第23話 マッサージ(意味深)
今日は森の中で一夜過ごした。と言っても全く寝ていないというわけではない。行き帰りの時間が勿体ないから森で寝ただけでこんなことを二度とやるつもりはない。
寝ていたところをワイルドボアの突進で起こされたり何かの遠吠えで起こされたり散々だった。体力的には全くもって問題ないのだが精神面でしんどい。
「こいつらにも見飽きたな……」
もはやワイルドボアやコボルトを何体倒したかなんて分からない。
【称号『コボルトの天敵』を獲得しました】
いつもの天敵シリーズが手に入った。コボルト系統モンスターに対して攻撃と防御が強くなる、ウルフの天敵のコボルトバージョンだ。
【称号『猪突猛進』を獲得しました】
これはワイルドボアを倒した後に手に入った。なんか褒められているのか貶されているのか分からないな。
マスターシーフのレベルを20に上げるべく無心で狩りを続けていたのだが、あるスライムを倒した後に我に返った。
「あ、なんか落ちたぞ」
アイテムドロップだ。キラッと一瞬光っただけなので見逃すところだった。というか普通のスライムじゃなかったのか。
『スライムイヤリング』
この名前の情報量の無さよ。ちなみに効果は『会心率+20%』という効果だった。うーん強いのかどうか分からない。まぁ他に耳飾り付けてないから付けるだけ得なんだけどさ。
スライムの形をした何かがついているデザインのイヤリングを付ける。そういうデザインって考えるとありかもしれない。でもアリサさんに見せたらまた変なのつけてるよって思われるんだろうな。
お昼時、食事やら風呂やら済ませたいことが山ほどあったので一度王都まで戻ることにした。服もボロボロなので適当に数着買い直さなければ。
「かなりレベルが上がったな……」
風呂に入りながら自分のステータスを眺める。マスターシーフのレベルもそうだが、素のレベルの方もここ数日でだいぶ上がった。
テンマ(18):レベル88
体力:324
攻撃:264
防御:281
魔力:220
器用さ:578
精神力:167
素早さ:680
職業:『マスターシーフ』レベル16
称号:『異世界人』『スライムの天敵』『ウルフの天敵』『コボルトの天敵』『猪突猛進』『剣の道を歩む者』『徒手空拳』『守りし者』『清濁併呑』
なんかもうもはやごちゃごちゃして分かりにくいな。表示を切ることは出来ないのだろうか。と思ったら称号の表示を消すことが出来た。見やすい。
「今日もうちょっと頑張って、明日にはレベル20だな……」
銭湯から出た俺は一度大量の着替えやらを置きに宿に帰る。もう品質とか値段とか気にせずに爆買いしてしまった。
「いらっしゃい……ま……せ、って、テンマさん……!? 大丈夫ですか!?」
「え? 何が?」
宿に戻ったらいきなりリルルちゃんに心配された。背中に背負った荷物のことだろうか。大きく見えるけど衣服だから重くないんだよ。
「何がって、アンデッドと間違われそうなくらい顔が死んでますよ!」
「ゔっ……」
普通にぐさっと来た。言葉のナイフがいてぇなぁ……。ここ最近で1番ショックだった。アリサさんとかは変態を見るような目はしてくるけどこんか直接的な暴言は無かったからなぁ。
「テンマさん行きますよ」
リルルちゃんは俺の手を引いてスタスタと歩き出した。一体どこへ行くのだろうかと思ったら俺が借りている部屋だった。
「寝なさい」
あれぇリルルさん……? なんか雰囲気変わってません? しかし、年下の女の子に命令されてはい分かりましたと従う俺ではない。なんたって俺にはレベル上げがあるんだ。
「寝なさい」
「はい」
不興を買って宿を追い出されてしまうのもアレだからな。ここは素直に従うのが処世術だろう。
「いつもはこんなことしないんですからね。テンマさん冒険者なのに1人だし、ちょっと危なっかしいというか、頼れる人がいなくて可哀想というか……とにかく! 早く強くなりたいとかお金をたくさん稼ぎたいとか、そういう背伸びがしたいのは男の子だから仕方ないかもしれですけど、死んじゃったら元も子もないんですからね」
いつか良い仲間が見つかりますよと慰められる。あれ? もしかして俺弱すぎて仲間がいないって思われてる?
「というか、リルルちゃん何してるの?」
「??? 何って、マッサージですよ?」
うん、もみもみしてるもんね。何でマッサージしてるのかを聞きたかったんだよ。
「お客さんこってますね〜」
まだ若いからそんな凝り固まることないと思う。まぁたしかに疲れていたことは事実だしここは少し好意に甘えようかな……。
「やっべ! ガチで寝てた!」
「うわっ! 急にどうしたんですか!」
あれ、まだリルルちゃんがいる。って、どれくらい寝てた?
「2時間も寝てたのか……」
「ええ、そりゃもう気持ち良さそうに熟睡してましたよ」
2時間もマッサージしてくれてたのか。しかしそのおかげか疲れはかなり飛んだ気がする。
「ありがとう。元気になったよ」
「私は夜ご飯の仕込みがありますから戻りますけど、あんまり無茶しちゃダメですからね。あ、今日は食堂には来られますか?」
この宿は横に大衆食堂が併設されていて、ご飯が美味しいということでコロコさんからお勧めされた宿なのだが、思っていた以上にハードスケジュールで全然利用できていない。
「ごめん。これからレベルを上げてくるよ」
「えー!? そんな! もう夜になっちゃいますよ!」
なんだか夜に不倫相手の家に行く男になった気分だ。いや、そんな気分なんて知らないけどこういう感じなのかなぁってふと思った。けど別に俺は悪いことしてないからね。それにここだけは譲れない。
「ほんとにごめん、でも今日と明日が勝負なんだ」
俺だってこんな狂ったレベル上げはしたくない。けど、それで間に合わなかったら俺は死ぬほど後悔するだろう。それこそ、今後一生を費やしても悔やみきれないかもしれない。
「テンマさんが真剣なのは分かりました。絶対帰ってきてくださいね」
「うん、死ぬつもりはないからね」
死んだら元も子もないっていうのは理解している。それに、レベル上げは弱いモンスターの方が効率がいいんだ。
さ、俺の戦いに行きますか。




