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第24話 人間卒業

【マスターシーフのレベルが20にあがりました。隠密のレベルが2になりました】


 よし、これで目標は達成だ。しかし目的が達成したというわけではない。今からすることのためにレベルを上げていたと考えれば、むしろここからが本番だと言える。


「何かあった時のことを考えてステータスの1番高い『バトルマスター』にしておいた方がいいのかな……」


 しかし素早さに関してはマスターシーフの方が高い。潜入と万が一の脱出という要素を考えたらこのままが良いか。


「いや、このままで行こう」


 素早さは大事だ。それにヘイストを使えば上昇値が100近く変わってくる。器用さがサブで上がるのも相性がいい。ちなみに、器用さはシーフの時に習得した『解錠』や『罠探知』というスキルにも絡んでくる。


「解錠は使うかもしれないしな」


 その名前の通り鍵を開けるスキルだ。器用さに依存してスキルの成功率と発動までの秒数が変わる。これがあったら鍵の意味ないじゃんと思うかもしれないが、世の中にはしっかり鍵開けスキルに対抗した魔法錠というものがある。基本的に宿の部屋や家に使われる鍵はこれだ。


「時間があればもっと確実な作戦とか出来たんだろうけどなぁ」


 例えば敵対貴族にこの情報をリークするとか、なんなら大司教を張り込めばもっと釣れる可能性だってある。しかし時間がないので証拠を集めるというのが出来ない。なので、もうこの国のトップに直訴してしまえというのが俺の作戦だ。こんなの作戦とも言えないな。


 貴族街に入って王城の近くまで行ってみる。王城の周りは高さ3メートルくらいの柵で囲まれていて王城の敷地内に入るための門は閉まっている。そして柵を越えた先にある正面口には門番が2人立っていて、ここからバレずに侵入するのは難しそうだ。

 ぐるっと城の側方まで回ると使用人口だろうか、装飾のされていない無骨な扉があった。


「ここは狙い目か」


 侵入経路の一つとして抑えておこう。他にも良さそうなところがあるかもしれない。


 想定していた侵入口としてはまず窓。窓が空いているような部屋があればそこから入るのもありだと思っていた。ただそういう部屋には人がいる可能性が高くリスキーだ。そしてもう一つは建物から突き出したベランダ? バルコニー? 違いはよく分からんがドラマや映画ではパーティなんかで疲れたヒロインが休憩で使うような場所だ。というか俺はそれ以外での使用例を知らない。


「高さは15メートルくらいか」


 この世界に来てから身体能力が格段に上がってオリンピックなら全種目で金メダルを取れるレベルまで成長した俺だが、流石に15メートルの走り高跳びは無理だ。けど7メートルくらいならいけることが判明した。人間やめちゃったねぇ……。


 7メートルくらい距離を稼いだらあとはボルダリングで登ればいい。少しでも突起があれば身体を支えられるし、なんならそれも片手の指2本あれば十分だ。自分でも馬鹿げた身体能力だと思うけどそれがこの世界におけるステータスの恩恵ということだろう。


 俺は数分ほど考えてどのルートを使おうか決断する。


「よし、バルコニーを使おう」




 使用人口ではなくバルコニーを使うことにした理由はふたつ。ひとつは人に見られるリスクだ。使用人口の方は扉を開けたあとの間口が広いのか狭いのかすら分からない。その点バルコニーから中に繋がる窓は全面ガラス張りになっている。中の様子が見える分、侵入した瞬間に見つかるというリスクは無さそうだ。


 もうひとつの理由は偉い人は高いところにいるだろうという推測だ。根拠はないが、少なくとも使用人口と偉い人の私室が近いとは思えない。


「吉と出るか凶と出るか」


 まぁどちらに転んでも大丈夫だとは思っている。元より行き当たりばったりの計画だ。これが失敗した場合は最悪他の手段を取ればいいだけに過ぎない。


 とりあえず侵入して偉い人を探しますか。



 まず、城の入り口に対して正面ではなく窓の少ない側面から柵を飛び越えて城内に侵入する。木々や花があることは外からでも分かったのだが、中に入ってみればここは見事に整えられた庭園だった。ここは庭師に称賛の言葉の一つでも贈ってやりたいところだが、残念ながら花を愛でている場合ではない。俺は、木の枝の一本すら折らないように速やかに移動する。


 バルコニーは城の正面にある。最速なのは正面側からジャンプしてそのまま壁伝いに登っていくだが、これは当然門番に見つかるリスクがある。この側面側から城の頂上まで登ってしまって上から侵入する方法を取ることにした。


「これも時間はかけられないけどな」


 側面は庭師もそうだが、使用人だって何かあれば出てくる。隠密があるとはいえ、隠密の効果がどこまであるかは実際には分からないから過信しすぎるのもよくないだろう。よりにもよって壁を登っている姿なんて見られたら曲者認定は免れられない。


 迅速に登る、しかし辺りの警戒は怠らない。窓が開いているようなところは更に要注意だ。そんな最中、俺のちょうど右側の窓が開いた。


「やっべ……!」


 今ここで顔を出されでもしたら1発アウトだ。多少リスクがあるが俺は腕に力を込めて一気に2メートル近く飛ぶとその窓の真上に移動した。


(うぉぉ!! 耐えろぉぉ!! 俺の指ぃぃ!!)


 飛んだ後の身体を支えるのは片手、それも3本の指だ。未だぷらんぷらんと左右に揺れる身体に振り落とされないよう必死に堪えた。


「風が気持ちいいですよ〜」


 顔を出してきた。メイドだろうか。今このメイドの頭上には壁に3本の指で張り付いてる不審者がいる。まぁ俺なんだけど。


「スーリャ、遊んでいないで掃除をしますよ」


「はーいメイド長!」


 スーリャと呼ばれたメイドは中から他の人に呼ばれて引っ込んでいった。まさに、間一髪ってところだ。


「ふぅ……あぶねぇ……」


 身動きがまともに取れないというのは不便だ。さっさと登ってしまおう。


 登った後は安全地帯だ。尖塔付近までいけば人もいないし人の目も届かない。そのまま屋根を伝って正面に移動、バルコニーに着地とスムーズにことを運ぶことができた。


「中は、暗いな……」


 パーティ会場的な大広間なのだろうか。室内に人の気配は無かった。


「この扉は……開いてるわけないよね」


 室内とバルコニーを繋ぐガラス張りの扉は施錠されている。しかしこの扉は魔法錠ではなかった。


「解錠……!」


 割と時間がかかったが問題なく解錠スキルで開いた。もしかすると器用さはかなり必要だったかもしれない。開かなかったら開かなかったでさっきメイドさんが開けてくれた窓を使うだけだったのでリカバリーは効く。


「さて、偉い人はどこかなぁ」

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