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甘く危険な宇宙生物  作者: 川越トーマ
12/15

月曜日の午後  アオイの秘密その1

 その日のホームルームは、来月行う体育祭についての打ち合わせだった。

 午前中パニックに陥ったシラオカ教諭は一見平静を取り戻しており、教壇の端でクラス委員の皆野シノブの進行を見守っていた。

「じゃあ、クラス対抗リレーのアンカーは、熊谷ノボルくんで決定します」

「「「異議なし」」」

「では、次の議題に移ります」

 シノブがテキパキと議事を進めていると、ぼんやりと窓の外を眺めていた窓際の生徒が妙な声を上げた。

「あれ、校庭に犬が入ってきた」

「いまどき野良犬なんて、珍しいよね」

「皆さん、静かにしてください」

「いや、野良犬じゃないよ、立派な首輪もつけてるし、服も着てるもん。どっかの飼い犬じゃない? しかし、変わった服だよな。青くてツルツルしている感じ……」

「えっ?」

 最初、議事進行のために騒いでいる生徒たちをたしなめていたシノブだったが、何か引っかかるものを感じて窓の外に目をやった。

 シノブは教壇に立っていたので外の様子もよく見えた。校庭にいたのは、光沢のある水色の服を着た白い洋犬だった。

「あれ? この間、アカネの家の近くにいた犬じゃない?」

 そう言われて美里アカネも立ち上がって外を眺めた。

「ホントだ。……こっちに近づいてくるよ」

 白い洋犬は、重い身体を引きづるようにノロノロと校舎に近づいてくるところだった。

「なんか具合が悪そうだな」

 長身の熊谷ノボルも立ち上がって外を見て、つぶやいた。

 犬は蛇行しながらも教室の窓の外までやってくると、校舎の壁にしがみつくようにして立ち上がり、教室の中を覗き込んだ。

 犬はくんくんと鼻を動かしながら教室内を見まわし、次にアカネとアオイをかわるがわる見つめ、ジタバタしながら窓に這い登り、教室内に入ってきた。

「きゃあ!」

 窓際の女子がびっくりして立ち上がった。

 シラオカ教諭もノロノロと立ち上がった。

 吉見コウタは教室に入ってきた犬を見て『なんか、疲れているみたいだな』と心の中でつぶやきながら、じっと動きを見守った。

 アオイはその犬に何かを感じたようで急に席を立って逃げようとした。

 犬は最後の力を振り絞るようにアオイに向かって猛突進を開始した。

「危ない!」

 アオイの隣に座っていたコウタはアオイをかばうように動き、アオイに躍りかかろうとする犬の脇腹を思わず蹴り飛ばした。

「なにすんのよ、痛いじゃない! この野蛮人!」

 教室の床を転がりながら、犬が叫んだ。

「ふざけんな! お前がこの子に襲い掛かったからだろうが!」

 そのやり取りを聞きながら、教室中が凍り付いた。


「コウタくん話がおかしい。突っ込むところは他にあるだろう!」

 沈黙を破ったのは宮代ユウサクだった。

「犬がしゃべった!」

 シラオカ教諭が教壇でひきつった声を上げ、逃げるように慌てて教室から出て行った。

「またまたぁ、携帯電話会社のコマーシャルじゃないのぉ。どっかに中の人が潜んでるんじゃない?」

 蓮田ユウコが立ち上がって、キョロキョロと窓の外も含めて周囲に視線を走らせた。

「いや、携帯電話のコマーシャルの犬とは種類が違うし……おまけに、この犬、なんか変じゃないか? 妙に指が長いし」

 杉戸タカシが意外と細かいところに気づいてつぶやいた。

「私は、シリウス星系の住民で、ピーラといいます。怪しいものではありません」

 犬は身体を起こすと、そう言って自己紹介した。

「いや、怪しすぎるって」

「コウタくん、そうやって普通に突っ込むのはおかしいでしょう! もっと、驚かないと! もしこの方が本当に異星人なら、われわれは異性文明との接触を果たしたことになります。ファーストコンタクトです! 記念すべき瞬間ですよ……地球には何の目的で来たんですか? 日本語を話せるのはなぜですか?」

 ユウサクは、ピーラに向かってまくしたてた。

「宇宙人というのが本当ならね。きっと、この犬は怪しげな錬金術で人間の脳を移植されたに違いない」

「コウタくん。異星人を認めないで、錬金術は信じるなんて、非論理的ですね」

「うるせえ、逆立ちして町内一周してたまるか!」

 コウタは、ピーラを放置してユウサクと会話を始めた。

「それが理由ですか?」

 ユウサクは、宇宙人がいるいないの議論で何日か前にコウタが口走ったことを思い出した。

「犬って、何?」

 二人が不毛な会話を交わしている間、ピーラは通信機を使って小型艇の人工知能に問い合わせた。

 日常会話は首輪型端末の自動翻訳機能で自在に操れたが、分からない概念が出てきた場合、小型艇の人工知能に問い合わせることになっていた。

 小型艇の人工知能は首輪型端末とは容量も処理速度も違う上に、今もこの惑星の大気中を飛び交っている通信用の電磁波を解析して知識を深めているはずだった。

『イヌはこの惑星の現住生物の一種です。この惑星の知的生命体の家畜、愛玩動物です。ほかにスパイ、裏切り者を意味することもあります。さらに接頭語として使われる場合、一見似ているが本物とは異なるもの、劣るものを意味します』

「要は侮辱的な言葉と理解していいんだな」

 ピーラは人工知能の解説を聞き、『犬』と言われたことに憤慨した。


「大変です。校長!」

 シラオカ教諭が血相を変えて校長室に飛び込んできた。

 本日二回目のシラオカ教諭の登場に校長のヒダカはげんなりした。

「今度は何だね」

 ヒダカ校長はあからさまに嫌な声を出した。

「犬が教室内に入ってきました!」

 しかし、シラオカ教諭はヒダカ校長の心の動きにはまったく気づかないのか、興奮した様子で叫び続けた。

「それで、君は生徒を放置して自分だけ逃げてきたわけかね」

 ヒダカ校長は高い背もたれの椅子に深く腰掛け、見下すような視線をシラオカ教諭に送った。

 心の中では『まず生徒の安全確保が最優先だろう。何やってんだこいつは』とシラオカ教諭のことを罵っていた。

「いや、そうじゃなくて、犬がしゃべったんです!」

 シラオカ教諭は真顔だった。

『今日は朝からおかしかったが、いよいよダメらしい。病気は治っていなかったようだ、いや、むしろ引き継いだ報告書よりも悪化している……』

 ヒダカ校長の心は、怒りよりも、あきらめや憐みの感情で満たされていった。

「シラオカくん」

 ヒダカ校長は改まった口調でシラオカ教諭に呼びかけ、言葉を切った。

「はい、何でしょう?」

 シラオカ教諭はヒダカ校長が静かな口調になったことで、自分の話が聞いてもらえるものと期待した。

「だいぶ君は疲れているようだ。また、しばらくお休みするかね」

 ヒダカ校長の目は憐れみを帯びていた。

 校長の言葉の意味することが分かり、シラオカ教諭は凍り付いた。

 すでに一度病気休職している身だ。今度休職したら分限処分……最悪クビも考えられた。

「いえ、大丈夫です。教室に戻ります」

 そう声を絞り出したシラオカ教諭の顔色は真っ青だった。


「だから、なんどでも説明しますが私はシリウス星系の……」

「犬の癖にしゃべんな!」

「犬、犬、言うな!」

 教室では、今度はピーラとコウタが罵り合っていた。

「ピーラさん、気にしないでください。こいつは女子と罵り合うことに無上の喜びを見出す、困った性癖の持ち主なんです」

 ユウサクが、さらっとコウタの人格を貶めた。

「あ~、いわゆる変態なんですね」

「そうなんです」

 クラスがどっと沸いた。あきれたことに生徒たちはピーラの存在を受け入れはじめていた。

「違う! 宇宙に俺の悪い評判を広めようとするな!」

「おや? 今、何気にこの方が異星人だと認めましたね」

「いや、断じて認めていない」

「こんなわからんちんは放っておきましょう」

 ピーラが異星人であることを認めないコウタを放置して、ユウサクはピーラから知りたいことをいろいろ聞きだすことにした。

「で、YOUは何しに地球へ?」

「そこにいる最凶、最悪の宇宙生物であるヒトモドキを捕獲しに来ました」

 ピーラは、ようやく話の本題に入れたことに安堵すると、アオイに向かって顎をしゃくった。

「えっ? アオイちゃんのこと?」

 シノブが驚いたような表情を見せた。

「どう見てもアオイちゃんは普通の人間でしょ」

 ユウコが人差し指を左右に振りながら異を唱えた。

「犬に言われたくはないよな」

 ノボルが腕を組んでユウコに同意するかのようにうなづいていた。

「地球人に化けているだけなんです!」

「だれが?」

 飲み込みの悪い生徒が突っ込んだ。

「そこの女の子がです! まったく、もう」

「わたし、悪い人じゃない」

 アオイはおびえたような表情でコウタにしがみついた。

「そうだね」

 そういいながらも、コウタはピーラの話に興味を持った。確かにアオイには謎が多すぎた。

「最凶、最悪って言うと、具体的にどんな感じなんでしょうか? 人間を捕食するとか?」

 ユウサクがピーラに話の続きを促した。

 コウタは大食漢のアオイが大きな口をあけてコウタを頭から丸かじりするシーンを想像して身震いした。

「雑食性ですが、そういう習性はないと思います」

 コウタは内心ほっとした。

「目から殺人光線を出すとか? 口から火を吐くとか?」

「そんな能力もありません」

「悪知恵が働くとか、快楽殺人を繰り返すとか?」

 ユウサクは一生懸命『最凶、最悪』に該当しそうな能力、習性を考えて次々に口にした。

「ヒトモドキの知能はきわめて高いのですが、総じて争い事が嫌いで平和を好み、極めて善良で心優しい存在です」

 しかし、ピーラの答えはことごとくそれを否定するものだった。

「じゃあ、どこが最凶、最悪なの?」

 ユウコが、ユウサクとピーラの話に割って入った。

「その惑星の知的生命体の心を奪って骨抜きにしてしまうのです」

「???」

 ピーラの話はまるきり理解不能だった。

 生徒たちの表情に、はてなマークが浮かんでいた。

「すみません、おっしゃっている意味がよくわからないので具体的にお願いします」

 ユウサクはみんなの気持ちを代弁して、再度ピーラを問い質した。

「世の男性陣がヒトモドキと愛の巣を築くから俺と別れてくれないかなどど言い出すって事です! 私の彼氏の心も、ヒトモドキに奪われました!」

 ピーラは涙目で叫んだ。

「「「「……それって、ただの嫉妬じゃん!」」」」

 数人の生徒が合唱した。

『わかる気がする……』

 口には出さなかったが、アオイの破壊力を目の当たりにしていたアカネは、ピーラの話に納得してしまった。

「皆さん、最初に断っておきますが、その女の姿は真の姿ではありません。ヒトモドキは不定形生物です」

 まるで自分に同意してくれない生徒たちに向かって、ピーラはさらに説明を重ねた。

「不定形生物って?」

「アメーバみたいな奴のことだろ」

 生徒たちはざわついた。アオイのことを気味悪そうに見る生徒もいた。

「ヒトモドキは、その星の知的生命体に擬態します。この星に来る前は、この私と同じ姿かたちをしていました」

「アオイちゃん、昔は犬だったの?」

「だから犬じゃないって!」

 ピーラがまたそこで反応した。

「じゃあ、あのとき、うちの露天風呂にいた犬は、アオイちゃんだったの?」

 アカネがそう言いながらアオイを見ると、アオイはこっくりとうなづいた。

 アカネは、アオイが『などなでして』とおねだりしたわけも納得した。

 最初に出会った時、土産物屋の前でアカネがアオイの身体を撫でると、アオイはずいぶん気持ちよさそうにしていた。

「だから、着替えを盗んだのね」

 シノブもいろいろあった疑問が頭の中で解決しはじめたらしい。

「ヒトモドキは、パートナーに庇護を求めるという生存戦略を採用します。そのため、社会的に優位な性と対になるほうの性に擬態します。この星では、女性に成りすますことに決めたようです」

「え、じゃあ、アオイちゃんは女の子じゃないの?」

 ある意味、それはコウタにとって不定形生物だと言われるよりもショックだった。

『アオイに懐かれて手をつないだり、抱きしめたりしてしまったが、女の子じゃなかったなんて……』

 ふと見ると、アオイがすがるような目でコウタのことを見つめていた。

 ピーラからいろいろ聞かされたが、アオイの目を見ると邪険にする気にはなれなかった。

「ヒトモドキは男性でも女性でもありません。雌雄同体で単独で無性生殖を行います。子孫を残すのに相手は必要ありません」

「えーと、それってエッチしないでも子供ができちゃうってこと?」

「ちょっと、ユウコちゃん……」

 ストレートに質問したユウコをシノブが慌ててとめた。

「ヒトモドキに心を奪われた男たちは、普通の女たちとは子孫を残す行為をしなくなります。一方ヒトモドキは無性生殖で、ものすごいスピードで増殖していきます。その結果、知的生命体が全てヒトモドキに置き換わってしまいます。ある惑星は200年で、もとの知的生命体が絶滅し、すべてヒトモドキに置き換わってしまいました。彼女たちは、その忌まわしい生態から『文明の簒奪者』の異名を持っています」

「凄い! 普通、侵略というと、大量の兵器を投入して破壊と殺戮の限りを尽くすというイメージがあるけれど、一滴の血も流さずに穏やかに侵略が完了してしまうのか、古代中国では政権打倒のために美女を使ったという話があるがそれに相通ずるものがあるな」

 ユウサクが感心したようにうなづいていた。

「あっ、俺その話知ってる。封神演義の妲己とか、三国志の貂蝉とかだろ」

 ノボルが得意げに話に加わった。

「なんか、ちょっと微妙にそういう話とは違う気がするけど」

 アカネが男子たちの意見に異議を申し立てた。

「実際、いるわよね。本人に自覚はないけど。迷惑な女の人って」

 ユウコがうんうんとうなづいていた。

 何か近い経験でもあったような言い種だった。

「でも、だからといって、殺したりしちゃいけないと思う」

 シノブはピーラに向かって諭すように言った。

「もてない女の僻みというやつだな」

 ノボルの発言は身も蓋もなかった。

「なんか負け犬の遠吠えっぽいよな」

「だから犬いうなっていってるだろ!」

 コウタの執拗なネタふりに、ピーラは大きな声で怒鳴り、歯をむき出しにした。

「…………」

 非難するような視線や、恐怖するような視線がピーラに集まった。

 ピーラはバツが悪そうに軽く咳払いすると、話をつづけた。

「殺したりしません。ヒトモドキの住む惑星に送り返すだけです」

「ピーラさん、ひとつ確認してもいいだろうか?」

 ユウサクは眼鏡を直すと、姿勢を正して挙手をした。

「どうぞ」

「その……ヒトモドキは、相手の心を奪うという話なんですが、本来の異性とは生殖活動をしなくなるという話から推測すると、相手を満足させるために、実際の生殖活動ではない擬似的な生殖活動も行ってのけるという理解でよいのでしょうか?」

 ユウサクは真面目な表情のまま、一気にきわどい質問した。

「その通りです」

「さすがユウサク、物凄い内容をお堅い用語に言い換えてさらっと聞きだしたぞ」

「メンタル強いな、見直したぜ」

「勇者だ。本物の勇者だ」

「いやそうでもないみたいだ。鼻血が出てる」

「ユウサク、君の犠牲は無駄にしない」

 男子生徒たちが話の内容に興奮して大騒ぎを始めた。

「これだから男子って……」

 女子生徒たちは冷たい視線を男子生徒たちに送った。

「ピーラさん、質問ですが、この地球ではアカネの姿のまま、増殖するんでしょうか?」

 タカシも挙手をして質問した。目が血走っていた。

『ええっ!』

 その状況を想像して、アカネはぞっとした。

「いえ、それではうまく社会に溶け込めないので、いろいろな女性をモデルにします。あなたの姿やあなたの姿もコピーされるかもしれません」

 そう言いながら、ピーラはシノブやユウコに顔を向けた。

「じゃあ、人気アイドルのそっくりさんになるとかも可能なのか?」

 タカシは身を乗り出した。

「……情報さえ与えれば、どんな姿にでもなることができます。本人がその気になればですが」

 タカシのがっついた態度にピーラは思わずたじろいだ。

「やるな、タカシ。俺たちもそれが知りたかった」

 男子生徒たちがざわついた。

「どれくらいの頻度で増殖するんですか?」

 男子生徒の一人が離れたところから質問した。

 タカシは鞄を開けてごそごそと何か探し始めた。

「そうですね……環境にもよりますが、十分な栄養を摂取していれば、そろそろ分裂してもいい頃です」

「そうなんだ。アオイちゃんのお食事は繁殖するためだったんだ」

 アオイの旺盛な食欲を目の当たりにしていたシノブは思わず納得した。

「アオイさん、お願いです。あなたのお嬢さんを僕にください。お嬢さんは、この子をモデルにお願いします」

 タカシはカバンから雑誌を取り出すと、水着姿のグラマラスな美女の映っているグラビアのページを開いて、アオイに突きつけた。

「なんか、この人こわい……」

 アオイはコウタにしがみついた。

「サイテー」

 ユウコが視線を泳がせて、汚らしいものでも見るようにタカシを見た。

「ん? 待って……て、ゆうことは、コウタくん、おとなの階段上っちゃった?」

 ユウコが疑念のこもった視線をコウタに向けた。

「はい?」

 コウタの声が裏返った。

「コウタ君とずっと一緒だったんだよね。ねえ、アオイちゃん」

 ユウコはアオイのほうを見て念を押すように言った。

「うん、わたし、コウタとずっといっしょ。コウタ、とってもやさしくしてくれた」

 アオイはにっこりと微笑を浮かべながらユウコの質問に答えた。

「やさしく、何をしてもらったの?」

『思った通り』とユウコは目を細めて、アオイに猫なで声で質問した。

「わっ、やめろ。騒ぎが大きくなる!」

 コウタは手をつないだことや抱きしめたことを思い出して赤面した。

 アオイがどのネタを話しても窮地に陥りそうだった。

「ごめん、みんな! 問題にするのはその部分じゃないと思う! コウタくんは大丈夫よ、多分……アカネちゃんも見張ってたし……」

 シノブが事態を収拾しようとフォローに入ったが、それは火に油を注ぐ結果にしかならなかった。

「ずっと、見張ってたって……マジ? ひょっとして、アカネちゃんもコウタくんと一つ屋根の下?」

 ユウコはシノブの言葉に隠れていた事実にすぐに勘づいた。

「そうよ! 悪い?」

 アカネはふてくされたような態度で開き直った。

 丁寧に説明するつもりは、さらさらないようだった。

「きゃー」

 女子一同から、歓声とも悲鳴ともつかない声が上がった。

「コウタ、コロス、百回コロス」

 アオイに相手にされなかったタカシが低い声でぶつぶつとつぶやいていた。

「私の立場は……」

 ピーラは話題から置いていかれて絶句していた。

 この星の住民たちは未知の知的生命体との接触よりも身近な色恋沙汰の方が重要らしい。

「諸君、ここはひとつ冷静になってくれ。宇宙からのお客さんが困っているじゃないか。今、決めなければならない重要案件は、アオイちゃんを今後どうするかだ。もし、ええと、ピーラさんでしたっけ。ピーラさんの言うとおりだとしたら、アオイちゃんのせいで地球は加速度的に少子化が進行し、種としての人類は絶滅への道を歩みはじめるということですよね?」

 ユウサクが立ち上がって演説した。

「なんか現実感のしない話だよな。少子化とか政治家も騒いでるけど」

 ノボルがぼんやりした口調で発言した。

「アオイちゃんの今後の扱いだけど、みんなは正体不明の謎の犬に、か弱い女の子を引き渡してもいいとでも思ってるのか?」

 コウタが強い口調で抗議した。

「アカネは、か弱くないと思うけど」

「引き渡されるのは私じゃなあい!」

 ふざけて発言したユウコにアカネが素早く反応した。

「すげーうそ臭い話だから。分裂するところでも見ないと信じられないよな」

 タカシはあくまでもそこにこだわっていた。

「そうだ諸君、騙されちゃあいけない」

 窓の外から、低くざらついた声が割って入ってきた。

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