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第39話 救出劇2

 俺はこの役を演じるために仮面を購入しておいた。怪盗エースというのはこの世界で昔から語り継がれている大泥棒の名前で、なんでも私服を肥やした貴族しか狙わず、盗んだ財を庶民に還元するという正義の悪党だ。もっとも語り継がれていくうちに尾鰭がつき、もはやどれが本当のエピソードかも分からないし、なんなら本当に実在した人物かどうかも定かではないのだという。しかし芝居や劇にもなっているため誰でも知っているんだそうだ。


「怪盗エースだとぉ!? 貴様ふざけた真似を! 素顔を見せろ!」


 なのでそんな名を名乗るような奴に対してはこういう反応が返ってくる。まぁおちょくられているようにしか思えないわな。


「はっはっは! そんなに見たければ私の仮面を剥いでみることだな」


 俺は兵士を盛大に煽る。俺はそういう目立つようなことをせずに密かに任務を遂行したいタイプなのだが、どうやら怪盗エースというのはそういうキャラらしい。やりたくてやっているわけではない。


「いいぞ! 怪盗エース!」

「エース! エース!」


 さっきまでどんよりとした空気だったはずの広場が一気にエースコールの熱気に包まれる。まるでコンサート会場だな。


「怪盗、エース……?」


 腕の中で呆気に取られていたトワもようやく事態を把握したみたいだ。


「どうしてこのようなことを……もし捕まったら貴方も殺されてしまいますよ?」


「なら逃げるしかないな。お姫様、喋ってると舌を噛むぞ」


「この包囲の中を一体どうやって……!」


 状況が状況だからかトワはお姫様抱っこをすんなりと受け入れる。俺みたいな訳わからずな男に拉致されるのをすんなり受け入れるのもどうかと思うけどね。街の連中も俺を応援してくれてるけどそれでいいのか? まぁこんな日常からかけ離れた出来事の連続でそういう常識的な思考回路が麻痺してしまったのかもしれないな。


「じゃあ行くぞ」


 そんなことを考えつつヘイストを使用して素早さのステータスを更に上げる。人1人を抱えていても俺の方が3倍は速い。これなら包囲なんてないようなものだ。


「凄い……」


 高いフェンスも大きくジャンプして悠々と飛び超える。兵士はそれを超えられない。暴走した市民がなだれ込まないよう設置したはずの障害に阻まれているんだから皮肉な話だ。その様子を見て俺たちが逃げ切ったと判断したのか、広場からはちきれんばかりの大歓声が上がった。


 王都から脱出して街道をひた走る。未だ腕の中にいるトワは生き永らえたことへの安堵ではなく、どこか楽しそうな表情を浮かべていた。


「随分と嬉しそうだな。どうかしたか?」


「ふふっ、すみません。まさか私に心が躍るなんて感情が残っているとは思ってもいなかったものですから」


 なんか想像以上にヘビーなこと考えてた。こうやって笑っていれば年相応に見えるんだけどな。


「お前、これからどうする?」


「これからですか?」


「あぁ、王族という柵から解放されて自由になったんだ。何かやりたいこととかないのか?」


「おや、わたしを自由にしてくださるのですか? 2人の兄は私が生きていると都合が悪いみたいなので、彼らにわたしの身柄で一生遊んで暮らせるくらいの身代金を要求することもできますよ?」


 なんで俺がそんなことのためにトワを手放さなきゃならないのか。まぁトワのことだ、わざとこうやって憎まれ口を叩いて信頼できる相手かどうかを見定めているんだろう。あるいはこれ以上俺を巻き込まないようにするためか、トワとの付き合いは短いがそのくらいは分かるようになってきた。


「そうやって捻くれた言い方をしても俺はお前を手放すつもりはない」


「全てお見通しというわけですか……試すような真似をして申し訳ありません。あなたがそんな方ではないということは存じています。エース様……いえ、テンマ様とお呼びした方がよろしいですか?」


 ちょ、まさか俺の完璧な変装を見破っていたのか。そもそも1度2度顔を合わせただけの俺と紐付けてくるとは思わなかった。


「いつから気付いてた?」


「最初からです。こんなことが出来るのは王城に難なく忍び込めるテンマ様くらいなものだろうと思いましたので」


 マジか……。じゃあ他の人にも気付かれるかもじゃん、って思ったけど俺のことを知ってる人なんてそういないから大丈夫か。


「まぁ、そうであって欲しいという願望も多少はありましたけど……」


「ん? なんか言ったか?」


「いえ、何も」


 ボソッと何か呟いたと思ったけど気のせいだったか。とりあえずここまで来ればしばらく追手も来ないだろう。俺はお姫様抱っこしていたトワをおろして一息つく。


「で、改めて聞くけどトワはやりたいこととかないのか?」


「……そんなことこれまで考えたこともなかったですので、そうですね……あっ」


 トワの目線の先には1匹のスライムがいた。街の外では特に珍しくもないただのスライムだ。そのスライムを見てトワは分かりやすく目を輝かせていた。


「ん? スライムがどうかしたのか?」


 トワは徐にスライムに近づくと、べしっと叩いてスライムを経験値に変えた。


「決めました。わたし強くなりたいです! 外の世界を楽しみたいです!」


 正直トワがそんなことを言うとは意外だった。どうやらお淑やかなお姫様を演じるのはやめたみたいだ。けどそれがやりたいことだというのなら俺は応援するまでだ。幸い俺には短期間で超簡単にレベルアップさせるためのノウハウもある。


「よし、俺に任せておけ」


 みんな大好きスライム狩りの時間だ。


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