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第59話 『紅翼』と『六道』

 俺の前に体長6メートルほどのトカゲなのかサンショウウオなのかよく分からないモンスターが横たわっている。そのモンスターこそ62階層の門番だ。


「まだまだ1人でも余裕だな」


 20分弱で62階層を攻略できた。モンスターからのダメージも自分でヒールを使って間に合う程度には抑えられているので安全マージンも十分だ。これなら63階層もいけるだろう。


 ボスモンスターを倒したことで現れた帰還のポータルからダンジョンの入り口に戻る。誰も俺が62階層から帰ってきているなんて思わないだろうな。ダンジョン前の広場では祝福の鐘62階層突破記念なるイベントが開催されていた。広場にいる全員がジョッキを持って食えや飲めやと大騒ぎしている。


「お、そこの兄ちゃん! ダンジョン帰りか? 今日の飲み代は祝福の鐘の奢りだぜ!」


 一体どういうイベントだと困惑していたら祝福の鐘の騎士らしき男に声をかけられた。なんでも飲み代を祝福の鐘が奢ってくれるらしい。1日にどのくらいの人がダンジョンにいるかは不明だが、数百万ゴールドはかかっているだろうな。まぁ奢りというのならありがたく頂戴しておこう。


 ビールなどのアルコールを飲んでいる者が多数だが、俺はジュースを貰った。祝福の鐘が男女問わず支持されるのはこういう地道なポイント稼ぎがあるんだなぁとか考えながらちびちびと飲む。


「よし! 今から祝福の鐘は41階層から50階層に行く。道中で苦戦してボスまでたどり着けないパーティは僕たちのパーティを参考にしてみて欲しい。最短ルートのマッピングだけして転移結晶で帰るのもOKだ」


 祝福の鐘のリーダーが41階層から50階層の最短ルートをタダで教えるという提案をしだした。ボスモンスターに挑戦できる人数は6人という制限があるが、道中に関してはその限りではない。それにボスモンスターまでの最短ルートなんて持っていない人からすれば喉から手が出るほどの情報だ。それを無償で差し出すなんて祝福の鐘はお人好し団体なのだろうか。


「41階層かぁ〜……俺たちはまだ挑戦できねぇなぁ」


「また63階層を突破した時にもやるから、焦らないで頑張ってほしい。今日は41階層からだけど、今度はまだ到達してない人たちのために31階層から40階層、需要があれば21階層から30階層も順次やっていくよ」


 サービス精神が凄いな。そりゃ名声も高まるだろう。名を取るか実を取るかみたいな問答をしたら間違いなく名を取るタイプだ。ってそんなことを考えている場合じゃないな。


 祝福の鐘のメンバーが41階層に移動していく。41階層まで開放されている冒険者もそれに続いて入っていった。まずいな、まだフィーが中にいる。30分ほど前に中に入っているが、もしかすると追いつかれる可能性がある。


 中に入ったらその可能性が現実味を帯びてきた。41階層、42階層と目立った戦闘もなく43階層に突入する。


「ちょっとモンスターが少ねえ気がするな」


 おそらくフィーは経験値のためと道中の雑魚モンスターを無視せずに倒している。それどころか1日サボっちゃったからと念入りに狩っているんだろう。普段おちゃらけているけどこういう誰も見てないところで真面目なんだ。まぁそういうところも好きなんだけど。


「先行しているグループがいるみたいね」


「あぁ……それも最短ルートを迷わず突き進んでいる……」


「うーん、『紅翼』や『六道』のメンバーは今日は休みって聞いてたんだけど……まぁこればっかりは仕方がないね。みんな申し訳ない! 今回は最短ルートのマッピングだけになりそうだ!」


 祝福の鐘以外には3グループほどが同行している。最短ルートのマッピングが終わっていないのか「いや全然大丈夫です!」とむしろ恐縮していた。


 特に目立った戦闘もないまま47階層目、遠くから戦闘音が聞こえてきた。まだ俺しか知覚できていないみたいだが、最短ルートのモンスターを1人で狩りながら先行しているフィーと、大人数でたまたま出てきたモンスターを鎧袖一触で突き進む集団。距離が縮まっていくのは当然だった。


 48階層で祝福の鐘の斥候職のような男が気付いた。


「戦闘音が聞こえるな……」


 同行しているグループのマスターシーフが「すげぇ……」と落ち込み半分尊敬半分のような感想を漏らしていた。精進しろよ。


「でも気になるね。『紅翼』でも『六道』でもないなんて」


「うん、普段50階層に潜っている人ってそんなにいないはずだから……もしかすると僕たちの計画に乗ってくれるかもしれない」


 戦闘音はどんどん近づいてくる。祝福の鐘のメンバーは全員気付いたみたいだ。かなり近くまで来ている。しかし48階層でフィーと出会うことはなかった。そして49階層に突入したところで異変が起きた。


「ん? モンスター?」


 目の前には3体のサイクロプス。最短ルートに複数体のモンスターが出てきたのは初めてだった。しかも、49階層のどこからも戦闘音はしていない。


「転移結晶で離脱したのか……? しかし何故……」


 何が起こっていると困惑しつつも『祝福の鐘』の面々が戦闘を開始した。戦い方を教授するということもあって非常に安定している。タンクを担う騎士が2人というのもその安定感に繋がっているみたいだ。まあ所詮20階層のボスモンスター程度なのでそもそも作戦なんて必要ないんだけど。


「やべぇな、サイクロプス3体ってこんな鮮やかに倒せるのか……」


「40階層のライトニングタイガーを倒して俺たち結構強くなったと思ったけど、やっぱり装備頼りじゃダメなんだな」


 あれぇ……そうでもないみたいだ。ライトニングタイガーを倒せる人達なら余裕だと思うんだけど……装備の力に頼ってたのか。そう思ったらたしかに全員が全身ライトニングタイガー装備だ。雷属性耐性を万全に整えた上で挑んだということなんだろう。見れば、他のグループもライトニングタイガー装備でどこかばつが悪そうにしていた。


「ちょっと前にライトニングタイガーの素材が大量納品されて安くなったもんな。正直、あれが誰だったのかも気になるぜ」


「『紅翼』や『六道』でもないって言ってたね」


 ライトニングタイガーの装備の価格が暴落したのは他でもない俺のせいだ。あの時は市場価格を変動させるほど納品して受付の人に迷惑をかけてしまった。ライトニングタイガーで生計を立ててた他のパーティは知らん、金の稼ぎ方が悪いんだよ。



 あと『紅翼』と『六道』って誰ぇ!?

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