第13話 人災
今日はアルフの街を西から出て街道を進んでいった。街から離れると山があり、浅いところはウルフやコボルトなどのモンスターが多く出てくるエリアになる。ちなみに山を越えて数日間と馬車で更に西に進むと雨が全然降らない地域もあるみたいだ。しかし雨が降らない地域の食文化を考えてみた時に俺に合わなそうだと思った。おそらく今後そちら側に行くことはないだろう。
お米のことを考えるなら雨が降る地域に行った方が良い。それか海の近くなら他の国の交易品も望める。
まぁいずれにせよそれはレベル上げが終わったらだな。
今日感じたことはまずコボルトが狩れるようになったのがでかいということだ。これまでは複数体のコボルトを泣く泣く諦めていたが、今やワンパンできるので強気に出ていける。ウルフも同じだ。素早さが上がったことで余裕を持って対処できる。
「しまった、『ワイルドボア』だ……!」
ワイルドボアは猪のようなモンスターで、 単独でDランクレベルとなかなか強い。山はウルフやコボルトと良く遭遇できるのだが、戦いたくないモンスターとの遭遇率も高い。ワイルドボアもそうだが他にも『アグリーベア』という熊がいるのだが、こちらは単独Cランクレベルとおそらく俺の手には負えない。
いつでも三十六計の準備をしておかなければならないという緊張感があった。
「一旦下山するか」
レベル上げは脳死で出来る作業でなければならない。これがゲームならばそんな作業は退屈でしかないが、それが現実なら退屈な作業が理想になる。
ワイルドボアやアグリーベアと交戦したとして、死なないにしても怪我をしてしまったら次の日以降のレベル上げに支障が出てしまう。そのような事態は避けるべきだと考え、西の森でのレベル上げは諦めた。
下山した俺は街道に戻るとそのまま北の草原を目指す。街道からは少し離れた人の通りがないルートなので割とスライムやウルフと遭遇することが出来た。
「脇道にそれるのもたまにはありかもしれないな」
今日はなるべく人が通らなそうなところを選んで歩いてみた。人を狙う習性のあるからか、ウルフはあまり見かけずモンスターはスライムが主だった。
「今となってはウルフの方が効率がいいんだが……」
素早さも3桁になったことで今はウルフが5体同時に出てきても余裕を持って対処出来る。群れで出てきてくれるとボーナスタイムだ。
【称号『ウルフの天敵』を獲得しました】
その少ないウルフを倒したらこんな称号が手に入った。スライムの時はスライムが逃げられなくなるという追加効果のおかげでヘイストスライムを狩ることが出来たが、今回はどうだろうか。
テンマ(18):レベル24
体力:66
攻撃:112
防御:63
魔力:30
器用さ:51
精神力:53
素早さ:100
職業:『剣士』 レベル17
称号:『異世界人』『スライムの天敵』『ウルフの天敵』
ウルフの天敵の効果はウルフ系統モンスターに与えるダメージが1.2倍になり、受けるダメージが0.8倍になるというものだった。残念だけど今のところは使い道がないかな。
日が暮れてきて街に戻ろうかとしたところで奇妙なスライムと遭遇した。
「ん!? 硬い!?」
驚くことにスライムに攻撃が弾かれた。見た目が普通だったから全く気が付かなかった。とりあえず伝家の宝刀、鑑定をしてみる。
『ハードスライム』
知らないスライムだった。これもヘイストスライムみたいなレアなスライムなのか? スライムなのに固いというのは不思議だが、スイーツで銃弾を防ぐとしたらカスタードが良いという話を聞いたことがある。なんでスイーツで弾丸を防ごうとしたのかは知らないがチョコレートよりはカスタードだそうだ。
1分ほど殴り続けてようやく倒すことが出来た。いや、固すぎだろ。会心攻撃しかダメージが通ってなかったんじゃないか? なんにせよ倒せてよかった。
『スライムリング』
あれ、てっきりアーマー的なやつが来るかと思ったけどアクセサリーだった。よかった。流石に全身スライムはドン引きされるを通り越して警察的なやつが飛んでくる可能性がある。
早速戦利品のスライムリングを鑑定してみる。
『スライムリング』:防御+15、『剛体』スキルを獲得。
知らないスキルが手に入った。『隠密』と違って任意で使用するタイプのスキルみたいだ。早速使用してみる。
…………。
何も分からん。とりあえず街に帰って風呂だ風呂。分からないことはミーナに聞こう。
まずは風呂の前にギルドに精算をしに行く。
「14300ゴールドです」
うーん。常設依頼のおかげで生活費は賄えてはいるが、1日1万ゴールドの貯蓄を目標にすると生活の質はどうしても最低レベルになるな。強い武器や良い防具なんて到底買えやしない。とっとと冒険者ランクを上げて良い報酬の依頼をするのが冒険者として正しい姿なんだろうな。
「テンマ様、ランクアップです」
「はい?」
なぜ? 最近は常設依頼しかやってないんだが?
「Gランクの方は常設依頼でも貢献度が入るようになっています。そもそもウルフの討伐自体Gランクの依頼ですからね」
どうやらFランクに上がったみたいだ。これで依頼の種類に幅が出るし、報酬が良い依頼もあるかもしれない。
「とりあえず常設依頼お願いします」
「………」
まぁランクが上がったとしてもレベル上げするんですけどね。アリサさんから今日のジト目を頂いたところで俺は風呂に行くためにギルドの出口に向かう。ついでに夜ご飯は何を食べようかなあなんて考えていると、目の前に男がやってきて俺の進路を妨害してきた。
「よう、待ってたぜ」
昨日絡んできた男だ。待ってたって言うけど俺が来なかったらどうしたんだろうか。もしかして待ちぼうけを食らって最後は諦めて帰るのだろうか、ちょっと気になる。
「こちとらてめぇのせいでDランクに格下げだ。ランクはまたあげればいいだけの話だが、てめぇにペナルティがないってのが納得できねぇ!」
というかランク格下げなんてあるんだな。そういえばアリサさんも言ってた気がしないでもない。俺は別にランクが下がってもペナルティにならないけどな。
「ならどうすれば納得するんだ? まさか俺にも同じランク降格のペナルティを受けろというのか?」
「当然だ! お前がいなきゃ騒ぎは起きなかったんだからな!」
「なるほどな」
なんて理論だ。そもそもお前が騒がなきゃよかっただけのものを他人のせいにするとは。けど言質は取った。昨日の今日ということでマークされていたみたいだし、みんなも証人になってくれるだろう。
「アリサさん、そういうことだから手続き頼むよ」
「では、テンマ様のランクをGランクに戻しておきますね。というか、降格手続きを本人が頼んでくるケースなんてありませんよ。普通はもっと子供のように駄々をこねるものです」
「子供のようにねぇ……まぁ俺はランクが下がっても痛くも痒くもないから」
「それは私が一番良く分かってます」
常設依頼しかしないですもんね、というジト目ありがとうございます。ギルドからするとちゃんと依頼もしてくれ? という感じなのだろうか。
「テンマ様は人の話を聞いてくれるだけ優良冒険者ですよ。変態ですけど……」
いつも目で訴えるだけだったのについに声に出して言われた。慇懃に振る舞っている人にそんなことを言わせるなんて……だいぶ打ち解けてきたって証拠だな!
「ガリウス様、あなたの望み通りテンマ様のランクを降格させました。これ以上冒険者ギルドの秩序を乱すようならば更なるランクの降格、一定期間ギルドの利用停止、永久追放処分も考えられますので身の振り方には充分ご注意ください」
多分ギルドでは要注意人物としてマークされているのだろう。次問題を起こしたらどうなるか分かってんのか? って脅しだ。俺も目をつけられてたりするのだろうか。こわいこわい。
「へへっ、ざまぁねぇな!」
俺にも同じ処分が下ったことをガリウスという男が嬉しそうにしている。CからDになるのとFからGに落ちるのでは度合いが全く違うだろうに。
「あぁ、仕方がないからまたGランクから頑張るよ。なーに、ランクはまたあげればいいだけだからな」
「Gランクだと!? てめぇ! 騙しやがったな!? そんなん1日で元通りじゃねぇか!」
「騙すだなんて人聞きの悪い。むしろ俺は確認をしたはずだ。ランク降格のペナルティを受けたらお前は納得するのか? とな」
それはここにいる全員が聞いている。俺が騙したというよりガリウスとやらが都合よく解釈しただけと分かってくれるだろう。
「ガリウス様、これ以上は当ギルドも悪質な付き纏いと判断します」
もういいだろうか。俺は風呂に行きたいんだ。あとはギルドの人に任せよう。けど実質的な損害も無しでギルドの人が味方になってくれたと思えば意義のある時間だったな。ここまでされたらもう俺にちょっかいをかけて来ないだろう。いや、むしろ来てくれたら今度は迷惑料とか慰謝料とか請求出来るのだろうか……。そしたら今より良い剣が買えるんだが……あれなんか俺の方が詐欺師みたいじゃね?
ま、そうなったらそうなったとき考えよう。




