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第55話 とりあえずヒール

 俺とトワが城の中を歩いていると未だに外から爆発音が聞こえてくる。どうやらミーナとフィーはまだ見つかっていないみたいだ。


「あいつらも上手くやるなぁ」


「この攻撃で単独犯ですからね。しかもほぼ無音であの威力ですよ。座標を特定するだけでも一苦労だと思いますよ」


 おそらくこんな攻撃なのだから大人数いるだろう、とか、城を破壊するなんて何らかの兵器を用いているに違いない、といった確証バイアスが兵士たちの捜査を撹乱しているのだろう。それに近くまで特定できたとしても2人はささっと場所を変えることが出来る。人海戦術で見つかるのは時間の問題かと思ったが、指揮系統が取れていないようだったのでその辺りに穴があるみたいだ。


 まぁそのおかげで俺たちは城内を楽に移動できるんだけどね。


「ここです」


 あれから誰にも遭遇せずに王様の部屋に辿り着く。この騒ぎの中で王の部屋の前に警備の者が誰もいないってマジか。それだけ見限られているということか。トワは鍵を開けるやいなや遠慮もなしに扉を開ける。


 部屋はほんのりと照明がついていた。驚いたことに部屋の広さが9畳程度しかなく、その弱々しい光でもある程度の内装が把握できた。本棚に机にベッドと必要最低限のものしか置いていない殺風景な部屋で、とてもじゃないが一国の王の生活空間とは思えなかった。


「まさか私に会いに来る物好きがいるとは」


 トワパパはシンプルなデザインのベッドにいた。おそらくは病気のせいだろう、年齢とは不相応にやつれてはいたがどことなくトワに似ている空気を感じたのでこの男がトワの父親なんだということにはスッと納得がいった。


「寝室に侵入してきたテロリストを相手に悠長すぎやしませんか? お父様」


「今の私の身柄には何の価値もないんだ。悠長にもなるというものだ」


 なんか、この親にしてこの子ありって感じだな。現実主義というか、それが自虐的であってもズバッと言ってしまうところがそっくりだ。俺が感心しているとトワパパと目があった。感動の再会の場面で誰やねんお前ってことですよね分かります。


「間違いだったらごめんよ。君がトワイライトを助けてくれた怪盗君でいいのかい? 病になってから情報に疎くてね……」


「まぁ、その通りです。本業は冒険者なのでトワにも盗みなんてさせてませんよ」


「あぁすまない。そんな心配はしていないよ。ただ、よく私の娘をここまで手懐けたものだと感心していたんだ。一体誰に似たのか気難しい性格をしているだろ?」


「むぅ……そんなことは自分でも分かっています」


 ほんとに一体誰に似たんだろうなぁ。多分あなただと思うんですけど。


「内向的で皮肉屋でおまけに愛想もない……が、それでも私の可愛い娘だ。幸せそうで安心したよ」


「……テンマ様のおかげです」


 うーん、落として上げるタイプ。トワも本家皮肉屋には敵わないみたいだ。


「それでお父様、本題なのですが」


「ん? 結婚の報告が本題じゃなかったのかい?」


「いえ、それよりも大事なことです」


「ほう……」


 俺たちがここに来たのは世間話をするためではない。トワの父親が抱えている病を治療する。おそらくこの世界でそれが出来るのは俺だけだ。この男ならばことの重要性をすぐに理解するだろう。


「親としては順序は守って欲しいという気持ちはあったが、それはおめでとうで良いのかな?」


「ん? 何の話ですか?」


「ん? 子供の話でもないのかい?」


「違いますよ!」


 この男、これでも稀代の賢王だなんて言われていたはずなのだが……。もしかしてトワのことになるとポンコツになる親バカか? 初孫だと思ったのに(´・ω・`)とどことなく残念そうに見えた。


「今日俺たちがここに来たのは国王陛下の病気を治すためですよ」


 俺の言葉にトワパパは父の顔から王の顔になる。何の実績もない、ただ娘が連れてきただけの男の言葉を手放しに信じるほど甘くはないみたいだ。


「宮廷医が匙を投げる不治の病をか? ちょっと医術を齧ったくらいで治せるようなものではないんだよ」


「いや、治せる。『エクスヒール』」


 ごちゃごちゃ言わずに試してみろと問答無用の辻斬りならぬ辻ヒール。不敬罪は勘弁な。血流が良くなったからか明らかに顔色が良くなったので上手くいっているだろう。俺、失敗しないんで。まぁスキルだから失敗のしようがないんだけどさ。


「なんだこれは……痛みが引いていく」


 トワパパからしたら本当に病気が治っているかどうかなんて分からない。けれども長年悩まされていた痛みが引いたというだけで喜色満面だった。


「ありがとうございます。テンマ様」


「このくらいのことで大袈裟だよ」


 ほんとに知識も技術も必要ないからな。


「いや、大したものだ……。強い鎮痛剤でも効かなかったというのにそれを一瞬で……。すまなかった。君がそれほどまでの治癒術の使い手だとは思わなかった。先ほどの侮った発言を謝罪する。それと、何か望みがあれば言ってくれたまえ。可能な限りそれを叶えよう」


 王様を助けたらどのくらいのとこまで要求できるんだろうな。まぁ俺は別にそんなつもりはないんだけど。


「俺があなたを助けたのは、あなたにはまだまだ馬車馬のように働いてもらう必要があったからだ。ところで、この国の現状はどのくらい把握出来ていますか?」


「残念ながらほとんど知らないんだ。政務はユリウスとヴォルフガングがやっていたみたいだが……まぁあの2人は重役の諫言も聞かんだろうから国は衰退していくだろうな」


 これ自分の息子が役立たずって言ってるようなもんだよな……そう考えるとひどい言いようだ。


「君たちの表情を見る限り私の予想は間違っていないみたいだね。まずは弱った国力を回復するところから始めなければな。なるほど、たしかに馬車馬のように働く必要がありそうだ」


 ふと思ったけど不治の病で臥していた王様がバリバリ元気に働いてたらどうなるんだろうな。とりあえず明日王城が大パニックになるのは間違いないな。トワの指名手配も解除されるだろうし、しばらくは王都でトワパパの手腕でも見物させてもらおうかな。

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