜ」
こんなに店があるんだから1つか2つくらいは気に入ったものが見つかるだろう。帝国のクランハウスで留守番してくれているココにも何かお土産を買ってやらないとな。
2人で王都の大通りを散策する。露店の商品は玉石混交。骨董品なんかは特に贋作が多いが、これがなんと鑑定を使えば本物かどうか完璧に判断出来る。商人の商売が成立しないだろと思ったけど、これは『異世界人』である俺の『鑑定』が特別みたいだ。自分の次のレベルまでの必要経験値が分かるのもこの特別な鑑定の効果だ。
「ん? テンマ……そんな壺なんかじっくり見てどうしたんだ?」
しかし真贋鑑定ができるからと言ってそれが何になるんだろうか。流石にこれが本物だとしても壺の良さなんて分からない。ミーナは俺が急に骨董品にハマったと思ったのかと疑問に思ってるだろうな。と思ったら見よう見まねで茶器みたいなのを色々な角度から観察し始めた。ちなみにそれは偽物だ。
「むぅ……ゎゕㇻ…ぃ」
なんか凄いちっちゃい声で分からないって聞こえてきた。あ、無言で元に戻した。というかなんで俺はミーナと2人きりなのに骨董品なんか見てるんだろ。
「行こうか」
「ん? 壺はいいのか?」
いや、いらんでしょ……。




