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第58話 祝福の鐘

一夜明けてフィーの調子は元通り、いやむしろ前よりも元気になっているようにも見える。その証拠に今朝は寝起きどっきりを仕掛けてきた。


「おはよ」


「フィー……なんで俺の部屋にいるんだ?」


しかも添い寝している。あれ、昨日は一緒に寝たんだっけか? でも部屋の前でおやすみって言ってお互い自分の部屋に戻った記憶があるぞ。ダメだ、寝起きで上手く頭が働いていないな。


「ん? 目が覚めちゃったから一緒に寝ようかなって」


つまりフィーはどこかのタイミングで俺の部屋に忍び込んできたということか。というか鍵かけてたはずなんだけどな。なんかどんどんフィーの鍵開けが上手くなってるな。


「もう鍵の意味ないな……」


「マスターシーフ歴は長かったからね〜」


なるほど、解錠スキルの熟練度がとんでもないことになっていそうだ。それに隠密の腕もかなり上がってるな。隠密レベル3というスキルレベルの話ではなく、本人の隠密技術の話だ。隠密を使用しているからといって騒いだらバレてしまうように、逆に見つからないように注意すればより見つかりにくくなる。フィーが本気でやれば俺が気配を察知できないレベルにはなるというわけだ。


「何してるんだ?」


「もう気配を消さなくてもいいからね〜」


さっきまでただ隣にいるだけだったフィーが大胆にも俺の胸に頭を埋めてくる。足も手も絡めてきて密着度がすごい。というかなんでこんないい匂いがするんだ? 昨日同じように風呂に入って同じ物を使ったよな? 不思議でしかない。


「んふ〜。いい匂い〜」


「嗅ぐな嗅ぐな。俺の匂いなんて何が良いんだよ」


なんか恥ずかしい。別段何もしてないからいい匂いなんてするわけないし。仮に何らかの匂いがするなら寝汗とかだから是非とも密着するのをやめていただきたい。


「うーん、なんかどんな匂いって表現するのは難しいんだけど……本能に訴えてくるというか、これがオスの匂いってやつなのかな?」


オスのにおいって、なんか臭そうだな。けどこの手の話はどこの世界でもあるのかもしれないな。その人の体臭をいい匂いと感じたら相性が良いとか、そういう話を聞いたことがある。


「でもフィーもいい匂いだぞ?」


「にゃぁぁぁ!!! 匂い嗅いじゃだめえぇぇぇ!!!」


え? 俺はダメなの? フィーは俺から逃げるようにサッと下まで潜り込んだかと思うと俺の服の中に頭を侵入させてきた。


「おい、どこに頭突っ込んでるんだ」


「女の子の匂いを嗅ぐなんて変態!」


おいちょっと待て! 俺は嗅がれたから嗅いだだけだろ。なんで俺だけ変態なんだ。


「そんなところに入ってないで出てこい」


「いや〜! ここに住む〜!」


馬鹿だ。けどそれを可愛いと思ってしまう俺はもっと馬鹿だ。そんなわけで思いっきり愛でることにした。



存分にイチャイチャしたところフィーは満足したのか俺の服の中から出てきた。心なしか艶々しているように見える。俺としてはこのままお昼まで砂糖を煮詰めたような甘すぎる時間を過ごしても良かったのだが、満足してしまったのなら仕方がない。


「今日はどうする?」


買い物に行くも良し、遊びに行くも良し、美味しい物を食べるも良し、今日はフィーのやりたいことをなんでも付き合うつもりでいたのだが……。


「ダンジョンいこ? こんなぐーたらしててトワに追い抜かれちゃったらお姉ちゃんとしての面目が立たないからね」


デートに誘われる気でいた俺、完全に自惚れてましたわ。いやもうダンジョンに行けるくらい元気なら良いんだけどね。


「あれ? もしかしてデートのお誘いだった?」


「そこは気付いても気付かないフリをしてくれ」


そんなつもりは無かったけど、「俺とデートしたいだろ?」って自意識過剰な発言に見えなくもないな。痛すぎるぞ俺。


「ダンジョンまでは乗り合いの馬車じゃなくて2人きりで行こうね」


あぁ……優しさが沁みる。こんなん好きになるに決まってるよな。それとも俺がチョロいだけか? もうちょろくていいや。


俺たちは昼食を食べてからのんびりとダンジョンに向かうことにした。無理をすればお昼出発深夜到着も出来なくはないがそこまでして急いで行く必要はない。途中の村で一泊してなんだかんだ移動という名のお泊まりデートになった。


「久しぶりに来たけどこっちのダンジョンは相変わらず繁盛してるな」


「じゃあ私は50階層に行ってくるね」


「あ、はい」


フィーは最上級職を解放するために50階層を突破してくると俺のことを放置して行ってしまわれた。俺はどうしようかな。1人でダンジョンに行くのもアレだしとりあえずミーナとトワを探すか。


そんなことを考えていると62階層突破のニュースが飛び込んできた。これは現時点での攻略の最深層を更新したという快挙だそうだ。ミーナとトワが派手にやっているのかと思ったが、ミーナは50階層のはずだ。60階層まで1日で踏破できるとは思えない。


「『祝福の鐘』だ!」


誰かと思ったが王国で最強と名高い『祝福の鐘』の面々が攻略したそうだ。攻略を終えたメンバーが続々とダンジョンから出てくる。疲労困憊だけれどもどこか達成感に溢れた表情をしていた。


「ふぅ〜、流石にしんどかったな〜」


「そうね。でも2ヶ月で攻略だからいいペースじゃない?」


「60階層は半年かかりましたもんね。次もこのくらいでいけるといいんですが……」


「……けど、ラナの回復が間に合わない場面が増えてきたぜ」


「すまん、それは俺が捌き切れてないせいだ」


「おいおい! それを言ったらお前と同じ騎士の俺のせいでもあるだろ?」


「いえ! おふたりはとても頑張ってます! 私の回復量が足りないせいです!」


俺はいったい何を見せられてるんだろうな。いい大人が高校生の部活のノリをしているのがゾワゾワする。こんな茶番じゃなくてもっと実力の一端とか見たかったんだけど。まぁメンバーの構成が見れただけでもいいか。あれ、そういえばミーナのオークションの時に見た男がいないな。あの男がリーダーだと思ったんだが……。


「来た! 勇者様よ!」


俺が疑問に思ってると、黄色い歓声が上がった。はて、勇者? この世界にそんなシステムあったのか? というか女性陣が凄いな。ただでさえ少ない女冒険者がアイドルの登場シーンさながらの熱狂っぷりだ。そんなん飢えた男連中が許さないだろと思ったら何故か男たちも「あいつはしょうがねぇ」みたいな生ぬるいことを言っていた。


「勇者様ねぇ……」


一体どんなやつなんだと思ったらオークションで見た男だった。


「ラナは十分良くやってくれている。もちろん、シュルドもゼタもライガもレンもだ。僕たちの誰かが欠けたら62階層の突破は出来なかった。それはこの先もそうだ。けど、僕たち6人ならどこにだっていける!」


「だな」

「えぇ!」

「はい!」

「あぁ……」

「うん!」


だめだ、鳥肌が……変な声が出そうになった。周りの連中が「ダンジョンの謎を解明出来るのはお前らだけだ!」って応援してるのも拍車をかけた。こいつら冒険者のプライドはどうした? なんかすっげぇモヤモヤする。俺の器が小さいだけか?


「フィー、早く戻ってきてくれ……」


50階層は41階層から順々に進む必要があるので少なくとも1時間近くかかる。俺はこの空気に耐えられそうもない。


「俺もダンジョン行くか……」


なので俺はたった今攻略されたばかりの62階層に挑戦することにした。

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