第18話 アルフを去る
1ヶ月が過ぎた。俺は相変わらず基本職のレベル上げにひたすら注力していた。
「これで戦士もレベル30か」
防御力はあるに越したことはないので武闘家の次は戦士のレベルをあげた。これで残りは『僧侶』『魔法使い』『狩人』『シーフ』『占い師』『遊び人』『商人』『鍛治師』の8つだが、そろそろ上級職も検討する時期かもしれない。
基本職の転職はアルフの街の教会でも可能だが、上級職になるには王都『セントラル』に行く必要がある。慣れ親しんだアルフの街を離れる時が来た。
そんなわけで、お世話になった受付嬢のアリサさんに挨拶をしたら……。
「どうせテンマさんも王都に行っちゃうんだろうなぁって思ってました。はぁ、寂しくなりますね。毎日あのふざけた戦果を見るのを楽しみにしていたんですけど」
この3週間でアリサさんとはだいぶ打ち解けたと思う。様呼びからさん呼びに格下げになったのは距離感が近くなった証だ(俺からお願いした)。それに俺の毎日の戦果を楽しみにしてるなんてよっぽどだろう。
「テンマさん本当に行っちゃうんですか? 私はテンマさんのせいで受付業務に支障が出てるっていうのに……」
いやそれは知らない。俺は何もしてない。
「ワイルドボアをたくさん狩ったって喜んで報告してきたパーティの精算をした時に5体しか討伐してなくて『なんだ、大したことないな』って思うようになっちゃったんですよ! どうしてくれるんですか!」
なんでもワイルドボアは肉も食べられるので普通は解体をして素材も剥ぎ取って納品をするというのが基本らしく、そんな獲物を1日に複数を狩猟して帰ってくるのは珍しいって話だった。特に俺みたいに10体以上狩っているのに全く素材を持ち帰らない奴なんていないらしい。
「俺は冒険者としては特殊だから一緒にしたらダメなんじゃないか?」
お金稼ぎが目的ではない俺とある程度のお金が必要なパーティとでは行動が変わってくるのはある意味当然のことだ。
「そういえば、テンマさんはパーティを組むつもりはないんですか?」
「ないねぇ。俺のやり方だと複数人でやると赤字だからさ」
やり方を変えないのか? って意味で聞いたんだったら変えるつもりはない。お金稼ぎとレベル上げを天秤にかけた時、俺の中では圧倒的にレベル上げの方が比重が大きい。その理由は、レベルを上げて強くなれば今の俺の稼げる能力なんて小銭同然になると思っているからだ。
なので日々困らない程度の収益があればその他のリソースは全てレベル上げに費やす。特にこれからは上級職の職業レベルも上げていきたい。隠密にしろ剛体にしろ、上級職のスキルはかなり使い勝手が良い、というか本当に強い。剛体が強すぎてワンパンできる敵なら防具がいらない状態だ。更に戦士レベルを上げたことで防御ボーナスを貰ったこともあり、防具をつけていなくてもそこら辺の冒険者(戦士を除く)よりステータスがある。
あとは純粋にレベルでステータスを盛っている。
「とりあえず、また強くなって帰ってくるよ」
「もう、冒険者の人っていつもそうですね。ほんとに調子がいいんだから。王都にいるテンマさんの武勇がこのアルフの街にまで届いてくるのを楽しみにしてますよ」
「ははっ、それはなかなか大変そうだ」
王都という大きな街の垣根を越えて、遠く離れたこの地に勇名を轟かすなんてAランク冒険者にでもなれってことだろうか。いや、この街にいても王都にいる有名なAランクの人の名前なんて全然聞いたことがないことを考えると、ただAランクになるだけでは足りないかもしれない。
けど、俺にはまだまだ強くなる余地があるんだ。それを目指すのもありかもしれない。
北の門の側にある停留所で王都『セントラル』に向かう馬車に乗ると、間も無くして馬車は北の街道を進み始めた。
(ここ、俺が初めてこの世界に放り出された場所だな)
そしてミーナにあった場所でもある。奇しくも1ヶ月前の道程を反対に進むことになった。もし俺があそこでミーナに話かけていなかったら、そしたらアルフに行かなかった可能性もあったのかもしれない。その時は王都に行っていたのだろうか? あるいは、他の誰かとの縁が得られていたのだろうか。
そう考えると、人と人との出会いというのが数奇の連続に成り立ってるんだなと思う。だからこそ、この世界線で得られた縁を大事にしたい。まだ恩返しもできてないからね。




