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第40話 コミュ力お化け

「な、なんか思ってたのと違います……」


 スライムを狩り続けて5時間くらいが経ち、日が暮れてきたところでトワからこんな声が上がった。どうやらお姫様はスライムを徹底して倒すこのレベル上げがご不満のようだ。


「でもトワは戦うのは初めてだろ?」


「それはそうですけど……」


 初めはレベルアップを喜んでいたトワだったが、2時間もしたころにはこんなのでレベルが上がっていいのかと複雑な表情をしていた。

 まぁ確かにレベル的にはウルフだって安全に倒せるようになっている。このままスライムだけを倒していても効率が悪い。


「じゃあ、ウルフ試してみるか?」


 少しでも攻撃力の足しにするために今では全く使わなくなった剣を手渡す。初めて持つ武器の感触に本格的な実戦の匂いを感じたのか、その表情には多少の緊張の色が見られた。危なそうならすぐに助けに入らないとな。


 単独のウルフには簡単に遭遇できた。本来なら周囲の索敵を含め自分の力でそれが単独であるということを判断しなければならないが、そこまで求めるのは酷というものだろう。


「1人でやってみろ」


「はい……!」


 トワは緊張した面持ちでウルフの正面に立つ。やってやるという意気込みはあったが、その意気込みも真っ向から敵意を向けられると萎縮した。


「いけるか?」


「大丈夫です……!」


 肩に力が入りすぎている、が萎縮しているよりはマシだろう。ウルフはそんなトワの状態なんてお構いなしに飛びかかってきた。


「……えいっ!」


 ウルフの攻撃は上手く避けれたが、剣を振る反撃のタイミングが遅くすでにウルフが通過した後だった。まぁ避けれただけでも上等か。そう思っていたところ、ウルフは再度トワに襲いかかる。


「ふっ……!」


「えっ!?」


 今度はギリギリでウルフの攻撃をかわしたと思ったら剣を横薙ぎにしてウルフの身体を完璧に捉えた。いや、捉えたというかウルフが自分から飛び込んで行ったというか、紛れもなくウルフの動きを完全に見切ったうえでのカウンターだった。しかも一撃で絶命している。


「どうですか?」


 これを狙ってやったんだとしたら認めざるをえない。しかしあの最初の空振りはなんだったんだ?


「急に動きが見違えたな」


「はい、『看破』スキルの使い方が分かりました」


「看破……?」


 たしか隠密を発動した俺を発見したのも確かそのスキルだったよな。戦闘にも使えるスキルなのか?


「相手がこう来るかもって、一瞬ですけれどイメージで感じ取れたんです」


 なんだそれは……。流石は上級職のスキルといったところか。星占術師も馬鹿にできないな。スキルの使い方が分からなくて初撃はあんな感じになったのか。けどこれをうまく使えるならウルフ程度の戦闘は全く問題ないだろう。


「分かった。次からウルフもどんどん狩っていこう」


「ほ、ほんとですか!?」


 まぁその方がレベル上げの効率もいいから俺も楽できる。んー、しかしトワはどういう戦い方が向いてるだろうな。とりあえず防御力を上げるために戦士をあげるのと剛体スキルのスライムリングは必須か。俺たちのパーティは全員前衛というかアタッカー揃いになってしまったから支援職がいるといいかもしれない。占い師のレベルアップボーナスで精神力に振られていて幾ばくか状態異常耐性が高いのも支援職と相性がいい。となるとサポート職か……? 


 だが一つ問題が生じている。上級職への転職方法についてだ。現状上級職に転職をしようと思ったら王都のメルカルトル神殿に行くしかない。俺1人ならどうとでもなるが、トワを連れては少しリスクがある。まぁ王都に固執しなくても大きい街に行けば神殿があるだろう。それならそんなリスクを負う必要性はない。


「本格的に拠点を変えるときかもな」


 となると王都の孤児院の支援とかどうすっかなぁ……。銀行みたいに定期的に振り込めるシステムとかあればいいのに。ギルドに頼めばやってくれるだろうか。最悪コロコさんを拝み倒そう。なんとかなる気がしてきた。


「そろそろ町に着く。休憩できるぞ。」


「ほっ……それは助かります。実は結構限界だったんです」


 まぁそうだろうな。小まめに休憩を挟んでいるとはいえなんだかんだ5時間以上歩いている。箱入り娘には大変な運動だろう。


「でも追手は大丈夫でしょうか……近くの町は真っ先に探しに来ると思いますし……」


 もちろん俺たちとは別のルートで町に先行されている可能性はある。しかしそれでも大丈夫だ。


「見えてきたな」


 王都に隣接している町というだけあってそこそこの規模があるのか、町を守る城壁も立派な物だった。


「これが外の町なんですね……すみません。わたし、王都以外は初めてで」


 トワの様子は追手がいるかもしれないという不安半分、外の町に来たという楽しみが半分といったところか、けど楽しみにしてたならごめんだわ。俺は町に入るつもりはない。俺たちが門を目視出来るくらいの距離になると、町の外に停留していた馬車が動き出し俺たちに向かって来た。


「まさか、もうわたしたちの存在が露呈したんですか!?」


「いや、あれは大丈夫だ」


 その馬車の御者を見れば分かる。予め先行させておいたミーナ達だ。


「本来であれば王女様を助け出したことに驚愕し賞賛の言葉を送るところなんだろうが……お前が相手だとそれも白々しくなるな……」


「でもちょっと遅かったんじゃないの〜? もちろんしくじるなんて思ってなかったけどさ〜。迷子になったのかと思ったよ〜」


 たしかに予定の時間を決めていたわけではないが、ゆっくり来た分遅かったかもしれない。もっと早く来れるはずなのにと信頼してくれているのは嬉しいけど、迷子の可能性が出るのは心外なんだが?


「すまん。ちょっとトワのレベル上げをしていた」


「追われている身でそんな余裕があるとは……」


「もう流石としか言いようがないよね」


 なぜ俺は呆れられているのだろうか。レベル上げは大事だろ。


「あの……こちらの方々はテンマ様のお仲間でしょうか?」


「ああ。ミーナとフィーネだ。2人には先行して逃げる準備をしてもらっていたんだ」


「どもども〜。テンマ君の女のフィーネで〜す。フィーって呼んでね」


 ちょーい! 初対面の、それもお姫様相手にいきなり何言ってんだ。絡み辛い奴だと思われても知らんぞ。


「ミーナだ。すまんなトワイライト様。王族への礼儀や言葉遣いがなっていないのは大目に見てくれ」


「テンマ様のお仲間の方がわたしに敬称なんてとんでもありません。トワと気軽に呼んでいただけませんか?」


「うむ。ではトワ。分からないこととかあれば気軽に聞いてくれ」


「ふふっ、なんだか姉が出来たみたいですね」


 まぁミーナもフィーも悪いやつじゃないからな。相手が王女様でも露骨に態度を変えないし、なんだかんだで面倒見が良い。これなら仲良く出来そうだ。


「では、早速質問をよろしいですか?」


「ん? なんだ?」


「ミーナお姉様もテンマ様の女なのですか?」


 おいコラ、目をキラキラさせて何を言ってるんだ。ミーナもチラチラとこっちを見るな。


「そ、そうだ」


「まぁ! つまりテンマ様は複数の女性と関係を持っているというわけですね!」


 あんまりそういう言い方をされると悪いことをしている気になるからやめていただきたい。


「幻滅したか?」


「とんでもございません。むしろ安心しました。それなら1人くらい増えても問題ないですよね?」


 ん? それってつまり……?


「まぁ、こうなるんじゃないかとは思っていた」


「テンマ君だしね〜。パーティメンバーが増えて賑やかになるのはいいけど、可愛がって貰える時間が減っちゃうな〜……ってミーナが言ってた」


「……おいフィー捏造するな」


 すまん、そんな漫才されてもツッコミにくいわ。あと可愛がるって言い方やめろ? トワも反応に困るだろ。


「ミーナお姉様もフィーお姉様もご安心ください。わたしはテンマ様とお姉様方の時間を奪うつもりはありません。ただ、もしお姉様方がお許しになるなら、少しでもテンマ様とのお時間とお情けを頂ければわたしはそれで満足です」


「そんな卑屈になるな。奪われるだなんて思ってないさ。それに、可愛い妹分に我慢させる姉なんてみっともないだろ?」


「そうそう。それにテンマ君は凄いからね〜。私たちふたりがかりでも全然余裕そうだし……むしろトワが来てくれてテンマ君を分からせる算段が出来たというか? そういう楽しみが増えたよね〜」


「テンマ様はそんなに凄いのですか!?」


 あれぇトワさん? あなたこういう話題に抵抗とかないの? というかもう2人に気に入られてるんだけど、この対人お化けめ。


 まぁ何はともあれ仲良く出来るならいいか。

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